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【特集】

ホールディングカンパニー

事業承継を機に「ホールディングカンパニー」(持ち株会社)を設立し、グループ経営に移行する中堅・中小企業が増加している。持ち株会社は「独占禁止法」の改正で解禁されたが、従来は大手企業を中心に業界再編ツールとして運用されてきた。この古くて新しい「ホールディング経営体制」の導入企業事例を通じ、経営戦略上のメリットを浮き彫りにする。
2019.06.28

学研ホールディングス:ホールディングス化で経営スピードを加速

アメーバのように形を変える組織で人の力を引き出す

 

ホールディングス制移行後も、学研グループは目まぐるしく組織変更を繰り返している。

2010年4月に教室・塾事業の中間持ち株会社、学研塾ホールディングスを設立。同年7月には出版事業の中間持ち株会社、学研出版ホールディングスを設立した。

 

学研出版ホールディングスの傘下には、書籍を制作する学研教育出版と、雑誌を制作する学研パブリッシング、書店や通販によらない販路の開拓を目指す学研マーケティングがあったが、2015年には学研マーケティングが教育出版とパブリッシングを吸収合併し、学研プラスを設立した。

さらに、2019年に入って、学研プラスが中間持ち株会社である出版ホールディングスを吸収した。

 

宮原氏は、「組織は、アメーバのように変えていくのがいいと私は思っています。ホールディングス制を敷いてすぐは、ホールディングスと一定の距離を置いて、それぞれの会社が自走できるようにする。ある程度、自分たちの足で歩けるようになったら、今度はバラバラになってしまわないように、中間持ち株会社を置く。マーケティング部門と制作部門がもっと近い方がよいと思えば、もう一度、統合する。

 

年商5000億円を超える大きな企業であれば、組織に人を合わせていく方法も考えられるでしょうが、当社の規模であれば、人に組織を合わせる方がよいでしょう」と持論を説く。

新規事業には、前にも増して積極的になった。福祉・介護施設を運営するユーミーケア(現学研ココファン)や、託児施設運営のGIビレッジ(市進ホールディングスとの合弁会社)、電子出版事業のブックビヨンドと教育ICT事業の学研教育アイ・シー・ティー(共に現学研プラス)など、矢継ぎ早に新会社を設立。M&Aも強力に推進し、事業領域の拡大や補完を進めている。

 

「大きな会社組織で新規事業を立ち上げても、給与規定や勤務規定が障害となって、なかなかスピード感をもって進めることができません。積極的にスタートアップを生み出していけるというのがホールディングス制の最大のメリットでしょう」(宮原氏)

 

 

持ち株制成功の鍵を握る求心力と遠心力


事業の幅を大きく広げている学研グループ(【図表2】)だが、方向性は「多角化ではなく進化」だと宮原氏は強調する。祖業である学習参考書事業は、「新しい時代を担うため、子どもは学ばなければいけないことが増えるにもかかわらず、共働きの親は子どもの勉強を見られなくなり、学校もそこまでケアできない」という当時の環境からスタートした。それが学習塾事業へとつながり、さらにIT化してデジタルコンテンツを制作するに至っている。

 

【図表2】学研ホールディングスの売上高セグメント構成比

出典:学研ホールディングス「有価証券報告書2018年9月期」

出典:学研ホールディングス「有価証券報告書2018年9月期」

 

 

介護や医療の事業は、『学習』『科学』の訪問販売を行っていた時代に、どの家にも高齢者がいて、その家庭をサポートする目的から出発した。それが今では、サービス付き高齢者住宅の運営や訪問介護事業へと発展している。さらに現在は、大学や分析装置のメーカーと協力し、認知症の早期発見・早期予防にも踏み出そうとしている。

 

「認知症の兆候を捉える早期発見には、医師・看護師の教育を行っている事業のノウハウが役に立ちますし、予防するための教室運営には教育事業の蓄積が貢献します。さらに、介護事業を通して発症後の緩和ケアまで行うこともできる。まさに、学研グループが一気通貫で活動できる分野です」(宮原氏)

 

各社がバラバラに行っている事業を、ホールディングス会社の企画に沿ってまとめ、素早く参入する。こうした動きをできるのが、ホールディング経営の意義である。

「介護事業を行っているからといって、認知症の患者さんが増えてグループホームが繁盛すればいいというのは、私たちの理念にはそぐいません。たとえ予防事業を行うことによって認知症患者が減ってもビジネスになるよう、柔軟に組織を変えていきたい。もし自分たちのグループの中にノウハウがなければ、また新しい会社にグループへ入って来てもらうことを考えてもよいでしょう」(宮原氏)

 

求心力と遠心力という言葉が、しばしば宮原氏の口にのぼる。持ち株会社との距離感を表すもので、新規事業を立ち上げるときは、遠心力を働かせて自由に活動させた方が伸びやすい。だが、遠心力が働き過ぎれば、スピンアウトしてしまうこともある。学研グループにとどまるメリットがなければ、組織はバラバラになってしまうかもしれない。求心力・遠心力はホールディング経営のかじ取りの要だ。

 

「僕自身は、遠心力が効き過ぎて、独立する会社が出てきても構わないと思っています。証券市場にも、親子上場している会社は少なくありません。

一方、学研の求心力が何かと言えば、品質だろうと思います。出版にしろ、介護にしろ、いたずらに収益を追い求めるのではなく、最高の品質を提供して社会に貢献する。それこそが創業以来、受け継ぐ学研のDNAです。スピンアウトすることがあっても、それは会社が潤うという理由ではなく、お客さまに喜んでいただけるという理由であるべきだと確信しています」(宮原氏)

学研ホールディングス 代表取締役社長 宮原 博昭氏

学研ホールディングス 代表取締役社長 宮原 博昭氏

 

PROFILE

  • ㈱学研ホールディングス
  • 所在地:東京都品川区西五反田2-11-8
  • 設立:1947年
  • 代表者:代表取締役社長 宮原 博昭
  • 売上高:1070億3000万円(連結、2018年9月期)
  • 従業員数:6929名(連結、2018年9月末現在)

 

 

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