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【特集】

実行力

経営実態を具体的にわかるようにする「見える化」に取り組む企業は多い。だが、問題が見えるだけでは何の解決にもならない。それを解決へつなげる「実行力」が不可欠だ。「見える化」によって見えた問題を解決している企業の取り組みに迫る。
2019.08.30

リスク情報を信頼獲得のチャンスに変える:リブセンス

 

求人サイト分野に成功報酬型のビジネスモデルを持ち込み躍進したリブセンスが、不動産の災害リスク可視化サービスで注目を集めている。データに正しく意味付けをすることで、ネガティブな情報を顧客の信頼獲得につなげる同社のサービスとは。

 

地域の災害リスクを総合的に可視化

「一生に一度の買い物」ともいわれるマイホーム。購入前に、予算や立地、設備、外観、地域などあらゆる情報をかき集め、さまざまな条件を慎重に比較・検討する人が大半だろう。

しかし、それらと同等に重要でありながら、ほとんど知られていない情報がある。それが、地震や浸水といった地域の総合的な災害リスク情報だ。全国の各市町村がハザードマップ(被害予測地図)を作成して地域住民に提供しているものの、特定の物件にピンポイントで、どのような危険性がどれほどあるのかまでは分かりにくい。住まいを買う側だけでなく、売る側の不動産会社も「正確に答えようがない」という悩みがあった。

この課題の解決に乗り出したのが、いま不動産業界で注目を集めているIT企業のリブセンスだ。同社は2017年9月、災害リスク情報や住環境情報を物件ごとに検索できる不動産会社向けのサイト「IESHIL CONNECT(イエシルコネクト)」をスタート。これが業界内で話題となった。

同サイトは、首都圏1都3県のマンション約73万棟が対象。国土交通省や国土地理院、地方自治体などが提供するハザードマップなどを基に、地震、液状化、津波、洪水、土砂災害といったリスク情報を一つの地図に落とし込み、各物件の災害リスクを個別に浮き彫りにしている。

このサービスは、測量業大手・アジア航測(東京都新宿区)との共同開発。リブセンスが手掛ける一般向けの不動産価値査定サイト「IESHIL(イエシル)」が保有する物件データと、アジア航測が保有する8億ポイント以上の地形分析データや災害シミュレーションのノウハウを活用し、マンションがあるエリアの総合的な災害リスク評価を可視化しているのだ。

 

マンション査定額の算出サービスが原点

外食したい人はグルメサイト、自動車や電化製品を買いたい人は比較サイトを利用する。そこにはたくさんのユーザーレビューが投稿されているため、価格面や利用・使用感、仕様などの透明性が高い。しかし、こと不動産売買に関しては可視化されている部分が少なく、物件の実質の良しあしは“ブラックボックスの中”という側面がある。

イエシルとイエシルコネクトの企画・戦略立案に携わる、不動産ユニットIESHIL メディア企画グループの稲垣景子氏(IESHIL チーフプロダクトマネージャー)はこう話す。

「(多くの人は)35年ローンという長期的なスパンで家を買います。お子さまの代にも影響を及ぼす大きな買い物です。そんな人生の一大事の決定にもかかわらず、不動産情報は店舗やサイトによって量や質がまちまち。これを社会的な課題と捉え、解決策を探しました。そして、まずは『この家にこれだけのお金を支払う価値があるのか』を明らかにしようと、マンションの価格査定サービス『イエシル』を始めたのです」

リブセンスは元来、不動産事業を営んできたわけではない。2006年の創業以来、求人メディア分野で名をはせ、東証1部上場(2012年)を果たしている。成功報酬型の求人サイトという革新的なビジネスモデルを創出したパイオニアで、現在はアルバイト情報サイト『マッハバイト(旧ジョブセンス)』、転職サイト『転職ナビ(旧ジョブセンスリンク)』といった求人サイトを運営している。

同社のもう一つの事業の柱が、不動産に関するサービスである。始まりは2010年にスタートした一般向け賃貸情報サイト「DOOR賃貸」。当時は異分野に挑んだという意識はなく、それまでに培ってきた成功報酬型ビジネスモデルのノウハウを生かしてサイトを運営していた。

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