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【研究リポート】

FCC FORUM 2021

タナベコンサルティンググループ主催「ファーストコールカンパニーフォーラム2021~DX価値を実装する~」(2021年6~8月、オンデマンド開催)の講演録。デジタルを軸に、サービスやビジネスモデル、業務プロセス、組織風土を変革し、競争優位性を発揮する要諦を提言します。
研究リポート2021.10.01

セプテーニ・ホールディングス
AIを使った合理的な採用・配置・育成・活躍を実現

人材が成長するための独自の方程式を開発

 

タナベ経営・細江(以降、細江) ヒューマンリソースDXで、先進的な取り組みをされているセプテーニ・ホールディングスの上野代表取締役と、人的資産研究所の進藤代表取締役にお話を伺います。まずは会社と事業の概要についてお聞かせください。

 

上野 当社は1990年に創業し、新卒採用のコンサルティング事業をスタートしました。その後は、ダイレクトメールを活用したマーケティング事業へと大きく軸足を移行。さらに、2000年からは現在のメイン事業であるインターネットマーケティング事業へと進出しました。現在、グループ会社は30社以上で、従業員数は約1450名(連結)です。

 

細江 成長著しい貴社ですが、なぜユニークな人事施策を始めたのでしょうか。

 

上野 理由はいくつかありますが、最も大きい理由は、インターネット事業に参入後、経験したことのないスピードで会社が成長していったことです。組織内で人材の供給や育成が追いつかない状況に陥ってしまった。それが長く続くと、HRが事業成長の足かせになってしまう。そんな中、私は人事担当として外部のさまざまな人事サービスを活用したのですが、なかなか良い結果が出せずにもがいていました。

 

その際、現代表の佐藤(佐藤光紀 セプテーニ・ホールディングス代表取締役/グループ社長執行役員)から重要なアドバイスをもらったのです。「一般的な方法論を活用しても結果が出ないのだから、考え方を変えよう」と。そこで『マネー・ボール』(マイケル・ルイス著)という、映画化もされた米国の大リーグの実話を参考にしました。簡単に説明すると、有名な選手をスカウトするのではなくて、チームを勝たせる選手を獲って、自チームの戦略に適合させた育成をすることで勝利をたぐり寄せるストーリーなのですが、佐藤から「そういうマネジメントしよう」と貴重なヒントをもらいました。

 

そして試行錯誤の末にたどり着いたのが、「G=P×E(T+W)」という方程式です(【図表1】)。Gは成長(Growth)、Pは個性(Personality)、Eは環境(Environment)、そしてTがチーム(Team)、Wは仕事(Work)を表し、人は環境の影響を受けながら成長することを意味しています。この概念とAIを使って、今では採用、新入社員のオンボーディング(人材の定着・戦力化)など、さまざまな人事サービスに活用しています。具体的な取り組みについては、進藤がご説明します。

 

 

【図表1】人材育成の方程式

出所:対談資料よりタナベ経営作成

 

 

強みや成長度合いを可視化できるシステム

 

進藤 人材育成の方程式のもと、実際にどのような採用や育成をしているかをご説明します。「P×E」については「相性」と表現をしています。「FFS理論」という、人の組み合わせを科学するアセスメントを活用し、ある人材が在籍している環境にどの程度適しているのかを数値化します。

 

左辺の「G」は、「レピュテーション(評判)」を表現しており、個々の社員がどの程度成長したのかを定量的な数字で評価できる構造をつくっています。レピュテーションは、対象の従業員と共に働く約20名からさまざまな項目について評価をしてもらい、集計してスコア化します。イメージとしては飲食店のレビューサイトのスコアのような形で、点数として算出できるシステムです。

 

これにより、配属先でどれくらい社員が活躍できているのかというデータが集まるようになりました。このデータを使って、自社に適した人材を見つけたり、最適な社員の配置や育成をしたりして、生産性を高めていけるように活用しています。このAIマッチング技術「HaKaSe」を使い実証研究を続けています。

 

 

HaKaSeをオンボーディングで活用

 

細江 HaKaSeを活用して具体的にどのようなアプローチをしているのですか。

 

進藤 最初に着手したのがオンボーディングへの活用でした。どこに人材を配置し、どのような仕事をさせたら、最も成長しやすいのかをデータから割り出す。つまり、従業員にとってベストな環境を用意し、スムーズに育成を進めていく構造をつくっていくのです。今では、採用からオンボーディング、育成、その後のアルムナイ(退職したOB・OG)までを対象に研究しています。

 

注力したオンボーディングの取り組みとしては、配属先をデータに基づき最適化することでミスマッチを予防したことが挙げられます。また、方程式のT(チーム)に相当する人間関係を示す情報やPに当たる自分の強み、Wのどのような仕事が自分に適しているのかなどについて、図を用いた診断結果を提示するようにしています。

 

同じ情報は教育担当者にも共有され、成長する上でどのようなところに気を付ければ良いか、どのようなメンバーとコミュニケーションを取るとスムーズに仕事を進められるかが分かるようになっています。このような取り組みの結果、若手社員の早期戦力化する割合が3年で10%以上向上しました。

 

 

採用から人材教育までの「最適化」を目指す

 

細江 採用での活用状況はいかがでしょうか。

 

進藤 オンボーディングである程度の効果が見込まれたので、それを採用に拡大し、当社に合う人材を採用できる仕組みを構築してきました。現在は、全国の学生をターゲットにオンライン・リクルーティングという選考プロセスを確立しています。

 

従来、首都圏を中心に採用を行っていたのですが、2017年からより優秀な人材を採用するために対象エリアを全国に拡大しました。かつては応募者のうち5%程度だった首都圏以外の学生が今では70%を占め、全国から優秀な人材を集めることに成功しています。(【図表2】)

 

 

【図表2】AI型人事を採用に応用したことで得た実績

出所:対談資料よりタナベ経営作成

 

 

選考は全てオンラインで行うので、学生は上京に必要な移動コストがかかりません。また、学生の負担になる履歴書や志望動機の作成がいらないフローにしています。学生から取得したデータは、これまでに蓄積した社員のデータと照らし合わせて、入社後の成長を予測し、面接官はもちろん学生に対してもフィードバックをしています。

 

細江 エントリーした学生に対し、取得したデータを元にフィードバックしているのですか。

 

進藤 当社の選考に参加してデータを取らせてもらう代わりに、就職活動に役立つようなフィードバックを行っています。また、内定者に向けたフィードバックでは、当社に入社すると実際どのようなキャリアを形成できるのか、どのような課題が予測され、その課題を解決するためにどのようなサポートを行うのかといった、約60ページにわたる育成プランを個々の学生に伝えています。応募者に安心して入社していただける環境を伝えることで、内定辞退者をかなり減らすことができました。(【図表3】)

 

【図表3】内定辞退率の推移

出所:対談資料よりタナベ経営作成

 

 

さらに、入社後は「教育の最適化」に注力しています。オンボーディング後の各社員に合ったキャリアをつくっていくため、データを使って個々の社員に合ったタイミングで、それぞれの状況に応じたトレーニングを提供しています。

 

なぜ、このような取り組みを行っているかというと、社員の個性や環境によって、課題や困っている点が異なるからです。一律の研修やトレーニングではなく、各自に合ったタイミングで、個々の状況に適したトレーニングを提供することが、その後のパフォーマンス改善に効果的であると考えています。

 

個人情報の取り扱いに留意することが不可欠

 

細江 社員の個性や環境に合わせたトレーニングによる効果はいかがですか。

 

進藤 実際に行ったトライアルの結果を見ると、最適化したグループの方がその後のパフォーマンスが良いという成果に結び付いています。さらに、社内のレピュテーションも上がっていることが確認できているのです。このトライアルの結果を踏まえて、今後は全社員が自分に合った教育を受けられるような体制を構築していく予定です。

 

細江 そうした独自の取り組みを一般に公開されていますね。

 

進藤 CSRの一環として「Digital HR Project」というウェブサイトを開設し、取り組みを紹介しています。当社の研究事例をはじめ、各施策の結果や研究レポートが掲載されていますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

 

細江 HR領域でのデータ活用についてアドバイスはありますか。

 

進藤 実際に社員のデータを活用する上でご注意いただきたいのが、プライバシーに関する配慮です。データを取る前に、あらかじめガイドラインをオープンにして、「この活動は全部、皆さんの成長を目的に実施しています。その他の目的では使いません」と的確に伝えることが大切であると思います。

 

細江 社員に趣旨を的確に伝え、加えて、自身のキャリア形成や成長に不可欠な取り組みであるという共通認識を形成することが不可欠なのですね。

 

最後に、セプテーニグループとしてHR領域を今後どのように展開されるのか、お聞かせください。

 

上野 当社は事業体を変えながら成長を続けてきた会社なので、どのような事業に進出するにしても、それに携わる優秀な人材を組織内に保有することが競争力の源泉になります。そういう意味において、この人材育成のバリューチェーンは、効率良く人を育成するシステムでもあるので、より精度を上げることによって、今後もグループ事業体の競争力を引き上げていく「コアエンジン」にしたいと考えています。

 

細江 本日は今後の人材の採用・育成に大きな影響を与える取り組みをご紹介いただき、ありがとうございました。

 

 

上野 勇(うえの いさむ)氏
セプテーニ・ホールディングス 代表取締役 グループ上席執行役員

 

 

進藤 竜也(しんどう たつや)氏
人的資産研究所 代表取締役

 

 

 

PROFILE

  • (株)セプテーニ・ホールディングス
  • デジタルマーケティング支援やメディアプラットフォームを中心としたインターネット関連事業を展開。「 Great Placeto Work®(働きがいのある会社)」に10年連続ベストカンパニーとして選出されている。社員の高品質な人材育成を目的に、科学的な研究活動を行う専門組織を立ち上げ、豊富な人材データベースとテクノロジーを駆使したAI型人事システムを独自開発。AIのサポートにより合理的な採用判断・早期活躍・定着・最適配置を可能にし、ヒューマンリソース領域においてDXを実現している。

 

 

Interviewer

細江 一樹(ほそえ かずき)
タナベ経営
北海道支社 副支社長

 

 

 

 

 

 

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