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【研究リポート】

FCC FORUM 2021

タナベコンサルティンググループ主催「ファーストコールカンパニーフォーラム2021~DX価値を実装する~」(2021年6~8月、オンデマンド開催)の講演録。デジタルを軸に、サービスやビジネスモデル、業務プロセス、組織風土を変革し、競争優位性を発揮する要諦を提言します。
研究リポート2021.10.01

エクス
生産管理から調達・購買までサプライチェーンのDXを推進するシステムを提供

製造業のDXをサポート

 

タナベ経営・土井(以降、土井) エクスの会社概要をお聞かせください。

 

 当社は製造業向けの生産管理システム、EDI(電子データ交換)、RPA(事業プロセス自動化技術)などを手掛けるソリューションベンダーです。これからの時代を「企業間のつながり方が企業価値を決める時代」と定義し、経済産業省が推奨する中小企業共通EDIなどをリリースしてサプライチェーンのDXによる全体最適化のサービスを提供。主力製品の生産管理システム「Factory-ONE 電脳工場」は国内シェアNo.2を誇り、海外でも幾多の販売実績を有します。

 

また、製造業向けのソリューションライブラリー「EXfeel(エクスフィール)」において、当社が厳選したサービスでIoTとサプライチェーンを連動させる仕組みなどを提案。2017年には中小企業庁の『次世代企業間データ連携調査事業』に採択されました。

 

土井 製造業の現場に詳しいソリューションベンダーから見た、企業がDXに取り組むべき理由についてお聞かせいただけますか。

 

 日本のDXのレベルは「世界トップから3周遅れ」と言われるほど立ち遅れています。そんな日本で2018年に発表された経済産業省の「DXレポート」は、産業界に激烈なショックを与えました。このままレガシーなシステムを使い続けると、2025年以降は毎年12兆円の経済損失が見込まれるという「2025年の崖」が提示されたのです。2025年までにITシステムを刷新してDXを推進しなければ、競争力が急落して企業の存続が危ぶまれる状態に陥ってしまいます。DXに取り組む必要性はここにあります。

 

次の課題を持った企業は今すぐDXに取り組むべきです。

 

❶経営トップがDXの必要性を本質的に理解できない企業…このような企業は、経営者の意識改革がDXの第一歩になります。

 

❷企業の強みがアナログな技術・仕組みにある企業…DXやインダストリー4.0が普及する中で「もののサービス化」が進むので、強みとなる技術や仕組みをいち早くデジタル化する必要があります。

 

❸“系列”という取引先の垂直統合に依存している企業…従来の縦方向での連携だけでなく、DXを活用した横方向のパートナー検索に基づく水平展開が必要になります。

 

 

※情報システムの構築を通じて経営課題の解決を支援する事業者

 

 

具体的なゴールをトップが明確に示す

 

土井 デジタルの導入やDXのカルチャーを確立するまでに苦労しがちな点と、そうした企業がDXを成功させるためのキーファクター、またDXの成果について教えてください。

 

 苦労する点として、①既存の収益を維持・成長させながら、新しい価値を創出する作業を並行して行うこと、②2025年の崖が迫る中でDXに取り組むことによる全社的な“DX疲れ”、③係数的に捉えることが困難なDX効果を測定する方法、④積み重ねたレガシーの刷新、が挙げられます。

 

一方、DX推進を成功させるキーファクターは次の6つです。

 

 

❶「DXによってこのようなビジネスモデルを構築する」といった具体的なゴールをトップが定め、それを逆算して各段階の達成目標を決めるという帰納法的なアプローチ

 

❷「できる・できない」ではなく「やる・やらない」という意思決定力

 

❸経営はPDAA(予測・決定・分析・行動)、現場はOODA(観察・状況判断・決定・行動)によってマネジメントする

 

❹DXの基準に合わせた労働分配率や業務のデジタル化を前提とした評価基準などのDX人事考課制度

 

❺BPM(ビジネスプロセス管理)などのITツールを活用した全社的業務フローの見える化

 

❻「内製中心×適切なパートナー構築」で、内製を原則に有効な適切なアウトソーシングパートナーとも連携

 

DXの成果としては、①標準化が進んで「ムダ・ムラ・ムリ」が排除され、生産性と収益性が向上する、②リアルタイムに近い可視化が実現し、ビジネスの証跡を保全できるなどのリスク回避が可能になる、③属人的な業務が減少して組織効率が向上する、④ビジネスモデルの創出・アップデートによって新しい収益モデルを構築できる、⑤マスカスタマイゼーション(コンピューターを利用した柔軟な製造システムによる特注品製造)などによって顧客ロイヤルティーの向上や新規顧客の拡大ができる、などが期待できます。

 

 

世界・社会全体がDXのフィールドに

 

土井 今後の展開を踏まえて企業が取り組むべきDXと、DXの将来像をお聞かせください。

 

 今後のDXの展開については、①DXによる連携対象が企業同士から企業と業界、業界と社会へと広がり、最終的にはSDGsに取り組む世界・社会全体がフィールドになる、②DXの現場は状況最適のサービスへ移行し、IoP※1が主体になる、③アナログで上質なUX※2を通してライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の向上を促す、といった方向へ進展することが見込まれています。

 

それを踏まえて取り組むべきDXとして、①現場のオペレーション→マネジメント→経営へデータを中心に組織を駆動させる“データドリブン”の領域へシフトアップ、②個別企業の領域を超えた業種・業界単位のDX、最終的には社会全体の統合最適に向けたDX実現、が挙げられます。

 

 

※1…Internet of Process:工程をつなぐインターネット
※2…User Experience:ユーザー経験

 

 

抱 厚志(かかえ あつし)氏
エクス 代表取締役社長

 

 

 

PROFILE

  • (株)エクス
  • 大阪に本社を置き、製造業分野に特化した事業を展開するIT開発メーカー。ものづくりを取り巻く環境がIT技術を中心に変化し続けていく中、「経営と現場」、「売り手と買い手」の「つながり方」が、今後の企業価値を決めていくことに注目し、生産管理システム「Factory-ONE 電脳工場」シリーズを展開(シェアトップクラス)。また、低コストかつ短期間でサプライチェーンを構築できるクラウド型EDI(調達・購買)サービスを展開。2017年には中小企業庁「次世代企業間データ連携調査事業」に採択されるなど、21世紀のSCM実現に取り組み、日本版インダストリー4.0をけん引している。

 

 

Interviewer

土井 大輔(どい だいすけ)
タナベ経営
ドメインコンサルティング大阪本部
本部長代理

 

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