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【特集】

「新しい食」をつくる

日本の伝統的食文化である「和食」が世界で人気だ。しかし、その発信源である日本では「和食離れ」が進んでいる。伝統を守り継ぐだけでなく、新しい食文化の創造も重要だ。新しい食の開発で先行する企業の取り組みを追った。
2020.02.28

冷凍の最適解を提案。特殊冷凍技術が食品ロスをなくす:デイブレイク

さまざまな急速冷凍機を一度に比較できる凍結テストルーム。凍らせたい食品の凍結・解凍・試食と全ての工程を確認でき、最適な機種の提案や導入サポートも受けられる

 

 

メーカー中立の立場で特殊冷凍の目利きを提供

 

木下氏は、祖父の代から冷凍機の設置を請け負う設備工事店に生まれ、3代目社長を嘱望されて家業の会社に勤務。冷凍庫の設置や種類については一通りの知識・技術を身に付けた。

 

ところが、2010年に転機が訪れた。友人とタイを旅行していた時、木下氏は屋台で山盛りのフルーツが売られているのを目にした。しばらく見ていても、そう頻繁に買い手が付くわけでもない。本当にあれを売り切ることができるのだろうかと疑問を覚え、ガイドに尋ねてみると、やはり、売れ残るという。

 

「残ったらほとんど捨てられると聞き、もったいないなと思いました」(木下氏)

 

冷凍技術を使えば、何日も売ったり、商圏を広げたりすることができる。幼い頃から身近に冷凍機を見てきた木下氏にとっては当然とも言える理屈だったが、タイの露店には望むべくもなかった。

 

それと同時期に、木下氏は特殊冷凍技術を扱ったテレビ番組を見た。急速に冷凍することで鮮度を維持したまま保存できると紹介されていた装置は、意外なほど小さく、父の経営する設備工事店の顧客層ともマッチしそうだった。

 

「父に当社でも取り扱ったらどうかと提案したのですが、にべもなく却下されてしまいました。祖父の代から続く事業をきちんと受け継いでいくことを、父は望んでいたのです」

 

生じた亀裂が埋まることはなかった。木下氏は志を同じくする仲間を集めて、それから3年後にデイブレイクを起業。“特殊急速冷凍の専門商社”というユニークな事業を立ち上げた。

 

「当時でも、特殊急速冷凍を導入している食品事業者は全体の1%足らず。チャンスはあると確信していました」(木下氏)

 

新事業を立ち上げるに当たって最も重視したのは「中立」であること。ユーザーが特殊急速冷凍を導入したいと考えてメーカーに連絡を取れば、当然メーカーは自社製品の購入を勧める。だが、前述のように食品の種類や解凍後の味によって、最適な冷凍方法は異なる。デイブレイクはその間に立ち、要望を丁寧に聞いて最適解を提案することで、目利きとしての信頼を積み上げていった。

 

特殊急速冷凍のニーズは、鮮魚や食肉の卸売りにとどまらない。中食や飲食店においても、大きなインパクトが期待できる。

 

例えば、おせち料理を作る企業の間では、年末は極めて忙しくなるため、作り手の争奪戦が発生する。発送業務も煩雑を極めるため、間違いが発生しやすい。

 

 

 

すしを裸の状態で冷凍することも可能。解凍してもドリップがほとんど出ず、元の状態に限りなく近く復元できる

 

 

おいしさを食卓まで届ける工夫が家庭の食品ロスを削減する

 

だが、冷凍解凍しても味がまったく変わらないのであれば、1年をかけてゆっくりと仕込みを行い、保管しておける。年末は発注業務だけに集中できるので誤配のリスクも減る。需要をカバーするためには、ある程度、販売見込み数を上回る数量を作る必要があるが、冷凍しておけるとなれば、作り過ぎによる廃棄処分量も大幅に削減できる。

 

「雇用の安定にも寄与できますから、それで作り手のモチベーションが上がれば、よりおいしいものを作ってもらえるようになるのではないでしょうか」と、木下氏は波及効果への期待をのぞかせる。

 

一方、飲食業界にとっては新規事業の可能性が広がる。料亭で供する松花堂弁当をそのまま冷凍して低温輸送することで、全国あるいは世界でその料亭の味が楽しめるようになるかもしれない。

 

「作りたての熱いものを冷凍庫に入れると庫内の温度を高めてしまうので、これまでは避けられてきました。でも、天ぷらや唐揚げは、熱い状態のまま冷凍することでおいしさをキープできる。解凍しても衣はカラッとしたままですし、保存を工夫することで油の酸化も抑えることができます。焼き芋や焼き魚も作りたてそのままです」(木下氏)

 

すでにミシュランの三つ星を取っているレストランが導入しており、商圏の拡大に大いに貢献しているという。

 

設備工事の経験が豊富な木下氏は、自身でも装置の設置に出向き、冷凍した後の保管方法についてアドバイスも行う。

 

「凍っている肉でも空気に触れさせると、そこから味が落ちていってしまう。そういうことを知らないお客さまも多いので、『こうやって冷凍して保管してください』といったアドバイスは、よくさせていただいています」(木下氏)

 

食品の製造現場から小売店、飲食店、そして消費者までが冷凍に関する知識を深められれば、食品ロスは大きく軽減すると木下氏は力説する。

 

「おいしければ口に入れますが、おいしくなければどうしても残してしまう。それは仕方がありません。でも、冷凍はおいしくないというのは、私に言わせればもはや誤解です。ちゃんと冷凍して、ちゃんと保管して、ちゃんと解凍すれば、おいしくいただける。そうすれば、家庭レベルでの食品ロスも大きく削減できるのではないでしょうか」

 

いま同社では、食品業界や飲食業界の事情に合わせた低温ロジスティクスの構築を準備している。急速冷凍を代行することによって装置自体をシェアし、冷凍倉庫や冷凍車、冷凍空輸を駆使することで、おいしさをそのまま消費者に届ける。そんな冷凍インフラが出来上がれば、誰もが笑顔で、それとは気付かないまま、食品ロスの軽減に貢献できるようになるだろう。

 

「いつか、創業のきっかけになった、タイのフルーツロスを解決するソリューションも提供できたらと夢見ています」(木下氏)

 

 

冷凍はおいしくないというのは、私に言わせればもはや誤解です

デイブレイク 代表取締役 木下 昌之氏

 

 

PROFILE

  • デイブレイク㈱
  • 所在地:東京都品川区東品川2-2-33 Nビル5F
  • 設立:2013年
  • 代表者:代表取締役 木下 昌之
  • 従業員数:25名(インターン・アルバイト含む、2019年12月現在)

 

 

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