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【特集】

「新しい食」をつくる

日本の伝統的食文化である「和食」が世界で人気だ。しかし、その発信源である日本では「和食離れ」が進んでいる。伝統を守り継ぐだけでなく、新しい食文化の創造も重要だ。新しい食の開発で先行する企業の取り組みを追った。
2020.02.28

食の輸出支援プラットフォーマー 日本食と世界のバイヤーを結ぶ:umamill

2019年3月、海外の食品バイヤーと日本の食品メーカーをつなぐ日本食輸出支援プラットフォームがスタートした。ソフトバンクの社内起業制度から誕生した「umamill」だ。サービス開始1年足らずで多数の支援実績を上げ、食品企業の注目を浴びている。

 

 

栃木県の冷凍和菓子メーカーが製造した「生クリームいちご大福」。1個約430円(日本円換算)と高単価ながら、シンガポールでは2週間に1100個以上を売り上げた

 

 

海外でニーズ高まる日本産の食材・食品

 

2013年12月に「和食」がユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されて以降、海外で日本産食材・加工食品に対する評価が高まっている。農林水産省によると、海外の日本食レストラン店舗数は15万6308店(2019年時点)に上り、2013年(約5.5万店)から倍増した。また日本の農林水産物・食品輸出額は2019年に9121億円(前年比0.6%増)と7年連続で増加し、過去最高を更新した。

 

この世界的な“日本食ブーム”の背景には、安全かつ良質で付加価値の高い生鮮三品(青果・鮮魚・精肉)や加工食品が挙げられる。例えば、日本産の果物や清酒、ウイスキーなどは物によって国内以上の高値で取引されるケースがある。訪日外国人観光客が日本滞在で最も期待していることのトップは「日本食を食べること」(70.5%、観光庁「訪日外国人の消費動向(2018年)」)だという。

 

ただ、日本の食(食材・食品)の輸出が十分に進んでいるかというと現状は心もとない。2019年の農林水産物・食品輸出額(速報値、2020年2月7日現在)が微増にとどまり、2019年の政府目標(1兆円)には手が届かなかった。東京電力の福島第1原発事故による輸入規制を維持する国・地域も少なくない。

 

欧米や中国の他、インド、東南アジア、中東などの新興国でも日本の食に対するニーズが高まっていくことは間違いない。だが、食の輸出には国際認証取得や通関手続きなどで専門知識を求められる場合が多く、食品産業の大半を占めるといわれる零細・中小事業者が自前で対応するのは簡単ではない。

 

 

始まりは、ソフトバンクの社内ベンチャー

 

海外市場と日本の生産者との間にある大きな隔たりを、個々の事業者が埋めていくのは容易ではない。公的機関や金融機関などが輸出を後押ししているものの、広く浸透しているとは言い難い。

 

一方、海外バイヤーが現地で日本の食材・食品を調達するのも困難が伴う。「日本で人気の食品を、現地にいながらいち早く知りたい」。そんなニーズも年々高まっているという。こうした声に応えつつ、日本の食品輸出の後押しに挑戦しているのがumamillである。

 

同社は2019年4月、ソフトバンクグループの中核会社である「ソフトバンク」(旧ソフトバンクモバイル)の完全子会社(SBイノベンチャー)が設立した社内ベンチャーの一つ。海外での日本食の仕入れ業務をサポートするサービスを展開している。海外のバイヤーは同社のプラットフォーム(以降、PF)を通じて、日本の複数メーカーから食品のサンプルを無償で取得して試食できる。仕入れを希望する商品は、商談後に指定サプライヤーから調達可能だ。

 

日本の食品メーカーも、輸出のための申請や細かい規制など面倒なやりとりを同社に任せられる上、言語の違いを心配することなくサンプル品を海外に送り出すことができる。umamillの執行役員CSO(最高戦略責任者)である伊藤一仁氏は、「日本食を海外に出す上で壁となっているコスト、ノウハウ、言語という三つの課題に焦点を絞って、PFの構築を進めています」と話す。

 

「当社はソフトバンクグループの社内ベンチャーの一つです。さまざまな社会課題の解決を通じて、新事業の創出を目指す取り組みの一環で誕生しました。社内外のネットワークで情報収集や議論を重ねる中、日本食の輸出のハードルの高さに着目し、その解決を目指すべく2019年にPFを立ち上げました」(伊藤氏)

 

 

 

umamillが取り扱う全国のさまざまな特産品。北海道産「ゆめぴりか」(上)、岐阜県産「サクラ咲くロール」(左下)、長崎県産「藍の青いお茶」(右下)

 

 

全国の有望な食品の発掘と輸出支援を使命に

 

日本の事業者はumamillのPFを活用することで、海外バイヤーに向けて過大なコストをかけることなく試食用サンプルを届けることができ、かつ海外販路の開拓機会も得られる。さらに、原産地証明書の取得をはじめ輸出可否判断や貿易実務など、一事業者で対応が困難な手続きも代行してもらえる。

 

海外バイヤーとの商談が成立すると、umamillが指定サプライヤーから商品を仕入れて海外商社に販売する。その際、umamillは輸出費用や手数料を海外商社に請求するため、日本の事業者は負担が実質的に生じないというメリットがある。

 

「もともと、農産物の国際基準である『グローバルギャップ(GGAP)』認証の取得が難しいという話から始まりました。当初はシステム上で認証を取得できる仕組みを提供するビジネスモデルを検討していましたが、それだけでは輸出を希望する事業者の方々のニーズへ十分に応えることができないと判断したのです。そこで、輸出に関する入り口から出口まで、全てのソリューションを提供するという考えのもとでビジネスモデルを作り上げてきました。輸出に成功した後も、ビジネスのスケールアップに向けた支援を行い、国内事業者の方々の持続的な成長に貢献していく考えです」(伊藤氏)

 

同社は、農林水産省が推進するGFP(農林水産物の輸出プロジェクト)の趣旨を踏まえ、民間企業としての貢献を目指している。「日本全国には海外に紹介すべき価値ある食品がたくさんあり、その発掘と輸出支援こそが当社の使命」と伊藤氏は語る。現時点(2020年1月現在)で輸出が可能な地域はシンガポールのみだが、今後は欧米やアジア、オセアニア、アフリカなど世界を網羅するネットワークを構築していく考えという。

 

 

海外現地の食のニーズに即した商品企画を支援

 

umamillはスタートして1年足らずだが、すでに成果が上がっている。例えば、栃木県の冷凍和菓子メーカーが製造した「生クリームいちご大福」は、シンガポールにおいて1個約430円(日本円換算)と高単価ながら2週間で1100個以上を販売することに成功した。また同じく栃木県の食品メーカーは、海外バイヤーからニーズの高い玄米仕様の乾麺の開発要望を受けて製品化。これにより独占販売の契約を結んだ。

 

「シンガポールは経済発展が加速しているとともに世界有数の健康推進国。こうした背景から、健康に良いとされる玄米を好む傾向があります。そこで、日本では見慣れない玄米を用いた麺製品の開発を提案しました。また、現地の飲食店などでは料理人のコストが高かったり、創作性のある料理を作れる人材が少なかったりするため、調理の手間がかからない半製品が重宝されます。当社は世界規模の情報ネットワークを生かし、国ごとの市場特性を踏まえた商品探しや企画をできる点が、事業を進める上での強みとなっています」(伊藤氏)

 

umamillは、海外バイヤー・国内事業者ともにサイト上の「新規会員登録」から情報を入力して登録するだけで利用できる。現在、地方公共団体(北海道上士幌町、京都府宇治市、奈良県田原本町、愛媛県八幡浜市、長崎県雲仙市など)や金融機関(栃木銀行、横浜信用金庫)と業務提携を進めており、地域の食品メーカー・生産者の登録が増加中。ウェブ上にはサンプルの取り寄せが可能な商品(月のサンプル依頼商品数は10点まで)を多数掲載している。

 

 

 

 

 

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