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【特集】

実行力

経営実態を具体的にわかるようにする「見える化」に取り組む企業は多い。だが、問題が見えるだけでは何の解決にもならない。それを解決へつなげる「実行力」が不可欠だ。「見える化」によって見えた問題を解決している企業の取り組みに迫る。
2019.08.30

洪水や土砂崩れなど、水災害を高精度で予測:地圏環境テクノロジー

 

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世界有数の多雨地帯である日本は、“水害大国”でもある。浸水や土砂崩れによる被害を最小限にとどめたいという思いから、独自のシミュレーションシステムで精度の高い水災害予測に挑戦する企業がある。

 

“もう一つの国土”をコンピューター内につくる

地震による津波や大雨による洪水、土砂災害などに備えて、官公庁や地方自治体には独自に作成しているハザードマップ(被害予測地図)がある。自宅や会社がある地域にどのようなリスクがあるのか、あるいは生活圏内における避難場所を把握するのに便利な地図として、多くの人々が一度は目にしたことがあるだろう。

しかし、ハザードマップは自治体ごとに作成されているものがほとんどで、全国の洪水、津波、土砂災害の情報を網羅したような地図はまれである。

そうした中、国土交通省の地図をはじめ、さまざまなハザードマップのデータを収集し、それに独自のシミュレーションから得られた情報を加えた地図を公開している企業がある。東京大学発の企業、地圏環境テクノロジーだ。

同社の設立は2000年。現在、代表取締役会長を務める東京大学名誉教授の登坂博行氏が開発した「汎用地圏流体シミュレーションシステム」を活用して、水資源、水災害、水環境などの水問題の解決に役立てようと起業した。

これまで、水に関するさまざまなデータを取り扱ってきた同社が展開するサービスの一つが、「国土情報プラットフォームR」だ。日本全国をシームレスに網羅した水に関するあらゆる情報を一元管理している。このサービスは、もう一つの“国土”をコンピューター上につくり上げるもので、それを築き上げるデータは多種多様に及ぶ。

「国土情報プラットフォームRを活用することで全国の人々の安全・安心な暮らしに役立つ情報コンテンツを提供していきたいと考えています」

地圏環境テクノロジーの代表取締役社長・田原康博氏はそう説明する。

 

地中を含めた水循環が予測できるシミュレーションソフト

「国土情報プラットフォームRのデータは大きく二つに分けられます(次頁【図表】)。一つは気象、地形、土地利用、地質、水の循環の中で測られた“水文”のモニタリング、人間活動などからなる『国土基盤データ』です。これらは官公庁などから公開されている膨大なデータを取り込んで一元管理しています。もう一つは日本全国の水文現象をシームレスに見るために、コンピューター上に構築した3Dモデルの『国土水循環モデルシミュレーションデータ』で、コンピューター内に国土を再現しています」。国土水循環モデルでは沖縄や離島を除いた日本列島を一辺が約500mの四角で細分化し、気象、地形、土地利用、地質データを取り込んで、河川や地下水だけでなく、空気、塩分、熱などの輸送を考慮したシミュレーションを行っている。

現在、実証実験段階にある同サービスだが、実は2018年6月から一部をウェブで公開している。それが「ウェブマッピングシステム(WMS)」だ。

このWMSは、地表水だけでなく地下水の様子を見られるのが特徴。国土水循環モデルによる浸水ハザードや、国土基盤データを基にした洪水、土砂災害、津波などの各種ハザードマップを確認できる。

この国土情報プラットフォームRの国土水循環モデルに使用されているのが、同社が開発した汎用地圏流体シミュレーションシステム「GETFLOWS(ゲットフローズ)」だ。

「当社の社名にもなっている『地圏』とは地中のことを指しており、地中も含めた水循環を明らかにできるシミュレーションシステムです。雨が降ると、地表を流れる水の他にも、地中に浸み込んで地下水となって再度、川などに湧き出る水の動きをシミュレーションできます。この点が従来のハザードマップとの大きな相違点です」(田原氏)

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