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【研究リポート】

視察リポート

タナベコンサルティンググループが行った視察(展示会、フォーラム、海外企業など)をリポートします。
研究リポート2019.09.30

オランダ視察2019リポート

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タナベ経営の「アグリビジネスモデル研究会」は2019年6月24~27日、参加企業13社(16名)と共にオランダ5都市を訪問し、最先端のスマートアグリを実践する企業6社を視察。企業家発想のビジネスモデルから大きな学びを得た。今回はそれらのうち、4社を紹介する。

Middenmeer
Barendse-DC バーレンセDC

北ホラント州にある「アグリポートA7」は、7km×2kmという広大な敷地に巨大な“太陽光植物工場”(グリーンハウス)が並び、国内外から年間6000人以上が視察に訪れる施設園芸団地だ。ハウス内の温度や湿度、二酸化炭素濃度などはセンサーで管理されており、生産者・研究機関・商社が連携して生産性アップのためにデータを活用するなど、最先端のスマートアグリを実践している。1986年に小規模なパプリカ栽培を始めたバーレンセDCは、現在このアグリポートA7でオレンジパプリカの大規模生産に経営資源を集中する、志高き企業である。

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ハウスでは地熱を利用した温室管理を実現。電力は天然ガスを原料に自家発電し、生じた二酸化炭素を使用(余った電力は近隣の事業所へ売電)。規格外品はフードバンクに年間10t提供するなど、徹底した“無駄なし経営”を実践している。

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Rotterdam
Floating Farm フローティング・ファーム

2019年6月、世界初の水上牧場がオランダ第2の都市・ロッテルダムでオープンした。約30m×40mの海に浮かぶ酪農場で40頭の乳牛を飼育するほか、ヨーグルトやチーズなどの加工食品まで生産している。

消費地の近くに生産地をつくるという着想から始まったこの酪農場。商品は、近隣のレストランやホテル、スーパーマーケットなどに販売する地産地消型であることに加え、乳牛の飼料の8割は飲食店から集められた食品残渣であり、飼料も現地調達する循環型アグリビジネスを実現している。自治体の協力で10年間は地代・光熱費ゼロだが、シンガポールをはじめ世界から引き合いがくる未来型の垂直型農場経営モデルである。

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Den Haag
TOMATO WORLD トマトワールド

6農家が集まって設立し、約50社の企業出資により運営されているトマトの総合研究施設。さまざまな形や色、サイズのトマト約80種を、温度や湿度、光、水、栄養、二酸化炭素などを制御するITシステムで栽培している。オランダトマトのブランドマネジャー的存在であり、栽培方法や品種紹介、試食の他、生産技術、安全性、栄養価といった情報を広く公開。また、包装技術だけでなく、機能価値をパッケージングして訴求するといったマーケティングノウハウの発信も行っている。

ハウス内を案内するプレゼンターは、「技術力を培うためには、その品種に即した徹底した管理・制御が大事。従って、例えば冬はスペインからトマトを仕入れ、二毛作はしない」など、短期的な利益のために無理をしない“身の丈経営”を強調していた。

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Amersfoort
Rondeel ロンディール

ロンディールは、「生産者とニワトリにとっての最善の農場の提供」をミッションに掲げる革新的な鶏舎である。ワーヘニンゲン大学とその研究機関、政府関連機関、オランダのリーディングカンパニーVenco(ベンコ)社、環境保護団体などによって開発・運営されている。

一つの施設内にニワトリの平飼い場と産卵場、生産された卵のパッキング場があり、温度管理や衛生管理、疫病防止対策、集卵システムの効率化、糞尿管理などを徹底。環境面とAW(アニマルウェルフェア:動物福祉)に配慮した飼育環境を追求しつつ、生産性を高める管理体制が構築されている。

同鶏舎の卵は、Beter Leven(AW認証)三ツ星認証。ストレスフリーな飼育環境などが評価され、本来は有機生産のみに与えられる三ツ星の価値があると判断されているという。

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日本企業が学ぶべきアグリビジネスのポイント

狭い国土面積、生産者の減少・高齢化、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の影響など、オランダと似た環境にある日本のアグリビジネスは、今後、課題にどう向き合うべきか。アグリビジネスモデル研究会は、今回、この課題研究のため、オランダ現地の生産者6社を視察した。

国策や法的規制が異なる両国を一概に比較することは難しい。だが、オランダのアグリビジネスを進化させたのは、何よりも生産者の「企業家発想」だ。センサー技術による水・肥料・二酸化炭素の供給自動化、作物の成長に適したLEDの採用、クラウドサービスによる確実なトレーサビリティー、スマホアプリでの生産管理など、一般農家の約8割が自動制御システムを積極的に採用している。

また、単一生産者で投資が賄えない場合、同一品目を生産する生産者が連携して研究・生産・技術開発を行う。それによって規模の経済が働き、単位当たりのコストダウンや収益性の向上に寄与するなど、“未来志向”のパートナーシップが極めて強い。

加えて、どの生産者も異口同音に、「世界規模の食糧不足」に向けた「サステナブル」な農業の必要性を前面に出した経営に取り組んでいる。社会課題解決業ともいえるアグリビジネスだが、ワールドワイドなミッションに直接向き合うスタイルに経営者の覚悟を見た。

アグリビジネスは1日にして成らず。地球の裏側にあるスマートアグリ先進国の取り組みに、日本のアグリマーケットにおけるさらなる連携と、企業家マインドの必要性をあらためて感じる。

 

 

 

 

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