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【特集】

建設テック

「Construction(建設)×Technology(技術)」の融合で、建設業の生産性向上と技術革新を図る動きが活発だ。AI 活用やドローン 3D測量、XRなどの最新技術を建設現場に全面導入し、土木・建築・設計の常識を覆しつつある事例を紹介する。
2020.01.31

独自の三種の神器で生産性向上を実現:正治組

 

ツールを駆使して精度・利益・効率を向上

 

正治組は2018年、優れたICT施工を表彰する「i-Construction大賞」(国土交通省主催)の優秀賞を受賞した。評価の対象となったのは、2016年9月~17年6月に施工した静岡県伊豆の国市の長塚橋橋脚の補強工事。従来の工法であれば、足場を組んで糸を張って「吹付厚」を測定していく。人力で行うため前工程だけでも多くの時間とコストがかかる。

 

「ところがレーザースキャナーだと半日作動させるだけで複雑な構造物の状態を3Dデータ化できます。3Dデータを取って鉄筋を立て込み、乾式吹き付け工法(ポリマーモルタル)で補強しただけ。施工後の構造物が、目標としている規格基準を満たしているかどうかも3Dデータを確認すればいいだけなのです」(大矢氏)

 

足場などの資材が不要な上、工期が短いので人件費などのコストを抑えられて粗利益率も上がる。土木工事では一般的に粗利益率は15%前後だが、正治組では全ての工程を内製化することにより50%前後を上げる現場も珍しくないそうだ。

 

さらに同社のICT施工を語る上で不可欠なのが、「クラウド」である。測量した3Dデータや図面、工程表、契約書類、工事の出来形の画像など、全ての工事関連のデータは、工事ごとにファイリング。それらはクラウド上で管理されている。社員なら誰もが閲覧できるため、自分自身が担当していなかった過去の工事のデータからも、さまざまなことを学ぶことができる。

 

「今までの建設業界は、『俺の背中を見ろ』といった教え方でしたが、当社は『クラウドを見ろ』です。その方が若手社員は完成イメージを容易に想像できることから仕事を覚えやすく成長も格段に早い」と屈託なく笑う大矢氏。正治組は、「ワンマン測定」「レーザースキャナー」「クラウド」という“三種の神器”をつなぎ合わせることによって、土木工事の在り方を大きく変えた。

 

 

ノウハウを他社にも伝えICT施工を業界に広める

 

数多くのICT施工を手掛けてきた大矢氏は、国土交通省の「ICTアドバイザー認定証」を取得。工事の合間に全国を飛び回り、講演活動も精力的に行う。作業員の高齢化や人手不足などに悩む建設会社の支援につながると考え、自社の取り組みを積極的に紹介。講演活動で出会った各地の建設会社から、社員教育の受け入れも行っている。

 

「『百聞は一見にしかず』の言葉通り、とにかくICT施工を自分で経験した方が効果を実感できます。そこで他社の社員をOJTで受け入れ、実際の工事を経験してもらっています。OJTの経験を自社に持って帰って、すぐに実績を上げている人もいて、少しずつですがICT施工が広がっていることを実感しています」(大矢氏)

 

また、大矢氏は有志による建設事業者のネットワーク組織「やんちゃな土木ネットワーク」(YDN)を立ち上げ、新しい測量方法や工法などについて日々、意見交換をしているそうだ。現在の参加企業は十数社。会員はそれぞれドローンによる測量や3D設計など得意な分野でアイデアを出し合うだけでなく、人材育成や資材購入の共同化などが可能だ。

 

2019年10月、伊豆半島に甚大な被害をもたらした台風19号は、正治組の地元・伊豆の国市に近い函南町でも土砂崩れや水道管の破損を引き起こした。この復旧工事に同社も携わり、被害に遭った現場をレーザースキャナーで測量して点群データを作成。当初10日かかるとされていた工事を、スピーディーな測量により半分の5日で終了させた。災害で不便な生活を強いられる住民の負担を和らげたが、それでも大矢氏は「5日も断水の生活を強いられた人がいる。もっと早く工事ができるようにしたい」と満足していない。そこには、どこまでも貪欲に土木工事の進化を追い求める姿があった。

 

 

今までの建設業界は、「俺の背中を見ろ」
といった教え方でしたが、当社は「クラウドを見ろ」です

正治組 土木部部長 大矢 洋平氏

 

 

PROFILE

  • ㈱正治組
  • 所在地 : 静岡県伊豆の国市南江間1930-24
  • 設立 : 1968年
  • 代表者 : 代表取締役 正治 恵
  • 従業員数 : 16名(2019年12月現在)
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