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【特集】

ホールディングカンパニー

事業承継を機に「ホールディングカンパニー」(持ち株会社)を設立し、グループ経営に移行する中堅・中小企業が増加している。持ち株会社は「独占禁止法」の改正で解禁されたが、従来は大手企業を中心に業界再編ツールとして運用されてきた。この古くて新しい「ホールディング経営体制」の導入企業事例を通じ、経営戦略上のメリットを浮き彫りにする。
2019.06.28

総合力を生かした地域密着型の営業で九州一の “電材卸のコンビニ”へ:カンサイホールディングス

この5年間でグループ会社11社の体制を整え、長年培った信頼をベースに新規事業を拡大中のカンサイホールディングス。九州ナンバーワンの電気設備資材商社から、住環境の総合コンサルティング企業へと飛躍を遂げる同社が掲げる、“強み=総合力”とは一体何か。

 

 

小さな会社が集い、大きな価値を生み出す

 

 

1954年、「関西電業株式会社」として、九州・福岡の地に産声を上げたカンサイホールディングス。父である忍田楢蔵氏の後を継ぎ、代表取締役社長に就任(1995年)した忍田勉氏は根っからの博多っ子だ。2002年にCI(コーポレート・アイデンティティー)を行った際、関西出身の創業者である父の足跡を残したいとの思いから、社名をカタカナで「カンサイ」とした。

現在、グループ会社の中核を担っているのが、九州トップクラスのシェアを誇り、九州管内に28の事業所を持つ電設資材商社・カンサイである。

 

「関西電業という社名だと電気に特化した企業だと思われる。私は入社当時から、電気の他、建物や住まいに関する総合的なサービスをワンストップで手掛けられる、住環境の総合商社となるのがベストだという考えを持っていました」と勉氏は当時を振り返る。

 

2013年、創業60周年を機にホールディングス化。傘下には同業、住設環境、空調・省エネ、住宅リフォームなどさまざまな会社が集い、ワンストップソリューションを可能にしている。グループ会社はこの5年間で6社から11社へと、ハイスピードで増加した。しかし、意外にもカンサイ側からグループの傘下に入るよう持ち掛けることは、ほぼないそうだ。

 

「経営が傾きかけているので助けてほしい」というメーカーなどを通じた申し出が多く、中にはM&A によるものもあるが、相手側からのアプローチがほとんどだという。

「結果、各社が培った専門のノウハウを融合させることで、総合力を高められれば。私はご依頼いただいたお話を吟味して選択しているだけです」(勉氏)

 

 

人材育成は現場に任せきり、良い意味で放任主義

 

 

傘下へ加入する条件は「経営は今までのプロパーの人間に任せること」と「親会社から社長を送り込まないこと」の2点。各社の規模は小さく、社員数は数名から20名、年商10億円前後の企業がほとんどだ。勉氏は現場に全てを任せ、一切、口を出さないという。

 

「各社、規模もルールも違う。そんなところに親会社から人がやって来て、あれこれ言っても反発が出てきますよ。溶け合わないところに時間をかけても無駄。一緒に育った仲間が社長になって、それを社員みんなで支えていった方が早いでしょう」(勉氏)

 

月に1回、社長会議を行い、決算報告にて数字を見て経営指南を行うほかは、勉氏は積極的に動かない。傘下の会社が親会社にお伺いを立てることもなく、賞与など給与体系も各社で異なり、独立採算制をとっている。よって一つの会社が赤字になったからと言って、別会社がカバーする必要はない。

資金繰りはカンサイホールディングスが行い、グループ会社に貸し付け、年間の経常利益の10%を上納するという方式をとっている。仕入れを一括で行うことで金額が大幅に下がり、最初赤字だったグループ会社もどんどん黒字に転換していった。

 

「会社をつぶすわけにはいかないから、時には各社のトップにヒントは与えますよ。でもテコ入れで人を送り込むことはしません。内部の人間の意識が変わらないと決して会社は変わらないし、存続できませんから」と勉氏は涼しげに語る。

あくまでも各グループ会社の社員に自立心を芽生えさせ、自発性を促す。良い意味で放任主義の体制をとっており、それが功を奏していると言えよう。

 

毎年多くの来場者でにぎわう「共創展・カンサイフェア」。製品の展示だけでなく、じゃんけん大会やキャラクターショーなどさまざまなプログラムが用意されている

毎年多くの来場者でにぎわう「共創展・カンサイフェア」。製品の展示だけでなく、じゃんけん大会やキャラクターショーなどさまざまなプログラムが用意されている

 

 

社内分社化で安定営業 100拠点・100人社長へ

 

 

勉氏は同時に、カンサイ自体の分社化も目指している。実際に2018年、長崎エリアに第1号となる地域販社「カンサイ西九州社」を設立。意欲ある当時の営業部長を社長に据えた。

「AIやIoTなどの技術革新にのみ込まれそうな時代ですが、この業界はやはり人。人海戦術が必要です」(勉氏)

 

勉氏の理想とする人材教育は「口で言うよりやらせる、見せる」。このモットーにのっとり、今後の10年でカンサイの営業所を100拠点作り、100人の社長をつくりたいという。「実際、九州管内に100も営業所を作る場所はないのですよ(笑)。でもそういう姿勢で事業を拡大していきたいのです。グループに入ったからには1回ぐらい、社員はみな社長になってほしい」と語る勉氏は、若手に早くから重要な仕事を任せ、上司、部下、垣根のない雰囲気づくりにも努めている。

 

「雰囲気は伝染しますから、同期の人間がステップアップして『よし、私も』と社員が奮起して自発的に動ける雰囲気づくりを行っています。社員同士は仲間意識も強いですが、ライバル心もある。これは父の代から受け継がれてきた企業風土ですね」(勉氏)

 

特筆すべきは、毎年7月に開催される「共創展・カンサイフェア」だ。同イベントは取引先のメーカー約140社と電気工事店と共に開催する大型展示商談会である。毎年3日間で来場者は平均2万人を超え、2018年には36億円を超える売り上げをたたき出し、9年連続で過去最高売上高を更新している。

 

商品は、電球1個から住環境に関する大型機器・設備までを購入でき、その商品数は数万点を超える。長年業界で培ったネットワークと、11のグループ会社の総合力を最大限に披露できる商談会だ。

社員の自発性を促すため、カンサイフェアの企画に社長や幹部はノータッチ。若手社員を中心としたプロジェクトリーダーやメンバーが来場者を楽しませるために、2カ月をかけて準備する。

 

お客さまを呼ぶには、モノを売るには、来場者に楽しんでもらうにはどのような仕掛けを用意するか――。プロジェクトメンバーは、仕事の合間を縫って集まり、準備をしているそうだ。「普段の業務では得られない経験を積み、大きな達成感が得られ、メンバーに入った新人が伸びる重要な機会」と勉氏は語る。

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