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【研究リポート】

視察リポート

タナベコンサルティンググループが行った視察(展示会、フォーラム、海外企業など)をリポートします。
研究リポート2020.02.28

ハワイ視察2019リポート

 

 

 

タナベ経営が運営する「観光・ツーリズムビジネス成長戦略研究会」は、2019年10月2~6日に企業9社(参加者10名)と共に米ハワイ州オアフ島を訪問。世界有数のリゾート地が生み出す付加価値の舞台裏とリピート率の高い持続可能な観光戦略について学びを得た。今回は、その一端をご覧いただこう。

 

 

 

 

Halekulani

 

2017年に創業100周年を迎えた名門ホテル「Halekulani(ハレクラニ=ハワイ語で“天国にふさわしい館”の意)」。三井不動産グループが所有・運営する同ホテルは州都・ホノルル市があるオアフ島のワイキキビーチに立地し、世界有数のラグジュアリー(高級)ホテルとして知られる。また2019年7月に沖縄県恩納村で「ハレクラニ沖縄」を開業し、海外へ初進出した。

 

同ホテルが長期にわたり多くの顧客から支持を集めている要因は、いつか泊まりたい・また利用したいと誰からも「憧れられ続ける」存在になるべく、ターゲットを絞り込みブランドを構築したことだ。さらには優秀な人材と高品質なサービスを維持し、世界のセレブを魅了し続けている。

 

同ホテルの全従業員850名のうち、勤続40年を超えるスタッフが120名もいる。また、1室当たり2名のスタッフを配置し、外部への業務委託を一切行わず自社運営に徹するなど、業界の常識を覆すオペレーションで質の高いホスピタリティー(おもてなし)を実現している。

 

ハレクラニホテルハワイの高岡一輝氏(セールス&マーケティング アジア アソシエイトディレクター)は「世界がAI化・ロボット化されてもこのホテルは生き残ると思います。人は人を求めます」と話す。

 

 

 

111-HAWAII PROJECT

 

「111-HAWAII PROJECT(ワン・ワン・ワン・ハワイ・プロジェクト)」は、ハワイ州観光局公認の地域活性・社会貢献プロジェクトである。“111”とは「1Hand」(ワンハンド:観光客の手)、「1Heart」(ワンハート:地元愛)、「1Home」(ワンホーム:わが家)を示し、観光客が地元企業の商品を買うと、その売り上げの一部がハワイの環境・文化保護団体へ寄付される仕組み。

 

ハワイは世界有数のリゾート地のため、商業施設には各国のブランド商品が集まる。それ故、地元の中小企業が生産する上質な商品の多くは陰に隠れてしまうことが多い。そこで、さまざまなハワイの生産者と共に商品を開発して「111-HAWAII」の統一ブランドで販売。「Made in HAWAII」(メード・イン・ハワイ)の価値を高めることで地域活性を目指している。

 

スモールビジネスを一つのブランドにまとめることで付加価値を上げる。併せてブランディング活動により知名度、プレミア度、リピート率を向上させ、広告コストを下げていく。このプロジェクトは、地方の中小・零細事業に最適な成功モデルの一つである。ポイントは、関わる人が納得し協力したいと思える大義名分を創ること。そして商品を指名購入してもらえるようなストーリー(ブランディング)を明確にすることである。

 

 

 

 

ZIGU

 

ハワイアン・カフェ・バー・ダイニング業態の「ALOHA TABLE(アロハテーブル)」を運営する日本の外食チェーン・ゼットンが2018年5月、ホノルル市ワイキキに和食レストラン「ZIGU(ジグ)」をオープンした。店名の由来は、店舗のコンセプトである「EATLOCAL」(地産地消)を、「地(ZI)を喰らう(GU)」と和の音に置き換えたものだという(同社ホームページより)。ハワイの食材で和食が味わえるとあって、日本人や現地の人々だけでなく、海外の観光客の間でも人気を呼んでいる。

 

観光先進地ハワイでビジネスを展開する魅力は、富裕層を中心に年間1042万人(2019年)の観光客が訪れるマーケット、温暖な気候と風光明媚な自然環境、そして治安の良さと言語(他国に比べ日本語が通じやすい)にある。一方、ビジネスライセンスの取得難や物価の高さ、行政との関係、人脈づくり、売り物件の少なさなどの参入障壁もある。ハワイで生き残るのは容易でないが、競争に生き残れば老舗化するという点が挙げられる。

 

同社現地法人(ZETTON,INC.)副社長の菊地大輔氏は、ハワイでビジネスを行う理由について、「障壁が高く厳しい環境だからこそ、ブルーオーシャン(高付加価値、高利益)が実現できる。“体力勝負×忍耐×継続”が必要」だと語る。同社のビジネスモデルから、同一業態の店舗展開ではなく、地域の魅力を生かしたコンセプトレストランの複数展開で成長するという示唆を得た。

 

※ハワイ・ツーリズム・オーソリティー/プレスリリース(2020年1月29日

 

 

 

観光先進地ハワイに学ぶポイント

 

ハワイ視察を企画したきっかけは、沖縄県のある企業の社長の一言だった。

 

「インバウンドが急増しても、収益モデルが未確立だと地域は幸せになれない。今、日本の観光事業が目指すべき一つのモデルはハワイの高付加価値、高単価、高収益モデルではないか」

 

ハワイは、自然環境やリゾートブランドにあぐらをかくことなく、常に進化を続けている。その一つが、緻密な「ブランドマネジメント」である。観光客数、観光消費額、航空会社の空路別座席数などのKPI(重要業績評価指標)を細かく設定し、毎月、PDCAマネジメント(原因分析、対策)を行っている。

 

そして、「持続可能な観光」への取り組みも注目に値する。自然環境は有限であり、自分たちの世代で消費してはいけないという認識を共有し、観光事業者も宣伝するだけではなく、地域資源を守ることに責任を持ち、目先の利益にとらわれない取り組みを行っている。

 

併せて、責任ある行動を取る観光客を育成しようという動きがある。ハワイは現在、「レスポンシブル・ツーリズム」(責任ある観光)を提唱し、自然環境への配慮、地域住民の理解と協力を得ながら、地域社会と観光産業の持続的発展の実現を目指す取り組みを行っている。

 

日本ではオーバーツーリズム(観光地が耐えられる以上の観光客が押し寄せる状態)や地域間格差など、インバウンド急増の弊害も出始めている。観光という成長マーケットで新たな「稼ぐモデル」を確立する上でも、本稿で述べたポイントを念頭に置いていただきたい。

 

 

 


 

 

 

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