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【特集】

ラーニングカルチャーの創造

常に学ぼうとする文化(ラーニングカルチャー)がある企業は、人材育成の投資効果が高く、好業績を維持しやすい。その文化はどのように形成されるのか、事例からひもとく。
2019.12.16

見て、感じて、表現して創造力を育成
アート鑑賞を通してダイバーシティーへの理解を深める
明治産業


2019年12月号

「仕事は楽しいもの」から始まったユニークな企画

東京での会社勤務を経て、20歳代の頃より先代に仕込まれて社長業を務めていたという明永氏。先代の急逝に伴い、正式に代表取締役に就任したのは1999年、37歳の時だった。当時、疑問を感じていたのは、人々の仕事に対する姿勢だったという。

「バブル崩壊の影響もあって、仕事はつらいものという雰囲気が充満していました。企業側も、人材は使い捨てというような姿勢が多く、東京の丸の内辺りを歩いていると、景色がモノクロに見えました」(明永氏)

社長として、会社経営以外に、仕事が楽しくなる環境づくりにも力を注がねばならないと感じた明永氏は、社員同士が理念を共有し、結束してぶれない組織をつくっていくことが大切だと考えた。そして合宿やイベントなど、さまざまな試みを実施した。もともと風通しの良い企業風土が根付いていたこともあり、若き社長が率先して行動する姿勢は社員から好意的に受け入れられた。

同社には理念を社内に浸透させるプロジェクトチーム「MVP(MEIJI・VALUE・PROJECT)」がある。立場や年齢に関係なく、社員が自ら立候補し、理念を浸透する活動や社員同士の交流を図り、士気を高める社内イベントを企画・実施している。

忘年会を「運動会」にしたり、1カ月間フランス語であいさつを交わしたりなど、活動内容もユニークだ。

「結果として人材育成の一環となっています。誰に命令されるわけでもなく、一緒に成長していこう、仕事を楽しもうという雰囲気が年々、根付いてきていますね」(明永氏)

“出るくいは打たれる”=自分の言葉を失う

人材育成における研修も独特だ。主に、論理的思考を養うためのさまざまなセミナーを実施。外部から講師を呼び、研修を行ったこともあったという。挑戦し続けることで、人材育成も順調に進むと思い込んでいたが、そうではなかったと明永氏は語る。

「研修の日だけ盛り上がり、次に続きませんでした。だんだん社員が受け身になってきて、MVP活動においても、前例やマニュアルを聞いてくるようになり、何かテコ入れをしなければいけないと感じました」

そこで2019年1月に取り入れたのが「VTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジー)」だ。MoMA(ニューヨーク近代美術館)が1980年代に開発した鑑賞教育法で、アート鑑賞を通して「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成する教育カリキュラム。以前は教育分野で広がりを見せていたが、近年、欧米で企業研修に取り入れられている。

明治産業は、スクリーンに映し出された絵画を2分間鑑賞し、絵画にどんな感情や感覚を抱いたか、絵画がどのようなストーリーを描いているかを社員それぞれがプレゼンテーションをする研修が行われていた。

例えば、女性とトラが向き合っている絵画では「タイトルは運命。トラと女性は恋に落ちて結ばれる幸せを描いた物語」という感想や、「女性は亡くなる寸前で、強いトラに出会い復活を遂げる再生の物語」という意見など、受け取り方はさまざま。

VTS研修は、直感と感性を言葉にして表現し、固定観念にとらわれることなく、新たな課題を発見する方法を身に付けられる。注目を浴びている手法だが、日本では人材育成にVTS研修を取り入れている企業は少ない。

海外出張が多く、アート鑑賞が趣味の明永氏自身が身をもって必要だと感じたというVTS研修。

「海外ではアート鑑賞が日常的で、絵画の前でディスカッションしている光景がよく見られます。日本ではアートは敷居の高いものという意識が強く、意見を言えない雰囲気がある。組織においても同じで、意見を言うと出るくいは打たれるから黙っておこう、穏便に済ませようという傾向にある。しかし、それは同時に自分の言葉を失うということなのです」(明永氏)

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