TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

成長M&A

かつてM&Aといえば「乗っ取り」「身売り」など暗いイメージが付きまとったが、いまや多くの企業が持続的成長を図る手段として選択する時代になった。後継者難、本業の競争力低下、早期の新規事業開発など、一筋縄ではいかない経営課題を最短距離で解決したM&A事例をリポートする。
2019.12.27

第一印象を大切に、真摯な姿勢でM&Aを成功へ:ハヤブサ

何事も率直に話し合う姿勢で、商談を円滑に

 

こうした事情をM&A仲介事業者から事前に聞いた哲也氏は、「交渉は容易ではない」と危惧した。そこで心に決めたのが「何事も誠実に率直に話し合う」という姿勢だった。M&Aの交渉では、とかく腹の探り合いばかりで、手の内をなかなか見せないといった場面が少なくない。まして、自社にとって都合の悪い情報はなるべく開示したくないという心理が働くため、せっかくまとまりかけた交渉が少しの行き違いで破談になりかねない。

 

その点、ハヤブサとレインは「何事も率直に話し合う」という姿勢がうまくかみ合った。哲也氏が、「どうなるか心配はしたものの、第1回の協議の時点から好感触だった」と語るように、双方とも相性の良さを実感したという。

 

2018年7月に行われた初回協議が円滑に終わったことから、8月には情報開示へと進んだ。それと併せて、哲也氏は社内で商品開発や営業の部門長と対話を行い、M&Aの有望性について忌憚のない考えを聞いている。

 

「両部門長から『レインに対してマイナスイメージは湧かない。むしろシナジーなどプラス面をイメージできる』と前向きな意見をもらい、交渉をさらに進めていこうと意を強くしました」(哲也氏)

 

9月には両社のトップ会談が実現。互いの懸念事項を確認した。ここでも話し合いが順調だったことから、11月にはタナベ経営に依頼して財務面や事業面の調査を行った。12月に入り、届いた中間報告書を読んで問題がないと判断した哲也氏は、年内に資本提携の契約を結ぶ決断を下した。

 

交渉の過程で問題となった項目は少なかった。ただ、特に時間をかけて慎重に行ったのが、レインの社長の処遇であった。「交渉を重ねた結果、退職金をお支払いした上で代表取締役社長を退任後、引き続き顧問としてレインで活躍していただく形で決着しました。また、『株式会社レイン』は存続させ、認知度の高いブランドもそのまま残しています。もちろん、従業員の方々は雇用を継続することとしました」(哲也氏)

 

また、契約に先立ち哲也氏は帳簿上で資産価値を精査するとともに、倉庫などの現場に赴き設備や在庫などを確認。帳簿と実際の食い違いがないか綿密に確認した。この点でも事前に伝えられた情報通りで想定外の事項はなかった。それが契約に踏み切った理由の一つとなった。

 

 

両社の強みを生かした商品の共同開発を目指す

 

資本提携の契約が完了すると、哲也氏はまず両社の従業員にその旨を伝えた。互いにライバル関係であった企業同士の縁組みは、驚きと好感を持って迎えられた。さらに年明けには業界新聞で資本提携を発表し、すぐさま展示会での共同出展となった。

 

ハヤブサは3名の従業員をレインの社長および取締役として派遣した。人材育成を次代の成長の重要な基盤に掲げるハヤブサとしては、「経営人材の育成という観点から、従業員にとって貴重な経験になるはず」と哲也氏は期待する。

 

さらに、レインのガバナンス向上にも取り組んでいる。就業規則や給与体系を見直し、「従業員が従来以上に安定した気持ちで仕事に取り組んでもらえる会社づくり」を目指しているそうだ。

 

また、事業体制の強化にも着手。資金の提供を通じて商品開発力の向上を図るとともに、協力工場のネットワークを活用して増産体制の強化を進めている。

 

今後、哲也氏は日本国内におけるレイン商品のシェア拡大を進める一方、海外での販売拡大も考えている。

 

「レインのワームはフランスなどで人気が高いことから、欧州やロシアでの売り上げアップが見込めます。加えて、大市場である米国での浸透を積極的に図っていく考えです。商品開発の点では、例えばワームに関して両社それぞれで強い分野があり、補完し合う関係であることから、ブランド価値の向上につながると考えます。いずれは両社の強みを生かして商品の共同開発を検討していきます」(哲也氏)

 

M&Aの成功要因について聞いたところ、哲也氏は「第一印象が大切」と述べた。

 

人と人の出会いと同様、企業同士の合併・買収も初めの印象が肝心と言える。そのためには、互いに率直に話す、情報を開示するなどの姿勢が欠かせない。

 

そして、経営トップが率直に話せるだけの事業内容の充実性、ガバナンスの整備があってこそ、相手に対してより良い第一印象をもたらすことができる。M&Aという場面においても、日頃の経営努力の積み重ねがその成否を左右するのは言うまでもない。

 

 

企業同士の合併・買収も初めの印象が肝心です

ハヤブサ 常務取締役 歯朶 哲也氏

PROFILE

  • ㈱ハヤブサ
  • 所在地 : 兵庫県三木市吉川町大畑341-23
  • 創業 : 1959年
  • 代表者 : 代表取締役社長 歯朶 由美
  • 売上高 : 29億2000万円(2018年12月期)
  • 従業員数 : 153名(2019年11月現在)

 

 

1 2
成長M&A一覧へ特集一覧へ特集一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo