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【特集】

「新しい食」をつくる

日本の伝統的食文化である「和食」が世界で人気だ。しかし、その発信源である日本では「和食離れ」が進んでいる。伝統を守り継ぐだけでなく、新しい食文化の創造も重要だ。新しい食の開発で先行する企業の取り組みを追った。
2020.02.28

冷凍の最適解を提案。特殊冷凍技術が食品ロスをなくす:デイブレイク

「冷凍食品はおいしくない」といわれたのは過去の話。小規模な生産者や飲食店も導入でき、味わいを保ったまま冷凍できる特殊な装置で、食品業界に革命をもたらそうとする専門商社の狙いとは。

 

 

規格外で出荷できないフルーツを特殊冷凍技術で冷凍したオリジナルのフローズン商品「HenoHeno(ヘノヘノ)」。鮮度はそのままでサクサクとかめる新食感が好評だ

 

 

10分で凍結、解凍後は元通り
一瞬で凍らせれば風味は損なわれない

 

アルコールで満たした槽に一口サイズのゼリーを浸す。アルコールの温度はマイナス35℃。10秒ほどでゼリーは白く凍り始め、わずか約10分で完全に凍結する。

 

「特殊急速冷凍」と呼ばれる技術の一例で、食品業界に革命をもたらすと近年注目されている。

 

「一般に“急速冷凍”といわれているショックフリーザーで50分かかる冷凍を、この冷凍機なら10分で終わらせることができます。肉や魚を冷凍しても解凍時にドリップ(解凍液)がほとんど出ず、色味や風味もほぼ元のまま復元できるのです」

 

そう説明するのは、デイブレイク代表取締役の木下昌之氏である。同社は日本で唯一の特殊急速冷凍機専門商社。急速冷凍技術を駆使し、食品ロスの低減を目指すスタートアップだ。2013年の創業以来、順調に成長を続け、現在(2019年12月)は月に約150件の問い合わせが国内外から寄せられるという。

 

特殊急速冷凍の何が革命なのか。秘密はその“凍結速度”にある。

 

水が氷になると体積が増えることは知られている。氷が水に浮かぶのは、体積が増えた分、水より比重が軽くなるためだ。

 

この性質は、食品を冷凍保管する上で、大きな問題となってきた。食品中の水分が凍結して氷の結晶に変化したとき、体積が膨張し、細胞を内側から破ってしまう。その結果、解凍すると、細胞内の成分がそこから溶け出して、本来のうま味が損なわれてしまうのだ。

 

食品中の水分はマイナス1℃から凍り始め、マイナス5℃でほぼ氷結する。「最大氷結晶生温度帯」と呼ばれ、この時間が長いと結晶は大きくなる。逆に、この温度帯を素早く通過する特殊急速冷凍であれば、結晶は小さくなり、組織の損傷が少なく済む。

 

魚や肉の冷凍ものは味が悪いとして、市場では一段低く見られることが多い。だが、特殊急速冷凍が普及して、冷凍ものでも品質は損なわれないとの認識が広まれば、市場の常識がひっくり返る可能性もある。

 

食品ロスの低減にも有効だ。魚は魚種によって、取り切れないくらいの大漁が続くこともあれば、まったく取れない漁が続くこともある。大漁が続くと相場は大きく値崩れしてしまい、魚市場まで届けられてもそこで廃棄処分となることが少なくない。だが、冷凍保管しておき、時間をずらして供給できれば、廃棄を減らせるばかりか、不漁続きの市場に大きな価値をもたらす。

 

また、冷凍肉を仕入れたレストランが、解凍してみるとドリップが多すぎて廃棄するというケースも多い。しかし、特殊急速冷凍された肉であれば、無駄に捨てられる食肉も減る。

 

「特殊急速冷凍といっても方法はさまざまです。冷媒としてアルコールを使ったり、高湿度の冷風を吹き付けたり、誘電装置で電気の力で冷やす方法もある。それぞれの装置で凍るときの水分の動き方が異なりますし、保管の方法によって、氷点下で熟成を進めたり、一切の熟成を止めたりということもできる。それによって解凍したときの身質や味もさまざまに変化します。

 

当社は複数メーカーの特殊急速冷凍機を取りそろえ、凍結状況を比較できるテストルームを備えています。お客さまが望む味を復元できる冷凍方法、保管方法、解凍方法を提案するためです」(木下氏)

 

 

高品質な冷凍とランニングコストの低減を同時に実現した「3Dフリーザー」(上)と、見た目や風味も生と変わらない品質をキープできる「リ・ジョイスフリーザー」(下)。その他、高品質解凍・鮮度保持庫や鮮度保持電場装置、長期保存冷蔵庫「氷感庫」、熟成ショーケース「氷点熟成機」など、大手急速冷凍機メーカーの機械を取り扱う

 

 

 

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