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【特集】

ステージアップサイクル

若手経営者や新興企業は、さまざまな「成長の壁」とぶち当たる。難壁を突破する上で必要なことは何か。ミッション・ビジョン、ブランディング、メンタルモチベーションなどの機能に着目し、ビジネスを成長へと導く「ステージアップサイクル」を考える。
2019.10.31

フロンティア精神を継承し、ゼロから 1 を生み出してナンバーワンに育てる:金子コード

あえて成果が出るのに時間のかかる分野に挑戦

 

2015年からの第2ステージに掲げたスローガンは、「ZERO ONE プロジェクト~生み出せ、育てよ、NO.1になれ!~」である。

 

「事業を拡大する中で若い社員が増えました。彼・彼女らは事業を1から10にすることには長けていますが、ゼロから何かを生み出した経験がない。そこでゼロから1を生み出し、育てて、ナンバーワンにすることを掲げました。キャビア養殖もその一環として生まれたものです」(金子氏)

 

新規事業創出に当たり、金子氏は「軌道に乗るまで最低10年はかかるもの」「これまでの事業領域とはまったく関係ないもの」という二つの条件を付けて、担当社員を海外視察に送り出した。

 

大企業の社長の任期が平均6年ほどという統計を見た金子氏は、「成果が出るまでに10年かかる事業には、大企業が参入しにくい。オーナー企業だからできる事業だ」と考えたのだ。山のように積み上げられた新規事業案の中から金子氏が選んだのは、キャビアの生産だった。

 

高級食材として知られるキャビアの国内流通の約90%は輸入物。しかも、長期保存のため多くの塩を加えているので塩味が強い。またチョウザメは絶滅危惧種なのでワシントン条約により取引ができない。つまり、キャビアは全て養殖のチョウザメから採卵されているのだ。

 

「稚魚から育てて卵を産むまで最低7年、準備段階を含めると10年はかかります。しかも高品質な“ 生キャビア” であれば外国産にとって代わることができる。輸出も可能ですし、富裕層対象のビジネスになるので、収益率が高いと考えたわけです」(金子氏)

 

キャビアの味には「水質」が大きな影響を与える。そこで担当社員は、北海道から九州まで、日本一きれいな水を求めて全国行脚を敢行。天竜川上流の静岡県浜松市天竜区春野町の水にたどり着き、2014年12月からチョウザメの養殖を開始した。

 

すでに一部のチョウザメからはキャビアを採卵し、高級レストランやホテルへ納入を始めた。養殖地から命名した「ハルキャビア」は、濃厚でクリーミーな味わいがプロの料理人からも高い評価を得ている。約2万尾いるチョウザメからキャビアが本格的に採卵できるのは2、3年後の予定で、今後の事業拡大が期待されている。

 

既成概念にとらわれず新しい産業をつくる

 

高評価を得ているハルキャビアの他に、もう一つ、金子コードが新規事業として力を入れているのが人工筋肉の開発である。

 

人間の腱と同じような機能を形状記憶合金で再現する金子コードの人工筋肉は、従来のように電動モーターや空気圧式の動力を使用せずに動かせるため、小型化や軽量化という難題を解決できる方法として注目を集めている。

 

今後も開発を進め、より人の手に近い動作を再現できる義手や、リハビリ・介護現場用のパワーアシストスーツなどに利用していく予定だ。

 

さらに、子会社の美織では、西陣織や漆塗り、和紙といった日本の伝統工芸の技術を生かしたテーブルウエアを開発し、海外を中心に販売している。

 

「初代は商品をつくり、2代目は新しい事業を生んで会社を発展させました。そんなフロンティア精神を継承しながら、新しい産業を興していきたいと考えています。キャビア養殖も、単に生産するだけでなく、流通やブランディングも含めた新しい販売方法の確立など、“ 陸上養殖” の6次産業を目指しています」(金子氏)

 

既存の枠組みにとらわれない新しい発想で、壮大な夢に向かって突き進む金子コードの歩みは力強い。

 

金子コード 代表取締役社長 金子 智樹氏

 

PROFILE

  • 金子コード㈱
  • 所在地:東京都大田区西馬込2-1-5
  • 創業 : 1932年
  • 代表者 : 代表取締役社長 金子 智樹
  • 売上高 : 47億円(2019年3月期)
  • 従業員数 : 342名(2019年5月現在)
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