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【イベントリポート】

視察リポート

タナベコンサルティンググループが行った視察(展示会、フォーラム、海外企業など)をリポートします。
イベントリポート2019.12.27

フィンランド&エストニア視察2019リポート

 

業種・業界・地域を超えてボーダーレスにイノベーションを探求するビジネスモデルイノベーション研究会は、2019年9月29日~10月5日、北欧の最先端国家フィンランドとエストニアを訪問し、計10社以上を視察。現実社会とサイバー空間を高度に融合させる未来の世界、“Society5.0”を実現している2カ国で得た学びを紹介する。

 

 

観光名所のヘルシンキ大聖堂。もともとは黄色い外観だったが、19世紀末に薄い灰色と白色の装飾となった

 

Finland

フィンランドは近年、シリコンバレー、イスラエル(シリコンワディ)と肩を並べて評されるほどのイノベーション先進国として知名度を上げ、注目を浴びている。そのきっかけは、国の基幹企業とも言うべきノキアがスマートフォンの台頭によって衰退していく中、同社を去った優秀な人材がその技術を生かしてスタートアップ企業を次々と立ち上げたことにある。同時期にフィンランド政府が国を挙げて、スタートアップエコシステムの創出や社会システムのデジタル化などを推進したことも相乗効果をもたらし、同国はイノベーション先進国として生まれ変わった。国連の「世界幸福度ランキング2019」において、2年連続でトップに輝いている“豊かな国”でもある。

 

 

1.NewCoHelsinki

多くのスタートアップ企業の創出と、持続的成長を支援する目的で2013年3月に設立した「NewCo Helsinki」は、ヘルシンキ市が運営するスタートアップ支援機関である。フィンランド全体で年間6000社のスタートアップ企業が輩出される中、約1000社を同機関がサポートしている。

 

その取り組みは、アクセラレータープログラムの企画・提供、ビジネスアドバイス、資金調達に向けた投資家との橋渡しなどをはじめ、4000万ユーロの予算を用いて、自らスタートアップ企業への投資も行う。国際的な市場にアクセスし、グローバルなスケールに成長させるため、外資企業とパートナーシップを組んでいることも同機関の強みである。

 

また、さまざまなスタートアップ企業のデータを集め、相互に活用できる仕組みを構築しており、行政・大企業・スタートアップ企業がシナジーを生み出している。NewCo Helsinkiはその中心を担う重要なイノベーションハブとなっている。

 

 

 

2.Forum Virium

Forum Viriumは、旧工業地帯であるカラサタマ地区でスマートシティー構想の実現を推進する組織である。同地区は「(住人が)1日1時間自分の使える時間を増やす」をビジョンに、さまざまなイノベーションを実証する場として再開発されている。

 

同地区ではインフラストラクチャーサービスの自動化が進んでおり、モバイル機器での家電操作や独創的な廃棄システムなどが特徴的だ。具体的には、ゴミ捨て場から直結する地下のパイプラインに、分別された廃棄物を吸い込ませ、毎時40マイル(毎時約64km)の速度で、自動的に廃棄物処理施設に運搬するインフラシステムがある。また、当日は自動運転の無人バスが街中を走行する実証実験を目にすることができた。

 

Forum Viriumはこれまで81のプロジェクトを手掛け、750の企業とコラボレーションをし、170の研究所と連携してきた実績がある。REFILLプロジェクトでは、地域の空きスペースを有効活用する管理システムを構築。スペースの有効活用のためのデジタルソリューションを提供している。現在、医療機関用の医薬品流通用のロボット開発にも携わっており、医療スタッフの労働時間削減に貢献しているという。

 

廃棄物収集ボックス。このエリアの住民のみが利用できる。ごみを捨てるためには、コードが必要な仕組み(上)
試運転中の自動運転EVバス。開発したのはフランスの自動運転バスメーカー「Navya(ナビヤ)」(右下)

 

 

3.Espoo Innovation Garden

エスポー市は、2018年に米ニューヨークのシンクタンクであるインテリジェント・コミュニティー・フォーラムが発表した「Intelligent Community Awards 2018」において、1位に選ばれたほどのイノベーションシティーである。

 

“Espoo Innovation Garden”は、1万8000人の学生と40の研究開発組織、上場企業が一堂に会する国内最大級のエコシステム・プラットフォーマー。その基盤は2010年にヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ工科大学などの協力によって設立されたアールト大学だ。学生や大学主体の団体が中心となり、多様なスタートアップ・プログラムが運営されている。

 

 

 

4.ED DESIGN

1963年創業でトゥルク市に本社を置くインダストリアルデザイン企業である同社は、戦略設計から製品設計・サービスの設計まで行い、フィンランド内外でのデザインコンペティションで30以上の受賞歴を持つ。

 

見た目だけでなく、背景、ユーザビリティーなど、目的に沿ったデザインにこだわり、ILOQのWireless SAFE E-LOCK(自己給電式の電子錠)をはじめ、多くの設計を手掛けてきた。特に、トラクターのVALTRAシリーズのデザインは、物流の効率化という観点と、洗練された北欧デザインを取り込んだ設計で、ひときわ注目を集めている。

 

 

 

5.Inventure

2005年創業のベンチャーキャピタルである同社は、50社以上の起業を支援している。特にシード段階のスタートアップ企業の支援が強み。今日のフィンランドにおけるベンチャー投資で中心的な役割を担っており、世界各国の企業や投資家が同社のファンドに参加している。

 

特に、ノキアの影響を受けたIoT関連やヘルステックの注目度が高く、革新的なテクノロジーソフトウエアおよびデジタルサービスなどを有する、北欧企業への投資にフォーカスしている。同社の投資評価基準は、市場シェアや売上高の伸び率だけでなく、起業者のパーソナリティーも重要視しているのが特徴。

 

 

 

 

Estonia

エストニアはバルト3国の一つだ。日本の8分の1程度の面積に対し、人口は約130万人と人口密度が低い。国土の半分以上を森林が占める、自然豊かな国である。その一方で、近年は「世界最先端のICT国家」としての側面を持つ。また、国民1人当たりのスタートアップ数は欧州一であり、Skypeを含め、ユニコーン企業が4社も存在するイノベーティブな国として、近年注目されている。今回は、エストニアが世界最先端といわれるゆえんである「電子政府」の仕組みや、アントレプレナーシップを支える国・学校・民間企業のつながりと教育環境について、視察を行った。

 

 

1.e-Estonia show room

e-Estonia show roomは、電子国家としての取り組みをエストニア政府がPRする場として作られたショールームである。同施設にて学んだエストニアのデジタル・イノベーションについて、経緯や取り組みを紹介したい。

 

エストニアが電子・デジタル国家に成長した背景には、1991年に旧ソビエト連邦から独立を回復した際に新しい社会インフラの構築が必要であったことと、他国の侵略による物理的な喪失を避けるため、主要な情報をクラウド上で管理したことが挙げられる。1996年にオンラインバンキング、2002年に電子IDカード、2005年に電子投票が始まり、今では行政・民間を問わず、オンラインでの手続きが当たり前となっている。そこには、小さな国の利点を生かした小回り力やインターネット環境の充実とともに、国民の国家・電子政府への信頼度が高いことが挙げられる。

 

信頼度が高いポイントは、個人データが国家・行政ではなく、「個人」に帰属するという個人主権と、サイバーセキュリティーに対する強固な仕組みだ。これまで多くのサイバー攻撃を受けてきたものの、ハッキングされたことはないという。これらのポリシーとシステムによって、エストニアの人々は99%の行政サービスをオンラインで済ませる。

 

ビジネスにおけるインパクトは、スタートアップにとってハードルが低いことであろう。ビジネスの手続きも全てオンラインで処理でき、海外からのアクセスも自由にできるのだ。「e-Residency」という制度では、居住権を持たない海外の人々にもIDを発行し、エストニアの公的プラットフォームを利用できるようにしている。他にも、起業のための登記が18分、200ユーロで完了したり、税務調査や税務申告が3分で終わったりと、経営者にとってうれしい環境が整っている。

 

 


2.Planetway

電子政府システムを民間向けに提供しているIT企業のPlanetway。日本でエストニアの技術を紹介・提供し、コラボレーションを行っている。同社が保有しているIDカード(日本のマイナンバーカードに相当)の技術は、エストニア国内のインフラとして浸透しており、高い信頼性を誇る。

 

「X Road」という政府と民間のデータを安全につなぐシステムは、日本国内でもすでにローンチ(開始)されており、東京海上日動火災と飯塚病院(福岡県飯塚市)をマッチングさせ、データを共有するシステムを開発している。他にも、東京のガス会社へコールセンターのソリューションデータベース「Planet Crosss」を提供。顧客データの検索を5分から0.2秒に、顧客対応を6分から1分に短縮するという劇的な効果をもたらしている。

 

 

 

3.MEKTORY タリン工科大学

MEKTORY(Modern Estonian Knowledge Transfer Organization For You)は、エストニアやタリン工科大学で創出された知見や技術をもとに起業するスタートアップへ、支援などを行うイノベーションハブである。

 

その取り組みは、プロジェクトの発表やピッチイベントの開催、学生に対するアントレプレナーシップ教育、ワークショップ、技術キャンプの実施、スタートアップ・コンクールなどさまざま。スタートアップ・コンクールでの優勝者は、ラボの一室をインキュベーション・オフィスとして利用できたり、大きなピッチイベントへの出場権を得たりする。また、スタートアップインキュベーター(テクノポール)と連携しているため、その支援を受けることも可能だ。施設内には、MEKTORYとの連携を目的に、スポンサーである大企業のコンセプトルームがある。

 

タリン工科大学は国立の工科大学であり、多様な分野の研究施設やサイバー防衛の学科がある。情報技術、ビジネスとガバナンスが学べる学部を中心に、国際的な大学として欧州だけでなく、ロシアやアフリカ、中東などから優秀な学生が集まる。大学内では、バイオロボティクスをはじめとするさまざまな研究プロジェクトを推進。また、他国や他大学とのネットワークを構築しており、日本においては、2011~2013年に三菱自動車と電気自動車のプロジェクトを協働した実績がある。

 

産官学連携による起業家支援施設「MEKTORY」

 

 

 

 フィンランド・エストニアから学ぶイノベーション戦略のポイント 

 

正しい危機感の認識(危機感を原動力に)

フィンランドはノキアの低迷を機に、国民のマインドが大企業志向からアントレプレナーシップへと変容し、自らイノベーションを推進する気風が生まれた。エストニアでは、地政学上の危機感から国家防衛の観点でもデジタル化が強力に推進されている。

 

小さいことが強力な武器(小回りを利かせる)

両国ともに人口も面積も小さな国家だからこそ、柔軟性があり、小回りを利かせることができたと言える。そこには、きっかけとなる出来事を、全体のムーブメントへと波及させやすいという利点がある。国家や企業、教育機関、個人など、あらゆる組織や人々が改革への思いを共有し、全体で進める姿勢がイノベーションには必要だ。

 

強みの錬磨とオープンイノベーション(技術を核に)

ノキアや旧ソビエト連邦など、歴史的背景の中で培ってきた技術をベースとして、さまざまなスタートアップが立ち上がり、それが行政や大学、大企業、VC(ベンチャーキャピタル)などの参画するエコシステムの中で錬磨され、成長してきた。高度化・複雑化する現在の経営環境において、オープンイノベーションは非常に重要な取り組みである。

 

 

 

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