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【特集】

成長M&A

かつてM&Aといえば「乗っ取り」「身売り」など暗いイメージが付きまとったが、いまや多くの企業が持続的成長を図る手段として選択する時代になった。後継者難、本業の競争力低下、早期の新規事業開発など、一筋縄ではいかない経営課題を最短距離で解決したM&A事例をリポートする。
2019.12.27

M&Aによる海外進出を支援。良質な案件を数多く提供:BIZIT

 

 

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人口減少による内需縮小で国内市場に成長機会を求めにくい時代。そんな中、海外のM&A案件を手軽に探せるプラットフォームを運営し、中小企業の海外市場進出を後押しするベンチャーが注目されている。

 

 

グローバル案件が1200 件
エリアも業種もさまざま

 

ジェトロ(日本貿易振興機構)が実施したアンケート調査によると、中小企業の約6割は海外進出を拡大する意向があるという(2018年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」)。だが、中小企業が海外で事業を展開するハードルは高く、そう簡単にはいかない。この現状をクロスボーダーM&A(国際間のM&A)によって打開してもらおうと支援している企業がBIZITだ。

 

同社は、M&Aマッチングプラットフォーム「BIZIT M&A」を運営するベンチャー。M&A仲介サイトの多くは買い手も売り手も日本企業だが、BIZIT M&Aは国内の買い手と世界中の売り手をマッチングさせる。 

 

「売り手側の案件は、海外を中心に集めているのが大きな特徴です。そこにフォーカスしているプラットフォームは、国内では私たちだけだと自負しています」と、取締役COO(最高執行責任者)の武信雅之氏は言う。

 

もともとBIZIT M&Aは中小企業向け海外進出支援会社の「Tryfunds」がスタートしたサービスだ。事業構想から開発まで約7年の時間をかけ、2018年10月に本格始動した。2019年8月にM&Aプラットフォーム事業を分離し、別会社としてスピンアウトしたのである。

 

サービスが始まって約1年が経過した現在(2019年11月時点)、M&A案件情報数は1200件以上、ユーザー数は5000社を超え、世界158カ国にネットワークを構築している。エリアの構成比はアジアが51%と最も高く、米州が25%、欧州が18%。業種に制限はなく、IT、建設、産業機械、エネルギー、食品関連、ヘルスケア、アパレルなど幅広い。案件の規模は、10億円までが69%、10億~50億円が26%。この規模に、実は大きな意味があるという。

 

 

国内では手に入らなかった中小規模案件を収集

 

日本の中小企業が外国企業とのM&Aを望んでも、ちょうどよい規模の案件を探し出すのは至難の業だ。100億円規模の大企業向けの案件は大手金融機関などが扱っているが、中小規模の案件はなかなか見つからない。中小企業が自力で探そうにも、どこを探せばよいものかが分からなかったり、見つけたとしてもベストの選択肢がなかったりするのが実情である。また海外の売り手も、日本の中小企業にリーチしたくてもつながるルートがなかった。

 

BIZIT M&Aにはそうしたニーズに応えられるような案件が1200件以上も集まっていて、世界中の売り手とウェブ上で簡単につながることができる。なぜ、これほどの案件を集められるのだろうか。

 

「案件を収集するチームメンバーが地道に海外の投資銀行などに電話やメールをしてネットワークを広げました。今では月平均100件ほどの新規案件を掲載できる体制が整っており、国内では唯一無二の存在だと思います」と、シニアディレクターの清水雄大氏は話す。

 

「私たちのプラットフォームは多言語に対応しています。また清水をはじめ、案件を収集するメンバーは全員、グローバルな市場での経験が豊富なので、海外の顧客と直接やりとりしてリアルタイムで案件をピックアップすることができます。こうした体制が私たちの大きな強みです」(武信氏)

 

BIZITの社員はコンサルティングファームや国内外の銀行、投資銀行、証券会社、商社、ウェブサービスなどの出身者が多い。こうした多種多様な人材によって、他社が簡単にはまねのできないノウハウが生み出されている。

 

 

海外企業とのM&Aで目指す成長のための事業承継

 

事業承継の問題を抱える中小企業の中には、事業売却や廃業・清算の道を選ぶところも多い。また、無事に事業承継を終えて会社が残っても、その先をどのように成長していくかという問題に直面する。

 

「事業の後継者がいない場合であっても、廃業するのではなく、(現社長の)血縁者ではない人を経営者に据え、ビジネスを継続するという選択肢があります。また、内需縮小で成長機会がなくなっている、特に地方の中小企業にとっては、海外企業とのM&Aは一つのソリューションになるのです」(清水氏)

 

海外で新たに事業を始めるとなると、オフィスの開設や人材の確保、許認可の取得、販路の開拓などにコストがかかり、利益を確保できる保証はない。ところが、M&Aであれば、すでにそこにビジネスが存在している。経営リソースが整い、人材や現地のネットワークなどをすぐに活用できる上、ビジネスのノウハウも蓄積されているので確実性が高く、リスクもコストも下げられるという側面がある。

 

「日本の中小企業にそういう意識を持っていただけたら、海外進出の機会は増えるし、事業展開のスピードも上がると思います。日本の中小企業の成長のための選択肢の一つとして海外企業とのM&Aがあることをもっと知ってもらいたい」(清水氏)

 

取引先の大手企業が海外に進出し、それに合わせて自社も海外に出たものの、現地では日系企業の仕事以外に販路の広がりがないという中小企業は少なくない。顧客である日系企業の業績が低迷したり、撤退したりした場合、事業継続が難しくなる。そのような最悪の事態を避けるためにも、海外の現地企業とのM&Aは有効な手段となる。

 

 

日本企業が世界のM&Aを閲覧

 

 

掲載案件は51%をアジアが占め、規模は10億円以下が7割

※ 四捨五入の関係上、合計が100%にならない場合がある

※ 四捨五入の関係上、合計が100%にならない場合がある

 

 

 

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