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【特集】

成長M&A

かつてM&Aといえば「乗っ取り」「身売り」など暗いイメージが付きまとったが、いまや多くの企業が持続的成長を図る手段として選択する時代になった。後継者難、本業の競争力低下、早期の新規事業開発など、一筋縄ではいかない経営課題を最短距離で解決したM&A事例をリポートする。
2019.12.27

中小企業のM&Aで廃業危機を救うプラットフォーム:TRANBI

 

全国の金融機関と提携し、中小企業に広く知られる

 

前述したように、事業承継やM&Aを実施する際の最も高いハードルは「買い手を探すこと」だ。仲介会社は、売り手の提示価格などの条件を聞いて譲渡先を探すのだが、興味を示す会社や経営者が現れないケースもある。仲介会社のネットワークは人に頼る部分があり、しかも売りやすい案件から優先的に取り扱う傾向にあって、全ての企業に門戸が開かれているとは言い難い状況だった。

 

「オンラインで売りたい会社の情報を匿名でアップし、買い手が直接、閲覧できるプラットフォームを構築できれば、従来型の仲介会社を経由するより、はるかにスピーディーに多くの人からオファーを受けることができます。また、売買の当事者で条件を決める仕組みにすれば、コストも抑えられる。そんな考え方から事業承継とM&Aのプラットフォームを考えました」(高橋氏)

 

ただし、当初は関係者から事業として成り立たないと判断され、しばらくは高橋氏1名体制のプロジェクトとして運営していた。

 

ところが、思ったよりも反響があり、口コミで中小企業の経営者に知られるようになったため、2016年に分社化してトランビを設立。加えて、大きな転機になったのが、日本銀行が開催した勉強会での講演だった。

 

中小企業の事業承継問題は日本経済の課題でもあることから、高橋氏が出講依頼を受けてTRANBIの取り組みを紹介。すると全国の信用金庫や地方銀行が強い興味を示した。

 

地方の金融機関にとって、顧客である中小企業の廃業は大きな痛手となる。中小企業の事業存続を担うTRANBIは願ってもないサービスとして受け入れられ、全国の金融機関へ徐々に広まりつつある。

 

さらに、金融機関に認知されてきたことで、税理士法人や弁護士法人といったM&Aの際に必要な手続きを行う専門家にもTRANBIの存在が知られるようになった。現在、同社と提携する金融機関は176行、M&A専門家も113法人に増えた。

 

 

使いやすく機密も守れる仕組みを構築する

 

TRANBIのユーザー数は4万超、累計マッチング数も1万7000件を超えている(2019年11月現在)。ここまで増加した理由の一つは、使い勝手の良さである。まずは会員登録を行い、会社を売却したい人は、所在地や事業内容、売上高、営業利益、売却希望額などの基本情報と、自社の強み・弱み、市場特性、顧客層などを入力する。買い手は、地域や業種、譲渡金額などから売却事業を検索することができる。

 

「売り手は登録時も事業を行っているので、匿名にするなど特定できないように配慮しています。また、買い手も匿名で応募し、売買の詳細事項を決める段階になってから実名に切り替えるという仕組みを採用しています」(高橋氏)

 

条件交渉はTRANBIのプラットフォーム内の交流ルームで行う。登録後10日以内に、平均で11社程度の買い手から、売り手への打診があるという。買い手も常に1400件を超える登録案件から購入したい会社を探せる。また、契約書のひな形を無料でダウンロードできるので、現地視察や面談を除けば、売買はTRANBIのプラットフォーム内で完結する。

 

さらに、M&A成約時に譲渡金額の3%の利用手数料が発生する以外、サービスの利用は全て無料。交渉時のアドバイスや契約に関する手続きを行ってくれるM&A専門家を無料で紹介するオプションもある。

 

 

TRANBI利用の流れ

■ マッチングに特化しているため、FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)業務・仲介業務は行わない

■ マッチングに特化しているため、FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)業務・仲介業務は行わない

 

 

スタートアップ時に人材や資産を保有できる

 

TRANBIでのM&Aの在り方はさまざまだ。例えば、長野県のホテル経営者A氏は、高齢に伴い第三者承継をしようとメインバンクに相談したものの、「0円なら買い手は見つかるだろうが、手数料が2000万円は必要」と拒絶され、諦めかけた時に新聞記事でTRANBIを知った。

 

早速、登録をすると21社から問い合わせがあった。A氏はTRANBIから交渉代理人となる会計士の紹介を受け、最終的に愛知県の不動産会社へ8000万円で譲渡したという。

 

「このホテルは債務超過だったため、地元の金融機関も手を出さなかったのですが、買い手の不動産会社は新規事業として買収しました。新規事業としてゼロからホテル経営をする場合、スタッフの人材確保や運営方法の確立などに時間と資金が必要です。しかし、M&Aなら人材やノウハウをそのまま譲り受けられる上に、既存顧客もいるので広告費を削減できる。ホテルの有形無形の財産を引き継ぐことで、通常だと数億円はかかるところ、8000万円で新規事業をスタートできるというメリットがあったのです」(高橋氏)

 

他にも、家族経営をしている町工場の第三者承継では、17社の買い手候補の中で最も強い関心を示していた20歳代の若者と社長が面談で意気投合し、譲渡を決定した。

 

ソフトウエア会社が、システム開発・保守の技術支援サービス会社を4億円で購入したケースもある。こちらは人手不足のIT業界における人材獲得と、自社の既存事業とのシナジー(相乗効果)を狙ったM&Aで、オーナー社長以外の全従業員をそのまま継続雇用し、事業拡大を図っている。

 

このように、新分野への進出や自社とのシナジーを狙うM&Aのニーズは高い。また、大手企業からの「より効率的かつ迅速に大規模M&Aを実施したい」との要望に応えるべく、トランビは会員制で案件規模の大きなM&Aをマッチングさせるサービスも開始した。30億円以上の案件を専門に扱う「プライム30」、300億円以上の「プライム300」である。

 

「特に上場企業のニーズが高まっています。最近では、新しく飲食業に進出したい企業が、複数の店舗を持つ飲食チェーンを30億円で購入したケースがあります。二つの新サービスで、大手企業のニーズにも応えていきます」(高橋氏)

 

加えて、M&Aに必要な知識を伝えるサービスの強化を図り、事業の売買に不可欠な決算書の見方など「経営力」を高めるセミナーや学習システムも提供する計画だ。価値ある事業が一つでも多く承継されるよう、トランビは日本に「M&A文化」を根付かせる活動を続けていく。

 

 

トランビ 代表取締役社長 高橋 聡氏

トランビ 代表取締役社長 高橋 聡氏

 

 

PROFILE

  • ㈱トランビ
  • 所在地 : 東京都港区新橋5-14-4 新倉ビル6F
  • 設立 : 2016年
  • 代表者 : 代表取締役社長 高橋 聡
  • 従業員数 : 20名(2019年10月末現在)

 

 

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