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【特集】

「新しい食」をつくる

日本の伝統的食文化である「和食」が世界で人気だ。しかし、その発信源である日本では「和食離れ」が進んでいる。伝統を守り継ぐだけでなく、新しい食文化の創造も重要だ。新しい食の開発で先行する企業の取り組みを追った。
2020.02.28

食品ロスを減らし生活困窮者を支援。「もったいない」から生まれた訳アリ品:日本もったいない食品センター

 

店内には、メーカー・卸から調達した食品が廉価で販売されている

 

 

安売り競争は決してしない
生活困窮者を支援し社会復帰を促す

 

ネットを介して支援先を募るだけでは、情報提供に偏りが生まれる。そこで実店舗の「ecoeat(エコイート)」をスタートさせた。

 

エコイートは、ノウハウ提供や商品の寄贈・買い取りを本部のNPO法人が行い、実際の店舗運営は会員である企業が行うというFC(フランチャイズ)方式だ。ただ、本部がロイヤルティーを受け取るのではなく、運営企業が利益の一部を本部に寄付する形式。その寄付金は、生活困窮者や福祉施設へ支援活動を行う原資になる。

 

「私たちの活動に賛同いただき、理解してもらわないと会員にはなれません」と高津氏は話す。賞味期限と消費期限の違いなど一歩間違えば大きな信用問題になりかねないリスクがあるだけに、理念を十分に理解し、知識もきちんと持つことを重視している。適切な保管状況にあるか、未開封であるかなど、品質をきちんと確かめて安全性に問題がないことを確認することが何より大切なのである。

 

また、価格競争を行わないというのも高津氏の信念だ。訳アリだから安いのであって、安く販売することが目的ではない。モノが移動し、ヒトが介在する限り、コストが発生する。たとえメーカーから商品を無料で提供されたとしても、販売費や一般管理費などのコスト発生は避けられない。

 

高津氏は「商品は無料でも、送料を着払いで受けるとそのコストが発生します。店頭で販売するには、人件費も必要。要支援者や施設に送るにも送料がかかります。だから、ディスカウントストアより高くなるケースもあります。しかし、全く考え方が異なるので競争する考えはありません」と強調する。

 

同氏が懸念するのは、同じような店舗を展開する企業がすでに登場していること。「賞味期限と消費期限の違いも理解せず、ただ安さで売る企業もあります。事故があれば大きな信用を一気に失うので、そこを懸念しています」と話す。もともとは「全国もったいない市場」という法人名だったが、類似店ができたため現在の名称に変更したほどだ。

 

現在(2020年1月時点)、エコイートは7店舗を展開。1号店の玉川店(大阪市福島区)は高津氏が経営する会社が運営しており、NPO法人の事業として独り立ちできているとは言えない状況だ。ただ、店舗数が増えて十分な寄付金が得られれば、運営と支援を両立できる可能性はあると高津氏は強調する。

 

同氏が目指すのは、市場規模300億円から800億円の規模だ。それ以上に拡大すると本来の流通に支障を来すという。数百店舗を展開し、たくさんの寄付を集めることができれば、より多くの生活困窮者を救うことができる。

 

「生活困窮者から支援要請があれば、2週間分の食品を送ります。要支援者は食べることができれば働くことができ、社会復帰が可能なケースは多い。支援した人から『就職できた』とか『今度は商品を買わせてほしい』と連絡をもらうこともあり、本当にうれしいですね」と高津氏は話す。2020年1月に開店したばかりの東京・町田店は、近隣2000世帯の支援を掲げている。

 

同氏は食品ロスの分野だけでなく、教育事業への進出も考えているそうだ。廃棄物の低減と生活困窮者の救済という両面を軸にしながら、さらなる新境地の実現に向けてアイデアを温めているのである。

 

食品ロスの分野だけでなく、教育事業への進出も考えています

日本もったいない食品センター 代表理事 高津 博司氏

 

 

 

Column

そもそも「賞味期限」って何?

「以前は、賞味期限を1日でも過ぎたものは食べたくないと思っていましたが、賞味期限の仕組みや消費期限との違いを知るほど、賞味期限切れは気にならなくなりました」(高津氏)

 

賞味期限とは、メーカーが「おいしく食べられる品質を保証する期限」のこと。期限が切れたところで、すぐに食べられなくなるわけではない。一方、消費期限とは、傷みやすい食品が「安全に食べられる期限」のこと。消費期限が過ぎれば安全性は確保されない。この二つの期限は混同されやすく、多くの人に「賞味期限切れ=危険」と思われているのが現実だ。また、メーカー側は商品回転率をアップさせたい思惑から、賞味期限を短く設定しているケースもあるという。

 

さらに、食品流通の世界には「3分の1ルール」というものがある。賞味期限の3分の1が“納品期限”とされ、それを経過した商品は小売店へ納入されず店頭に並ばない。そこからさらに3分の1を経過した日が“販売期限”とされ、店頭から撤去されて廃棄されたり、見切り品として値引き対象となったりする。こうした商習慣が、食品ロスを生む原因にもなっているのである。

 

この商習慣を変えることは店舗のイメージダウンにつながりかねないため、変えることはなかなかできないのが現状だ。しかし食品ロスに対する消費者の意識も変わってきた。数字(期限日)をうのみにせず、においや見た目なども確認してから判断する消費者が増えれば、食品ロスは大きく削減に向かう可能性がある。エコイートは、そんな消費者を1人でも増やすための強力な啓発店舗となっている。

 

 

 

 

PROFILE

  • 特定非営利活動法人日本もったいない食品センター
  • 所在地:大阪府大阪市福島区玉川4-12-3 1F
  • 設立:2017年
  • 代表者:代表理事 高津 博司

 

 

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