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【特集】

「新しい食」をつくる

日本の伝統的食文化である「和食」が世界で人気だ。しかし、その発信源である日本では「和食離れ」が進んでいる。伝統を守り継ぐだけでなく、新しい食文化の創造も重要だ。新しい食の開発で先行する企業の取り組みを追った。
2020.02.28

食品ロスを減らし生活困窮者を支援。「もったいない」から生まれた訳アリ品:日本もったいない食品センター

食品が大量に廃棄される一方で、その日の食事すらままならない生活困窮者が増加している。そうした人たちを支援するため、衛生上の問題がない廃棄食品を低価格で販売するのが日本もったいない食品センターだ。

 

 

賞味期限とは、メーカーが「おいしく食べられる品質を保証する期限」のこと。期限が切れたところで、すぐに食べられなくなるわけではない

 

 

本来食べられる食品を残さず消費できるように
きちんとした知識がロス低減につながる

 

日本で排出される食品廃棄物量(年間2759万t)のうち、まだ食べられるのに廃棄される「食品ロス」は643万tに上るという。これはWFP(国連世界食糧計画)が飢餓で苦しむ人々に行った食糧援助量(約380万t、2017年実績)の1.7倍に相当する。10tトラック約1760台分の食品を毎日捨てている計算だ。

 

「食べられる状態の食品が廃棄される一方で、日本国内にはその日の食べ物さえ手に入れられない人がたくさんいます。その不条理をどう解消するのか」

 

そう話すのは、特定非営利活動法人(NPO法人)日本もったいない食品センターで代表理事を務める高津博司氏だ。同センターは、メーカー・卸から賞味期限が近い、または期限切れの食品を調達(寄贈・買い取り)し、廉価販売や無償提供(支援団体など)を行っている。「本来食べられる食品を適切に取り扱い、廃棄されることなく消費される」というのが基本的なコンセプトだ。

 

持続可能な発展が世界中で提唱される中、食品ロスをいかに減らすかが大きな課題となっている。ただ、高津氏がその取り組みをスタートしたきっかけは、「社会の問題を解決する」という強い思いからではなかったという。

 

もともと高津氏は国家公務員だったが、辞めて商社を起業した。当初、食品はリピート率が高いものの、薄利多売で賞味・消費期限もあり「ロスが大きい」として取り扱いを敬遠していた。

 

しかし、ある時、好きな菓子を取り扱おうとメーカーに問い合わせたところ、出荷の最低ロットはトラック1台分、しかも賞味期限は1カ月しかないという厳しい条件だった。いくら好きでもそんなに食べられない。高津氏は福祉施設や自然災害の被災地に送ろうと思ったが、「量が多すぎる」「賞味期限が短い」と断られた。

 

「引受先がなければ廃棄されてしまうと気付き、それなら売ればいいじゃないか、と考えたのです」(高津氏)。そこで自社のインターネット事業部を通じ、訳アリ品として販売に踏み切った。

 

高津氏は賞味・消費期限の仕組みや法規制などを勉強し、食品流通の「3分の1ルール」(コラム参照)や賞味期限の設定など、さまざまな商習慣やメーカーの都合と思惑を知る。あらかじめ食品ロスが生まれることを前提とした仕組みに対し、「もったいない」と強く感じたという。

 

賞味期限切れの商品を訳アリ品として安価でネット販売したところ、売れ行きは良かったがクレームも少なからずあった。賞味期限切れを明示しても、「なぜ、賞味期限切れの商品を売るのだ」という批判が寄せられたのだ。同氏は賞味期限の意味や消費期限との違い、品質に問題がないことを一つ一つのクレームに丁寧に答えた。すると、きちんと理解が得られた人はリピーターになってくれた。

 

つまり、食品ロスを生む原因は知識不足であり、量を減らすには啓発活動が欠かせないと痛感したのである。

 

訳アリ品をネットで販売するだけでは食品ロスは減らない。そこで生活困窮者に対する支援品として提供する活動に乗り出す。支援活動は企業活動になじまないとして、2017年2月にNPO法人を立ち上げた。

 

「デンマークでは、NPO法人が賞味期限切れの食品を販売するスーパーマーケットをオープンし、政府が大々的にバックアップしていると知り、いずれ日本もそんな時代になるだろうとの思いでNPO法人にしました」(高津氏)

 

※農林水産省・環境省推計(2016年度、出典:消費者庁「食品ロス削減関係参考資料」2019年11月29日版)

 

 

 

 

 

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