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【特集】

ホールディングカンパニー

事業承継を機に「ホールディングカンパニー」(持ち株会社)を設立し、グループ経営に移行する中堅・中小企業が増加している。持ち株会社は「独占禁止法」の改正で解禁されたが、従来は大手企業を中心に業界再編ツールとして運用されてきた。この古くて新しい「ホールディング経営体制」の導入企業事例を通じ、経営戦略上のメリットを浮き彫りにする。
2019.06.28

グループ企業で人材の最適化を図る:ヨシムラ・フード・ホールディングス

M&Aで加わった企業の形を維持しながら、グループで人材を最適化し、経営にアドバイスを加えていく。ユニークなホールディング経営が、食品業界に再び息を吹き込もうとしている。

 

グループ各社の強みを生かして弱みを補完

 

 

「経営と資本は分かれていた方がいい。私はそう思います」と話すのは、ヨシムラ・フード・ホールディングス代表取締役CEOの吉村元久氏だ。

同社は、傘下に18の企業を擁する純粋持ち株会社である。シンガポールを拠点とする1社を除いて、全てが100%子会社だ。もっとも、同社の経営スタイルは、一般的なホールディング経営とは毛色が異なっている。

 

ホールディング経営の多くは、成熟期に達した企業が、機動的に経営することを企図して事業部門を子会社化し、それぞれが素早く決断できるようにすることを主目的としている。一方、ヨシムラ・フード・ホールディングスは、出自の異なる多様な食品関連事業会社を買収し、グループとして束ねる。

 

買収といっても、投資ファンドなどのように、短期的な売買で収益を目指す形とも異なる。長期的視野に立って、経営戦略の立案や実行、経営管理を行うとともに、商品開発、営業、製造、仕入れ物流、品質管理、経営管理など各子会社に不足している機能を、それぞれが融通し合う仕組みを構築し、活性化を進めているのだ。

 

「ホールディング経営で考えているのは、誰がどうやって、どこに行けば最も高いパフォーマンスを発揮できるかということ。私がああしたい、こうしたいと言うのではなく、グループ18社をどう結び付ければ生き残れるかを考えていく中で、各社が持つ強みを伸ばし、弱みを補い合うプラットフォームを構築してきました。10年かけてどうにか形になってきましたね」(吉村氏)

実際、同社のビジネスモデルは唯一無二であり、実にユニークと言えるだろう。

 

吉村氏はかつて証券会社に勤務し、資金調達のスペシャリストとして活躍していた。その後に独立し、中小企業の経営層を顧客とする資金調達のコンサルタントとして活動。資金調達が難しい中小企業に対して、自身が出資したり、投資家を紹介して支援するとともに、株主として経営へ意見するというビジネスを続けていた。

 

そんな中、後継者難を抱えていたある出資先企業が、丸ごと会社を買い取ってほしいと申し出てきたのだ。同様の出来事が短期間のうちに相次ぎ、従来の吉村氏の仕事を受け継ぐ持ち株会社と、事業を行う食品会社によるグループという今の構成が出来上がっていった。

 

脇役に徹し、グループ各社のパフォーマンスを引き出す

 

 

「中小食品企業を買収しようという企業は少ないのではないかと思います」と吉村氏は言う。

少子高齢化などを背景に、食品市場は縮小を続けている。成熟市場でもあるため各企業には高い技術力を持つベテラン社員も少なくないが、そのベテランも引退の時期を迎えている。加えて経営者も高齢化し、後継者問題が顕在化してきた。人材不足や資金難、販路、営業力不足など、中小企業の抱えるあらゆる課題が、食品業界には横たわっている。

 

そんな閉塞感のある企業を、吉村氏は次々とグループに加えていく。そして、その会社に不足している機能を見極め、改善点を指摘したり、人事に手を入れて経営を支援していく。例えば、ある工場でラインを担当していたスタッフに能力があると見るや、そのスタッフを工場長に据える。さらにそこで実績を出すと、ホールディング会社に引き上げ、全社の製造部門を統括するポストに就ける。

 

また、製造技術はあっても新しい商品を開発する力が足りない中小企業も多い。そこで、企画販売を得意とする企業から人を送り込んだり、アイデアを一緒に考えるといった具合だ。

経営の健全化を目指すには、コンサルタントとして外部からアドバイスする方法もあるだろう。だが、吉村氏の考えは異なる。

 

「短期的なアドバイスで終わるのではなく、株を引き受け、同じ船に乗って経営指導することで、ホールディング側にも責任感が生まれます。それに、各社にメリットがあれば、結果として株を持っているホールディング会社にもメリットが出ますから」

 

2017年には、シンガポールに広い販路を持つ食品製造販売企業の株式を譲り受けたことで、グループ企業に海外進出のチャンスを提供することも容易になった。子会社が増えるごとに、グループの強みも増え、そこに加わるメリットも増えていくという好循環が生まれている。

 

いきなり親会社から人がやって来て上の立場に立つことになれば、現場の反発を買うことがあってもおかしくないが、そういうことはこれまでほとんどなかったという。

「私たちが行っているのは、脇役としてのサポートであって、それで成果を出すことができれば、反発されることはまずありません。それに、そもそも反発が出そうな会社は引き受けませんから」

もちろん、各社の成り立ちがまちまちなだけに、社風も経営者の考え方もバラバラ。それを束ねるのは並大抵のことではないだろう。

 

「会社によって、まったく経営にタッチしないところもあれば、どっぷり浸かっているところもあります。資本でつながっていますから、最終的に意見が分かれることがあれば、株主の意見に従ってもらうという最低限のルールだけは決めていますが、一律にルールを定めて、それを守ってもらうようなことはしません」

 

各社の性格を見極め、関与の度合いも適切にコントロールするという吉村氏の理念は、ホールディング経営のみならず、企業経営の成功の秘訣と言えるかもしれない。

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