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【特集】

成長M&A

かつてM&Aといえば「乗っ取り」「身売り」など暗いイメージが付きまとったが、いまや多くの企業が持続的成長を図る手段として選択する時代になった。後継者難、本業の競争力低下、早期の新規事業開発など、一筋縄ではいかない経営課題を最短距離で解決したM&A事例をリポートする。
2019.12.27

タクシー事業を成長させる方法は
M&A一択
第一交通産業


2020年1月号

 

 

人に寄り添うサービスで、地域の人々の信頼を獲得するドライバーたち

 

 

34都道府県175社をグループ傘下に擁し、タクシー・バスの保有台数9000台以上と、業界日本一を誇る第一交通産業グループ。
M&A戦略により規模を拡大すると同時に、不動産や介護・福祉、病院など多角的な事業をハイスピードで展開し、地域の人々の快適な生活を支えている。

 

 

2000年以降の主な買収企業(事業譲り受けを除く、企業名は当時の商号)

出典 : 第一交通産業ニュースリリース(2000〜19年)よりタナベ経営が作成

 

 

多角化経営で“地域密着の総合生活産業”へ

 

第一交通産業の歴史はM&Aの歴史と言っても過言ではない。1960年、黒土始氏(現・代表取締役創業者会長)がタクシー5台で同社を設立。1967年に宮崎県のタクシー会社を買収して以来、M&Aを行った件数は、事業譲り受けを含め200件を超える(2019年10月末時点)。

 

これらのM&Aを手掛け、2001年に約2000台だったタクシー保有台数を8500台へ、バスなども含めると保有台数9000台を超えるグループ会社へと成長させた代表取締役社長・田中亮一郎氏は、次のように語る。

 

「タクシー業は国の認可事業。勝手に台数を増やせないし、営業エリアも広げられない。だから、事業を大きくする方法はM&Aのみだったのです。もちろん、決して平たんな道のりではありませんでした」

 

第一交通産業は、いわゆる敵対的買収を行わない。同社側から働き掛けたことすら一度もなく、全て事業譲渡を持ち掛けられてM&Aの成立に至っている。10台規模の個人経営の会社から500台クラスの法人まで、取得先は幅広い。後継者不足をはじめ、経営難、赤字路線で廃業寸前、個人会社の代表者の急死など、理由も多岐にわたっている。

 

なぜ、同社にそこまで声が掛かるのか。ターニングポイントは2000年の福岡証券取引所への上場だったと田中氏は話す。それまでは、大きくても50台規模の会社がM&Aの対象だった。

 

「関東にある旧知の電鉄会社が、観光地を対象としたタクシーの赤字路線を廃業すると聞き、廃業するぐらいなら車両と運転手を当社にくださいと申し出たのです。でも、『さすがに一般のタクシー会社には売れないよ』との返事でした」(田中氏)

 

しかし、上場をきっかけにその電鉄会社から認められ、数社を譲り受けた。この実績が評価され、M&Aの件数が増えていった。

 

「経営に困っているタクシー会社は、想像以上に多かったですね。当社は創業当時から培ったノウハウを生かし、M&Aによって解決していったわけですが、社長同士は合意しても乗務員は違う。その反発が課題でした」

 

田中氏は、そう振り返る。経営権を取得した大手タクシー会社の労働組合とも交渉を重ねた。

 

「特に大手企業の従業員はステータスを感じているので、反発も強い。車両は買えても、同じ運賃で同じ労働条件だったら乗務員がついてきません。当社に来れば仕事も給与も上がる仕組みをつくり、メリットを提示しなければなりませんでした。昔は従業員の8割以上の同意がないと買収できませんでしたから」

 

当時、M&Aのイメージは良いものではなかったため、本社の塀に嫌がらせのビラを貼られたり、マスコミにいろいろと書き立てられたりしたこともあったという。

 

「タクシー業は、基本的に地元の乗務員が地元の顧客にサービスする仕事。M&Aで別会社になっても、彼・彼女らは変わらず地元にいるわけですから、いかに地域と連携していくかを大切にしています」(田中氏)

 

現在、同社は各県に1人ずつ社長を配置し、営業所を現地法人化している。

 

「地域で祭りがあれば寄付をするし、運動会が開催されればジュースを配ります。人と人の触れ合いのような、アナログな部分はとても大切です」(田中氏)

 

 

M&A・事業の譲り受けによる全国展開

 

出典 : 第一交通産業・個人投資家向けIRプレゼンテーション資料(2018年8月6日)よりタナベ経営が作成

 

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