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幸せのための経営

社員の幸福度と会社の業績は比例する。そもそも、不幸な社員が顧客を幸せにできるはずがない。そこで近年、働く人を幸せにするマネジメントが注目されている。何をすれば、社員は幸せに感じるのか。多様な実例から検証する。
2019.07.31

ボトムアップとトップダウンの両輪で女性活躍を推進:キリンホールディングス

 

女性社員が結婚・出産といったライフイベント後もキャリア形成できる仕組みを積極的に推進。リーダー登用を進展させ、商品開発や営業力の強化を成長につなげている。

 

女性の活躍を支援する社内組織
キリンウィメンズネットワーク

2018年の女性管理職比率、日本は12%とG7で最下位――。国際労働機関(ILO)が発表した女性の労働に関する報告書※1によると、2018年に世界で管理職に占める女性の割合は27.1%と3割近くに達したが、日本はわずか1割にとどまり、先進7カ国(G7)で最下位だった。ILOの統計によると、日本の女性管理職比率は1991年の8.4%から、27年間で3.6ポイントしか上昇していないという。政府が打ち出した「2030(指導的地位に占める女性の割合を2020年に30%にする)」という目標値は、残念ながらあと1年では達成できそうにない。

だが、こうした現状において、女性社員の活躍推進を骨太に進めている企業がある。キリンホールディングス(以降キリンHD)――ご存じ、『キリン一番搾り』や『午後の紅茶』など酒類・飲料事業を中心とするメーカーだ。

同社の女性活躍推進の発端は2006年にさかのぼる。当時、結婚や出産を機に退職する女性社員が多いことに危機感を持った経営トップ層が、「キリン版ポジティブアクション」を制定。その第一歩として、翌2007年に女性の活躍とネットワークづくりを積極的に支援するための社内組織「キリンウィメンズネットワーク(KWN)」を発足した。

「2000年代はじめ、当社では男性社員の仕事への満足度は高く、長く働いているのに対し、女性社員は総合職で入社しても男性ほど満足度は高くなく、また結婚・出産を機に退職する方が大多数を占めていました。この状況を変えるために生まれたのがKWNです」

そう説明するのは、人事総務部多様性推進室の豊福美咲氏である。2019年現在、同社の女性管理職者の比率は8.4%。2013年の4.2%と比べ、6年で倍増している。

同社はビールや清涼飲料水の他、食品や医薬など多彩な商品を開発・販売している。女性をターゲットとした商品も多い中、女性の視点やアイデアを生かせるかどうかは同社の今後を大きく左右する。女性活躍推進は、成長戦略の一つと位置付けられているのだ。

発足以降、「半歩先でもいいから前へ」を合言葉に、KWNは取り組みに着手。まずは、継続的に働く上でどのような支援策が必要かを広く女性社員からヒアリングし、それをまとめて経営陣に直接届けた。

その結果、多くの新制度が生まれた。配偶者の勤務地異動に伴い、最大3年間、休職できる「ワークライフバランスサポート休業制度」。自己都合で退職した人を再雇用する「キャリアリターン制度」。育児や介護などで転勤が難しい総合職の社員が、最大5年間、転勤を回避できる「転勤回避措置制度」。いずれも仕事とプライベートの両立を図りやすいよう配慮した制度と言える。

「制度導入によって結婚・出産後も子育てをしながら活躍する女性が増えました。それがキャリア形成につながり、若い女性社員のロールモデルが誕生するなど、好循環が生まれています」(豊福氏)

キリンHDはボトムアップとトップダウンの両輪で、改革を推し進めているのである。

※1『 A quantum leap for gender equality:For a better future of work for all(男女平等に向けて大跳躍:より良い仕事の未来を全ての人に)』(2019年3月7日発刊、英文)

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