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【研究リポート】

視察リポート

タナベコンサルティンググループが行った視察(展示会、フォーラム、海外企業など)をリポートします。
研究リポート2019.02.28

シアトル&ポートランド視察2018リポート

タナベ経営の「ビジネスモデルイノベーション研究会」は2018年10月、参加企業22社(25名)と共に米国シアトル(ワシントン州)およびポートランド(オレゴン州)を訪問し、同エリアの企業視察を実施した。4日間という限られた時間の中で、ベンチャー企業など9社・3施設を視察。シアトルは「人の生活を変えるイノベーション」、ポートランドは「人の生活を彩るイノベーション」をコンセプトに、世界を代表する企業やベンチャーインキュベート企業を通じて、高い先進性でイノベーションを生み出す米国企業の最新の取り組みを学んだ。特に、デジタルテクノロジーの波は思った以上に日本にも早く到来することが肌で感じられ、ビジネスモデルイノベーションの必要性に迫られる良い機会ともなった。ここで先進企業8社を紹介したい。

 

Boeing
ボーイング

フランスのエアバス社と世界シェアを二分するボーイング社のエバレット工場。実際に訪問してみると、その製造工程のスケールとダイナミックさに圧倒される。

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世界最大の航空宇宙機器開発製造会社であるボーイング。世界で唯一、飛行機の組み立て工程を見学できる工場「Boeing EverettFactory」を見学した。同工場では同社を代表する7シリーズ(747、777、787など)の機体を製造。地下から5階まである世界最大の容積を持つ建築物であり、加えて床面積は約40万m2と広大だ。クレーンで機体を移動させる姿は圧巻。常時3万5000人の社員がここで働いているという。欧米では珍しい、終身雇用の企業という特徴もある。

 

Starbucks Coffee
スターバックス コーヒー

世界最大のコーヒーショップとなったスターバックスが生まれた背景や歴史、コーヒーを愛するシアトル市民の豊かなライフスタイルが肌で感じられた。

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今では世界中で成功を収めるスターバックスコーヒーの第1号店焙煎工場を訪問視察。シアトルで香辛料を販売しながらコーヒーをサーブしていた店から、創業者がコーヒー部門を買収し、小さなコーヒーショップをオープンしたのが始まりだ。第1号店は小さい店だが、ここでしか買えないマグカップ(初代ロゴ入り)などを扱い、ブランド化している。

また2014年に希少価値のある高級コーヒー豆のライン『スターバックスリザーブR』の焙煎工場をオープン。焙煎されたばかりのコーヒー、大型焙煎設備、しかも見学できるスタバの焙煎工場は世界でもここだけ。店内は席を確保するのが大変なほどにぎわっており、コーヒーの注文に列をなしている地元でも人気のショップだ。

 

Ziba Design
ジバ デザイン

Ziba Designは1984年にスタートした工業デザイン企業。GEやHPなどの大手企業をクライアントに持ち、確かな実績を有する。同社の山崎満広氏より会社としての価値観に加え、ポートランドのまちづくりに関する詳細のプロセス・ノウハウについて話を伺った。

1984年にスタートした工業デザイン企業Ziba Design。創業者はHP(ヒューレット・パッカード)でデザインを担当していたイラン人だ(Zibaはイラン語で「美」)。社員は100名足らずだが、さまざまな分野のプロフェッショナルをクリエーターとして雇用。GE、HP、FedExなど世界各国の大手企業をクライアントに持ち、製品のみならず組織のデザインまで事業領域を広げている。同社デザイナーの山崎満広氏から、事業概要および「世界で一番住みたい街ポートランド」のまちづくりについて話を聞いた。試作品から完成形まで作れる設備とクリエーターをオフィス内に有する。また日本では盛んに働き方改革が叫ばれているが、同社の勤務体系は自由で自分の裁量に任せられている。そもそも仕事の成果を時間で測らない。成果を時間通りに出せば文句は言われないという風土が定着している、まさにクリエーティブ企業である。

 

Amazon Go
アマゾン ゴー

専用アプリの活用により、「スマートフォンのみ」で入店・決済・退店が可能。その体験からは、“AIが見せる世界の未来”を感じ取ることができる。

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AI開発で市場をリードするAmazon.comが2018年より展開を始めた、レジのないコンビニ。現在米国内に4店舗あるが、その1号店を視察した。100を超えるセンサーとAI技術を駆使し、「財布を持たず」「携帯のみ」で入店・決済・退店ができる同店では、軽食をはじめとする食品を中心に生活用品を取り扱っている。

利用者はスマートフォンアプリのRコードを、入店時に電車の改札のようなゲートにかざして入店。欲しい商品を手に取ったら、そのままゲートを抜けて店外へ。これで決済は完了である。なお、決済は店を出てから約5分後にアプリを通じて送信、精度は高いという。2021年までに3000店舗へ増やす計画が報じられている。

 

McMenamins Kennedy School
マックメナミンズ ケネディ スクール

ホテル・レストラン・地ビール・ワイナリー経営を推進。1990年代に廃校となったポートランド市立小学校の再開発を成功させた例として全米に知られている。

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McMenamins Kennedy Schoolは1915年に設立され、1990年代に廃校になったポートランド市立小学校の校舎と土地を、地元のレストラン・バー経営会社が買収。予約が1年以上取れない人気ホテルであり、教室を改装したゲストルームは清潔だ。社屋の中でクラフトビールを製造しており、レストランや趣のある2つのバーでも提供している。これらのレストランやバーは宿泊者以外でも利用可能であり、地域からとても愛されている場所である。また社屋内にシアターまである。

 

Innovation Finders Capital(IFC)
イノベーション ファインダーズ キャピタル

IFCのCEOである江藤哲郎氏より、「シアトルの経済事情」というテーマで講演をいただいた。「今後、日本企業が第4次産業革命で生き残るには」など現地の最前線にいる江藤氏ならではの貴重な話を聞くことができた。

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IFCはシアトルと日本を結び、現地企業と日本企業のオープンイノベーションを支援するベンチャーキャピタル。デファクト・スタンダード(事実上の業界標準)を狙うベンチャー企業をターゲットとしている。シアトルが「AI首都」と呼ばれる理由、人材供給ソースとして年間7700億円の予算を持つワシントン大学の活躍、日本企業とのミートアップについてお話いただいた。日本企業はAI開発が周回遅れだが、活用はいくらでもできるとのこと。日本の中堅・中小企業もペインポイント(顧客の悩みの種)を絞り込めば、大企業にない意思決定の速さを武器に、ミートアップできる可能性があることは大いに参考になった。

 

University of Washington
ワシントン大学

AI・ロボット・IoT・ビッグデータ関連の多数の研究者を活用し、同地域のイノベーションを支える。大内二三夫教授より、ワシントン大学の取り組みについて講演いただいた。

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人類の最も困難な課題を解決することが同校のミッション。「AIの首都」といわれるシアトルで、人材輩出の中心となっている。米国太平洋岸北西部最大の規模、全米第3位の研究開発費を有する同校は、スタンフォード大学と同様に豊富な予算で学生のスタートアップを支援する。ここでは同校教授の大内二三夫氏に、ビッグデータを活用した材料科学とデータサイエンスの融合、学内インキュベーション、東北大学との連携をテーマに講話をいただいた。データサイエンスとは、物質と情報をつなげる「Material Informatics」という概念であり、近年、非常に論文の提出数が増えている。

 

SURF Incubator
サーフ インキュベーター

わずか2名の社員で数多くの優秀なスタートアップを成長させている。訪問した際は、若手起業家たちが快く迎えてくれ、自身の経営ビジョンを楽しそうに語ってくれた。

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2000年代初めまで、シアトルにはスタートアップをフォローする環境がなかった。「このままでは、せっかく生まれたアイデアがもったいない」と、10年前に設立されたインキュベーターが、SURF Incubatorである。若手企業や個人起業家が成功をつかむためにさまざまなサポートを実施している。毎年200以上のネットワーキングイベントを主催したり、コワーキングスペースなどを提供したりすることで他のインキュベーターとの差別化を図っている。

なお、コワーキングスペースに誰でも入れるわけではない。代表者の価値判断基準に合致し、ビジネスモデルがある程度確立され、大きく羽ばたく間近の起業家たちのみである。会員の費用は月額1人当たり400ドル(約4万4000円)。だが、その利用人数(社員数)によって変わる仕組みとなっている。30名以上の規模になれば、別の場所へ行ってもらう仕組みである。

 

 

 

 

 

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