人事制度フォーラム
ゲスト:パナソニックシステムソリューションズジャパン、トラスコ中山
※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。
コロナ禍の影響で、働き方の変化のスピードが格段にアップした。今後の人事制度は「人が軸の等級制度」(職能等級制度)から「仕事が軸の等級制度」(職務等級制度や役割等級制度)へとシフトしていく。
人事部門に求められる役割が、業務の効率性を最大化する「管理のエキスパート」から、経営・事業戦略に併せて人事戦略を構築・実行し、事業の成果に貢献する「戦略のパートナー(=戦略人事)」へ変化している。併せて人事制度や評価も、事業と連動した仕組みや運用が必要になってきている。
タナベ経営が経営者を対象に行った「採用育成アンケート2021」の結果においても、人事制度上の課題のトップは「評価制度」(43.9%)だった。悩みの内容としてタナベ経営への相談が多いのは以下の5点である。
「会社-上司-部下」間のギャップを解消する仕組みが必要。例として、考課者・非考課者研修や制度の見直し、目標設定・フィードバック面談、個別面談、360度評価など、双方向コミュニケーションによって認識のずれをなくす施策を採る企業が増えている。
株式会社タナベ経営 HRコンサルティング東京本部
ビジネスモデルが見えにくい現代、正解が決まっていない中で答えを考え出し、素早く実行していかないと儲からないため、個人レベルでの「戦略的思考」が重要である。この課題感から、自社のカルチャーやマインドの変革に着手。変革の方向性を「外部(顧客)志向」「スピーディな意思決定」「多様性を重視し、個を活かすマネジメント」の3つに設定し、「働き方改革」(①ワークプレイス改革、②ICT利活用促進、③人事制度改革、④業務プロセス改革)に取り組んでいる。
上記3つの方向性に適した人事制度へと変えるため、「勤務制度改革」(テレワーク運用の簡素化、裁量労働制の導入)と「コミュニケーションの進化」(1on1 Meeting、360度アセスメント)を推進している。
目的:仕事の成果の最大化、個人の自律的な行動・成長を促す
上司と部下の現場でのコミュニケーションの質を、「上司発の面談」から「部下主体の対話」変更
社長や事業部長と上司は、朝会や懇談会、メールでダイレクトコミュニケーションを取る
業務の現状・改善、組織への貢献について部下の考えを聴き、主体的な行動を引き出す
こまめな共有・軌道修正・フィードバックを行い、達成度合いを高めるとともに、評価の納得感も高める
業務上必要な能力についての自覚・気づきを促し、自己研鑽への主体的取り組みを支援する
決定事項・背景・上司の考えについて、部下の受け止め方(理解)を聴き、価値観の共有や視野拡大、主体的行動につなげる
体調や業務量・業務時間を確認し、部下がどのような状態で仕事に取り組んでいるかを知る
部下の仕事以外の顔や価値観、働き方に影響を及ぼす環境を知ると共に、一個人としての尊重を示す
社内に徐々に浸透し、1on1 Meetingが「個を引き出すマネジメントを体現する場」「自由に発言する場」となり、日々のマネジメントの一部になりつつある。
パナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社 人事部 人事企画課 課長
杉江 拓治氏
京都大学大学院修了。2001年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。SEを担当後、人事に異動。事業部門やカンパニー本社部門の人事を歴任し、1on1Meeting導入など人事制度改革も経験。現在はグループのパナソニックシステムソリューションズジャパン株式会社で人事企画責任者。中小企業診断士。
上司から言われたことだけをやっていて成果が出せる時代ではないため、トラスコ中山は「自ら考え行動する人材」を求めている。求める人材とは、「独創的な発想を持つ人材」「『社会や会社をこうしていきたい』という熱意と情熱を持った人材」。上司だけでなく周囲からも公平に評価される多面評価は、このような人材を育てるのに非常に有効である。
誰が何点で投票し、どんなコメントを書いたかは社長であっても知ることはできない
コメントから得られる気づきが非常に大切
全社員が同じ目線の評価軸を持つ。誹謗中傷の禁止
トラスコ中山株式会社 取締役 経営管理本部 本部長
兼 デジタル戦略本部本部長
数見 篤氏
1993年入社。大阪支店長、カタログ・メディア課長、eビジネス営業部長などを経て、2019年取締役情報システム本部長に就任。現在は取締役経営管理本部長兼デジタル戦略本部長として、全社業務刷新と顧客視点に立脚したDXを推進するとともに、エンゲージメント向上に向けた人事制度改革を実践。
人事制度の目的は査定だけではなく、①「求められる人材」の育成・モチベーションアップと、②「理念・ミッション」「ビジョン・戦略」の実現。つまり、経営のニーズ(自社の理念・ミッション・ビジョン・戦略を実現するために必要な人材の確保・育成・動機付け)と、従業員のニーズ(経済的充実だけでなく、チャレンジングな仕事、達成感、承認。成長、自己実現など)を結び付ける必要がある。
シンプルで理解されやすく、一貫性と重点性がある人事制度が必要。制度の「ビジョン(目的)」を明確に定め、社員を「動機づけ」できる制度設計が重要である。
人事制度運用で最も重要な場面は「期中」のコミュニケーション。部下へ目標達成に向けたアドバイスを行い、評価への理解(納得感)を醸成する。また、このコミュニケーションによって上司のマネジメント能力も向上する。
期中:動機付けによる行動推進、中間進捗チェック・軌道修正、目標・評価基準に基づいた指導
期末:基準・ルールに基づいた適正評価、不足・必要能力の明確化、目標・期待の共有による動機付け
株式会社タナベ経営 執行役員
HRコンサルティング東京本部長
川島 克也
経営全般からマーケティング戦略構築、企業の独自性を生かした人事戦略の構築など、幅広いコンサルティング分野で活躍中。企業の競争力向上に向けた戦略構築と、強みを生かす人事戦略の連携により数多くの優良企業の成長を実現している。