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【研究リポート】

FCC FORUM 2021

タナベコンサルティンググループ主催「ファーストコールカンパニーフォーラム2021~DX価値を実装する~」(2021年6~8月、オンデマンド開催)の講演録。デジタルを軸に、サービスやビジネスモデル、業務プロセス、組織風土を変革し、競争優位性を発揮する要諦を提言します。
研究リポート2021.10.01

ダンドリワーク
建築・住宅業界にDXをもたらす施工管理アプリ

建築現場の効率を劇的に向上させるアプリを開発

 

タナベ経営・石丸(以降、石丸) ダンドリワークの会社概要をお聞かせください。

 

加賀爪 当社は、建築現場のコミュニケーションを円滑に行う施工管理アプリ「ダンドリワーク」を提供しています。建築業界では元請け会社が施工現場を管理する際、書類や電話といったアナログなツールを使って協力会社や職人の方々と情報共有を図ってきました。それをクラウドのアプリケーションで一元管理するツールです。

 

また、大型マンションにおける清掃・点検・工事などに関する入居者の予約管理をITで行う「ITENE(イテネ)」というシステムもリリースしています。

 

石丸 「ダンドリワーク」を開発したきっかけは何だったのでしょうか。

 

加賀爪 私が建築会社の“雇われ社長”をやっていた時の経験です。売上高20億円規模であるにもかかわらず、生産性の悪さはあきれ返るほどでした。夕方には現場監督がファクスの前に行列をつくって図面や工程表などを送信しますが、全てがアナログ作業なので送り先を間違えたり、訂正し忘れていたりといったミスが続出。当時はすでにクラウドシステムが世の中に普及していたので、それを活用したツール開発をスタートしました。そして2011年に建築の施工管理に特化した「ダンドリワーク」をリリースし、2013年に当社設立へ至りました。

 

「ダンドリワーク」は現場の住所をはじめ、近隣での注意事項に至るまで細かな情報を関係者全員で共有できます。また、スマートフォンで撮影した現場写真のアップロードや、図面・仕様書など各種資料の一元管理・一括共有も可能。変更した際はアプリに通知する機能が付いているので、常に最新資料が確認できます。

 

さらに、掲示板機能やチャット機能も付いており、コミュニケーションを簡単・気軽に交わせます。オプションとして工程表や報告書の作成、受発注、出退勤登録などの機能を組み合わせることも可能です。

 

 

品質向上、フィンテックなどDXの可能性は多様に拡大

 

石丸 まだあまりITが活用されていなかった建築業界でのツール展開には、苦労された点も多かったと思います。どのように導入を進められたのでしょうか。

 

加賀爪 現在、「ダンドリワーク」の登録アカウント数は12万人、利用率は91%に達します(2021年3月現在)。ここまで事業を拡大する中で苦労したのは、まず、職人の親方にITツールの便利さを理解してもらうこと。職人の多くはITツールに否定的でしたから、「私も以前は現場で施工をやっていて……」と話を交わしながらさりげなくツールの有効性を啓蒙しました。

 

ユーザーが2万人くらいになるまでが、一番汗をかきましたね。それを過ぎると「ITか、そんな時代だよね」といった感じで理解してもらえるようになりました。その半面、「こんな図面も共有できないか?」「こんな工程表が見たい」といったハードルの高いニーズも寄せられるようになりました。それを汎用システムの中でどのくらい実現させるのかが今後の課題です。

 

石丸 「ダンドリワーク」を導入した会社では、どのような成果が上がったのでしょうか。

 

加賀爪 成果報告としては、「ファクスで使用する紙の量が圧倒的に減った」「現場監督の労働時間が1日当たり1.5時間減少した」といったレベルはざらで、中には「生産性が4倍になった」という報告も寄せられています。最初は月間数万円程度のファクス代削減だったものが、さざ波のように波及範囲が広がり、生産性が4倍になるほどの効果につながったとみています。

 

また、入社間もない若手社員のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)でも、「ダンドリワーク」を介して職人の親方と親密なコミュニケーションを取ることができ、教育時間の短縮につながったという報告もあります。

 

ただし、「ダンドリワーク」を導入したら必ず生産性がアップするとは言い切れません。当社ではツールを渡すだけではなく、建築業界に精通したスタッフが使用するルールをつくり、導入時には利用者全員へ説明会を実施するなどのフォローも行います。しかし、導入した会社の10~20%は導入初期でシステム運用が滞り、期待した効果を上げていません。

 

その大きな要因は、経営トップのDXに対する関心の薄さ。中小企業はトップが大きな声で号令をかけないと、ITツールを導入できても、その後のツール体験を生かした運用がうまくいかないと言えます。

 

石丸 今後の事業展開について教えてください。

 

加賀爪 施工業務の品質を向上させる取り組みに注力したいと考えています。「ダンドリワーク」のオプション機能に、工事や作業が終了した際に各企業が独自に設けた検査基準を現場が満たしているかどうかをチェックする「検査」があります。大手ハウスメーカーでさえ、協力会社から書類や写真を自社に送らせてチェックするというアナログな作業を行っていますから、アプリケーション上で検査作業ができる「ダンドリワーク」は群を抜いて先進的です。

 

この機能を進化・普及させ、一般住宅建築業ではなかなか実現できなかった品質を担保にした物件評価を実現したいと思います。それはカーボンニュートラルを含めた品質評価にもつながります。また、アナログだった建築業界の受発注の仕組みにフィンテックを導入することも可能です。さらに住宅の受注見込みの情報をデータベース化して建築材料の供給サイドと情報共有ができたら、建築材木が不足するウッドショックのような事態を回避して一気通貫の家づくりができるでしょう。これからもDXによるさまざまな可能性に挑戦していきます。

 

 

加賀爪 宏介(かがつめ こうすけ)氏
ダンドリワーク 代表取締役社長

 

 

PROFILE

  • (株)ダンドリワーク
  • 建築現場のコミュニケーションを円滑に行うための施工管理アプリ「ダンドリワーク」を提供。元請け会社が施工現場を管理する際、アナログツールではなく、クラウドのアプリケーションで一元管理できるようにした。また、大型マンションにおける清掃・点検・工事などに関する入居者の予約管理を行うアプリ「ITENE(イテネ)」も展開。2013年設立、本社オフィスは滋賀県草津市、メンバーは43名。

 

 

Interviewer

石丸 隆太(いしまる りゅうた)
タナベ経営
ドメインコンサルティング東京本部
部長

 

 

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