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【イベントリポート】

イベント開催リポート

タナベコンサルティンググループ主催のウェビナーやフォーラムの開催リポートです。
イベントリポート2021.04.09

ブランディングフォーラム2021


2021年4月号

 

 

世界の地域けん引企業は何を考えているのか

 

 

タナベ経営は2020年1月19日、無料Webフォーラム「ブランディングフォーラム~世界の地域けん引企業は何を考えているのか~」を開催した。当日は184名の経営者や経営幹部、経営企画担当者などが、国内外で好調な中堅中小企業のブランディングについて講演を視聴。コロナ禍を生き抜く強いブランドのつくり方について学んだ。

 

 

ゲスト講演1 地方の中堅・中小企業ならではの手法を学ぶ~ブランディングやプロモーション~

新型コロナウイルス感染拡大以降でも好調な企業や事業がある。4つの製品やサービスについて紹介したい。

 

1社目は、2020年6月にオープンした東京・立川の「SORANO HOTEL(ソラノホテル)」だ。同ホテルは、シンガポールの高級ホテルのような柵のないインフィニティープールが話題である。コロナ下でも、オープン2カ月後の8月に客室稼働率が50%を超えた要因はプールだけではない。旅館のように人数ではなく部屋当たりで料金設定を設けたことや、会員は6回宿泊すると1泊分が無料になるなどのリピートを促す工夫が挙げられる。

 

2社目は福井県の小杉織物だ。コロナ禍の影響により、主力商品である浴衣帯の受注がなくなり休業。しかし、休業翌日に余った生地とゴムなどで試作したマスクを取引先へ紹介したところ、休業1週間後にはマスクの生産に追われることとなった。さらに、プロ棋士の藤井聡太氏が同社のマスクを着けていたことが話題になり、注文が殺到。休業翌日に試作品を完成させて取引先へ紹介した熱意が、成功要因の1つだろう。

 

3社目は鋳物ホーロー鍋「Vermicular(バーミキュラ)」で有名な愛知ドビー。コストパフォーマンスよりも自分の「譲れない一線」を超える商品を求める消費傾向が見られる中、同社が2020年4月に新しく発売したのはフライパンである。「巣ごもり消費」により家庭で料理をする機会が増えたことも追い風となり、約2万円する製品にもかかわらず、発売から5カ月で10万台超を受注。「ブランドマネジメントは顧客との約束」と、常に研究開発を続けてきた同社の地道な努力が実った。

 

4社目は愛媛県松山市にある料理屋の網元茶屋だ。店主の塩沢氏が提供するハモ料理は、骨を切らずに抜いて調理する。塩沢氏はこの珍しい技を、コロナ禍の影響で休業していた期間に、材料費込みマンツーマン30分5000円という安い講習料で県内の料理人に教えた。料理人が協力し合えば、コロナが終息したときに水揚げ日本一のハモで町を興せると考えたからである。塩沢氏1人が始めたこの取り組みは、現在、地元企業を巻き込んだ町おこしプロジェクトとして動き出している。

 

 

 

商品ジャーナリスト
サイバー大学 IT 総合学部 教授
北村 森氏

 

 

 

ゲスト講演2 「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?~小さなサイズで深掘りする~

イタリアの中堅・中小企業は、「狭く深く」が得意である。制限された範囲で確実に利益を出し、既存の物事に新たな価値を見いだすのだ。日本企業のヒントとなりそうな3つのブランドを紹介したい。

 

ブルネロクチネリというファッションブランドは、1978年に創業した年商600億円の企業である。同社の特徴は3つ。1つ目は職場環境だ。協力工場を本社からおよそ100km圏内に絞り、従業員の給料を国内の競合企業よりも20%高く支払う。2つ目は製品のデザイン。奇をてらうのではなく、スタンダードなデザインをアップデートし、ロゴを表に出さない。3つ目は地元への貢献。劇場や社会人学校を設立し、自分たちの力で生きられるローカル文化の創造と継承に努めている。同社の企業姿勢は、経営学者やコンサルタントから「人間主義的(倫理)資本主義の経営」と呼ばれており、事業そのものが非常に革新的である。

 

モレスキンというブランドは黒い革にゴムバンドが付いたノートが人気だ。ゴッホやヘミングウェイが同じ仕様のノートを愛好していたことからよく老舗に間違われるが、同ブランドのノートが発売され始めたのは1997年のことである。作り手のブランディングの巧妙さがうかがえる。

 

アレッシィという調理用品のブランドは、既存のワインオープナーにユーモアなデザインを施し、ただの調理器具にエンターテインメント性という新たな価値を見いだした。

 

日本企業へのアドバイスは4つ。1つ目は、異文化を理解するとはどういうことかを知るのが全てのスタート地点ということ。文化によって「良い」とされるものは違う。2つ目は、中規模の量産で限られた複数市場を対象とし、質を重視すること。製造品質だけでなく、社会文化に意味を提供することを視野に入れたい。3つ目は、常に先端技術を用いる必要はないこと。小規模な企業でも汎用技術で勝負できる道筋が必ずある。4つ目は、世界では手を使う工程のあることが高評価になり得ること。例えば、イタリアではハンドメードにこそオリジナリティーがあると見なされている。

 

 

 

モバイルクルーズ株式会社 代表取締役社長
De-Tales ltd. ディレクター
安西 洋之氏

 

 

 

パネルディスカッション 世界の地域けん引企業は何を考えているのか

平井 日本国内外の地域をけん引する中堅・中小企業のブランドづくりについてお話しいただき、ありがとうございます。ブランディングに成功している日本とイタリアの企業に、共通点はありますか。

 

北村 企業規模が小さくても成功しているのは、プロダクトアウトの開発です。マーケットの中ではなく自分たちの中に答えがあり、作り手として商品がどうあるべきか見定めた企業が強いと感じます。

 

安西 確かに、自分が愛せないものを顧客が愛するわけがありません。

 

平井 今回の講義にあった網元茶屋やブルネロクチネリのように、地域と深く関わっている点も特徴として挙げられます。

 

北村 世界最高峰の自動車のデザインスタジオで働いていたデザインディレクターに、ものづくりに必要な3つの要素を聞いたことがあります。1つ目は「その土地ならではの風土と文化」。2つ目は「ものづくりの技術」。3つ目は、先述した2つを生かす「ビジネススキル」だそうです。

 

1つ目と2つ目は日本とイタリアの企業に共通していますが、3つ目は日本企業の弱いところだと思います。いかに地域の強みを生かすかが課題です。

 

安西 イタリアにはアルタガンマ財団という、高級ブランドが加入している組織があります。例えば、中小規模のブランドが自社だけで市場調査機関へ依頼するのは費用面から厳しいわけですが、財団から依頼すれば1社にかかる負担が少なくなる上、業界全体で情報が共有されます。

 

国内企業同士のつながりがあることが、老舗だけでなく、スタートアップもラグジュアリー市場でチャンスを得やすい土壌をつくっています。

 

飯田 なぜ日本からメガブランドが生まれないのか。その要因の1つとして「優しくて内向きな日本人の気質があるのでは」と言われています。イタリアの企業のように市場で存在感のあるブランドを構築するためには、日本企業には何が足りないのでしょうか。

 

安西 異なる文化があるという考え方が重要でしょう。日本国内でも、関東と関西で受け入れられるものが違うように、地域によって「良い」とされるものは違います。

 

例えば、日本人はイノベーションや先端性がラグジュアリーであると認識しない傾向にありますが、イタリア人はラグジュアリーであると認識します。異なった見方や認知が世の中にたくさんあると知ることが大切なのです。

 

日頃、ラグジュアリーについてさまざまな世界の人に話を聞く機会があります。インドやイタリア、フランスでラグジュアリーマネジメントを教える先生は、口をそろえて「最初に『異なる文化』を教えている」と言っていました。ブランド論や経営について教えるのは、その後なのです。

 

北村 そもそも、中堅・中小企業がメガブランドになる必要はないかもしれません。何も100万人を相手にしなくても、1万~1000人程度の中規模な市場をターゲットにすれば良いのではないでしょうか。

 

安西さんの講義で、日本企業へのアドバイスとして話されていた「中規模量産」が非常に示唆に富んでいます。質も追求しながらしっかり収益化できるだけの規模で、万人ではなく、ある一定の層にちゃんと刺さるように売っていく意識が大事なのだと思います。大企業ではなく、中堅・中小企業だからこそ「この数でいけば利幅もとれて質も担保できる」と見定めることができるわけです。

 

貞弘 ブランドは作り手の思いから始まり、展開、浸透していく上で文化の違いを理解する。また、使い手に寄り添って、相手や相手の地域の文化を知るというアプローチが大切なのですね。

 

北村 アフターコロナは必ずやってきます。輸出に注力するだけでなく、また訪日外国人が戻ってきた時に何をもたらし、何を提供するのか、今のうちに準備しておくのが重要でしょう。

 

安西 例えば、日本の土産はその土地の人が日常で食べないようなものばかりです。それに対してヨーロッパでは、地域の人々が日常的に食べているのより少しグレードが高いものです。土産一つ取っても、どのようにアプローチしていくのか、戦略を考える必要があります。

 

北村 確かにそうですね。地方のヒット商品を研究する中で、私は常々、地元の人が振り向かない商品を他地域の人たちが買うはずがないと言っています。まずは、地元の人たちに受け入れられる、買ってもらえる、そんなものづくりが求められているのです。

 

平井 コロナ禍で世界的に先行きが不透明な中、日本の中堅・中小企業の活路や可能性を示していただいたことで元気になれた方も多いと思います。本日はありがとうございました。
 

商品ジャーナリスト
サイバー大学 IT 総合学部 教授
北村 森氏

 

モバイルクルーズ株式会社 代表取締役社長
De-Tales ltd. ディレクター
安西 洋之氏

 

株式会社タナベ経営 執行役員 マーケティングコンサルティング本部 本部長
飯田 和之

 

株式会社タナベ経営 経営コンサルティング本部 九州本部 副本部長
平井 克幸

 

株式会社タナベ経営 戦略総合研究所 副本部長
貞弘 羊子

 

 

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