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【研究リポート】

イベント開催リポート

タナベコンサルティンググループ主催のウェビナーやフォーラムの開催リポートです。
研究リポート2022.11.16

人事戦略フォーラム
ゲスト:山形大学 学術研究院 産学連携教授 岩本隆氏、日本オラクル、日立ソリューションズ

 

人的資本経営でこれからの企業成長を支える

 

タナベコンサルティングは2022年10月26日、「人事戦略フォーラム」を開催。世界的に注目を集める「人的資本経営」の最新動向、その考え方や実践について、ゲストスピーカーとタナベコンサルティングによる講演をリアルタイムで配信した。

※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。

 

 

山形大学 学術研究院 産学連携教授 岩本 隆 氏:人的資本経営の最新動向

 

 

山形大学 学術研究院 産学連携教授
岩本 隆 氏
東京大学工学部金属工学科卒業、カリフォルニア大学ロサンゼルス校大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より山形大学学術研究院産学連携教授。

 

「人的資本」という言葉自体は古く、18世紀から存在する。第四次産業革命の進展とともに、人材マネジメント領域でのデータ活用が活発化したことにより、人材を財務と同じように資本と捉え、定量的にマネジメントすることが可能になってきた。現在では、データを活用した人材マネジメントにより、企業の持続的成長を実現することを人的資本経営と呼んでいる。

 

人的資本経営のベースは、人材を経費で消費される資源ではなく資本と捉え、投資をして資産にし、利益に考えていくという考え方(図表1)。資産を利用してどれだけ利益を上げられるかを示す指標はROA(総資産利益率)、さらに、投資額に対する利益を示す指標はROI(投資利益率)。つまり人材マネジメントにROIの考え方を取り入れたものが人的資本経営のベースの考え方である。

 

【図表1】人的資本経営のベースの考え方

出所:岩本氏講演資料

 

対象が人材の場合、投資がうまいと資産は2倍にも3倍にもなるが、逆に下手だと2分の1や3分の1に減少する(人材価値、利益の向上は投資次第)。

 

産業構造の変化に伴い、企業の無形資産の重要性が年々高まっている。企業価値に占める無形資産の割合は年々上昇しており、知的資本投資銀行™会社であるオーシャントモの調査結果によると、米S&P500の企業価値に占める無形資産の割合は90%に上る(2020年)。言い換えると、財務諸表(有形資産)を見ても10%しか企業価値を測れない状況。そのため、無形資産について情報開示が行われないと投資家が判断できず、開示への要求が高まっている。

 

こうした背景を受け、ISOに人材マネジメントのテクニカルコミッティーが誕生し、2018年にISO 30414発行。ISO 30414発行後、ISO/TC 260の主要メンバーが所属する企業がISO 30414認証ビジネスを開始(企業に対する認証と、個人に対する認証:アセッサー認証)。アセッサー認証を取得した人数は、日本が世界で最多である。

 

2020年2月、米国で「Workforce Investment Disclosure Act」(人的資本開示法案)提出。米国SEC(証券取引委員会)が2020年11月より、上場企業に対し原則主義で人的資本開示を義務化。2021年に入り、日本でも人的資本開示の政策の議論が進む。2022年9月時点で、採用、育成、エンゲージメント、リーダーシップなど人材マネジメント領域で27もの多様なISO文書が出版されている。

 

ISO30414が示す人的資本領域は11、メトリック(測定基準)は58項目ある(【図表2】)。どの領域にどう投資すれば人的資産が最大するかをROIで判断する。

 

【図表2】ISO30414が示す人的資本領域

※岩本教授講演資料より抜粋

 

日本の人的資本開示に関する政策として、金融庁が2022年6月「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」、8月には、内閣官房新しい資本主義実現本部事務局が「人的資本可視化指針」を発表した。

 

人的資本経営推進に当たり、適切なKGI(重要目標達成指標)、KPI(重要業績評価指標)の設定が重要となる。KGIの例として、人的資本ROI、1人当たり売上高(または利益)、KPIの例として従業員エンゲージメント、ウェルビーイング、コグニティブダイバーシティーなどがある。

 

従業員エンゲージメントを高める方法として、戦略的ナラティブ(相手を腹落ちさせる物語)、エンゲージメントを高められるマネジャー、従業員の声、組織的インテグリティー(誠実さ)の4つがある。

 

ウェルビーイングには「キャリア」「ソーシャル」「フィナンシャル」「フィジカル」「コミュニティ」の5つの構成要素があり、キャリアウェルビーイングが最も幸福感に寄与すると言われている。

 

ダイバーシティーの概念は昨今、急速に進化している(D&I→DEI→DEIB、D:Diversity、E:Equity、I:Inclusion、B:Blonging)。また、ダイバーシティーはデモグラフィック(属性など変えられない部分)、コグニティブ(変えられる部分。スキルや経験など)の2つに分けられる。企業の成長、イノベーションに関連する項目として、コグニティブダイバーシティーが注目を集めている。なお、ダイバーシティーのメトリックは25項目ある(デモグラフィック:年齢、性別など、コグニティブ:思考スタイル、職務経験、ワークスタイルなど)。

 

人的資本経営の実践において取り組むべきことは、①最低限ISO 30414が示す58のメトリックでデータをそろえる(できれば、過去数年のデータを時系列で)、②横串を通してデータを見ることで、自社にとっての重要なKPIを導き出す(仮説とデータを突き合わせる)、③開示すべき情報を戦略的に考え、ナラティブ(相手が腹落ちする物語)を作り、レポート化する、の3つである。

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