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【特集】

ステージアップサイクル

若手経営者や新興企業は、さまざまな「成長の壁」とぶち当たる。難壁を突破する上で必要なことは何か。ミッション・ビジョン、ブランディング、メンタルモチベーションなどの機能に着目し、ビジネスを成長へと導く「ステージアップサイクル」を考える。
2019.10.31

理念、新分野、承継で情報伝達業へ躍進。看板屋からデジタルサイネージの旗手に:タテイシ広美社

情報伝達業として新領域を切り開く


ステージアップを支えた二つ目の要因は「新規事業への挑戦」である。バブル景気の崩壊に伴い、1991年のタテイシ広美社の売り上げは30?40%ダウンし、赤字の危機に直面。そこで、大手家電メーカーが製造するLED電光掲示板の代理店になった。売れ行きは好調だったが、ある顧客からの「もっと大きなものがほしい」という要望をメーカーに伝えると、「一点物のために製造ラインは変えられない」と拒否された。

 

立石氏は「これは中小企業の仕事だ。当社がメーカーになって取り組もう」と決断し、社外のプログラマーや制御盤メーカーなどの力を借りて顧客が望む大きさの電光掲示板を完成させた。ところが、強烈な太陽光の下ではディテールが鮮明に表示できないという欠陥が判明し、大ピンチに陥った。

 

「常に現在が起点となり、良い方に転ぶか悪い方に転ぶかはこれからの判断次第」と自らに活を入れた立石氏は、欠陥を克服する商品づくりと、旧商品の再販先探しを急いだ。そして、顧客が満足する新商品が誕生し、旧商品は太陽光が当たらない屋内運動施設への納品が決まった。デジタルサイネージ事業の幕開けである。

 

当初、LED電光掲示板の発注先は大手企業が多く、「田舎の中小企業が、数千万円もする商品をきちんと納品できるのか」との不安を露骨に示されたこともある。「社内稟議にかけるため、登記簿謄本と3期分の決算書を提出してほしいと言われた」と立石氏は苦笑する。 

 

それがいまや、凸版印刷と共同で世界最高水準の高精細LEDディスプレーを開発、NECと共同で2020年の東京五輪開幕までの日数を示す「デイカウンター」を都内自治体に納入、自動運転バス向けのIoTバス停の実証実験を自治体と開始するなど、最先端を突き進む。

 

新規事業が軌道に乗る中、もはや自社の業態は従来の枠に収まらないと感じた立石氏は、以前参加した経営セミナーで熟考した末にひらめいた「情報伝達業」が最適と判断。「今日から看板業ではなく、情報伝達業として業務を展開する」と社員に宣言し、経営理念にも「情報伝達業として、情報をかたちにすることを目的とする」を加えた。「情報伝達業という5文字がなかったら、当社はここまで至っていないでしょうね」と立石氏は振り返る。

 

「いこるところに人は集まる」は、立石氏の信条

「いこるところに人は集まる」は、立石氏の信条

 

社長と会長の二人三脚で〝いこる〟会社を次代へ

 

ステージアップを支えた三つ目の要因は「事業承継の成功」である。立石氏は2014年の創業40周年を機に、娘婿の立石良典氏へ社長のバトンを渡した。事業承継にはあまり気乗りしなかった立石氏だが、良典氏とは初見で意気投合。「大手企業の社員でありながら、チャレンジ精神が旺盛で経営者の素質がある」と立石氏は確信した。良典氏が事業承継の決意を社内で発表すると、「すぐにローンを組んで自宅を建てた若手社員が2人いた」と立石氏は笑う。会社の未来に希望が持てた証しだ。

 

現在、立石氏は従来の取引先の仕事を継続し、良典氏はデジタルサイネージ事業を中心に、新規事業の立ち上げや関東市場の開拓を推進。良典氏の入社を機に、売り上げが急増した。

 

「適度な距離感を保って二人三脚で事業を進めています。会社の目標設定は社長に任せていますが、東京五輪の次は大阪万博、リニアモーターカー開設といったビッグイベントを見据えた事業を展開していくことになるでしょう」

 

そう語る立石氏のモットーは「いこるところに人は集まる」。“ いこる” は炭に火が付いて赤々と燃えた状態を指す備後弁だ。つまり、熱い思いを持った会社や人材には良い出会い・仕事・情報などが集まってくるという意味である。立石氏が起こした力強い炎は、良典氏へと受け継がれ、情報伝達業の未来を照らす。

 

タテイシ広美社 代表取締役会長 立石 克昭氏

タテイシ広美社 代表取締役会長 立石 克昭氏

 

Column

地場企業の魅力を伝えて人材を残す

文部科学省では、学校が地域住民などと目標やビジョンを共有し、地域と一体になって子どもたちを育む「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度、以降CS)」の普及に努めている。タテイシ広美社が本社を置く府中市は「地域の中に学校を! 学校の中に地域を!」をスローガンにCS導入を積極的に進め、市内の全小中学校がCSを実施している。その協議会会長を務めるのが立石氏だ。

「小中一貫の府中明郷学園では、7年生が地域の魅力を発信する模擬会社を設立。地元の企業で職場体験を行い、そこの商品や廃材、機械などを使って新商品の開発、試作、販売にチャレンジしています」(立石氏)

こうした活動には地元企業の協力が欠かせない。立石氏をはじめとする経営トップが教壇に立ち、経営理念の必要性や製品開発の考え方、マーケティングの進め方などを話すこともあるそうだ。「これをきっかけに地元企業に興味を持ち、将来は地元で活躍する人材になってほしい。タテイシ広美社に入社してもらえたらベストです」(立石氏)

まさに「地域・社会へ貢献することが我社の繁栄につながる」という経営理念を体現しているのだ

地域の小学生を招く会社見学や、従業員の家族を招く企業参観も実施(上)。社員に浸透する経営理念では自社を「情報伝達業」と定義し、事業を広げている(下)

地域の小学生を招く会社見学や、従業員の家族を招く企業参観も実施(上)。社員に浸透する経営理念では自社を「情報伝達業」と定義し、事業を広げている(下)

 

 

PROFILE

  • ㈱タテイシ広美社
  • 所在地:広島県府中市河南町114
  • 創業:1977年
  • 代表者:代表取締役会長 立石 克昭、代表取締役社長 立石 良典
  • 売上高:10億1300万円(2018年7月期)
  • 従業員数:61名(2018年7月現在)

 

 

 

 

 

 

 

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