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【研究リポート】

FCC FORUM 2021

タナベコンサルティンググループ主催「ファーストコールカンパニーフォーラム2021~DX価値を実装する~」(2021年6~8月、オンデマンド開催)の講演録。デジタルを軸に、サービスやビジネスモデル、業務プロセス、組織風土を変革し、競争優位性を発揮する要諦を提言します。
研究リポート2021.10.01

旭鉄工/i Smart Technologies
スマートファクトリー化を実現する製造業のDX

独自のIoTシステムによる“カイゼン”を支援

 

タナベ経営・近藤(以降、近藤) 旭鉄工はトヨタ自動車の一次サプライヤーとなる自動車部品メーカーで、エンジン、ミッション、シャーシ、ボディーなど幅広い品目を製造しています。木村社長のご経歴、i Smart Technologies(iSTC)の設立経緯とそのビジネスモデルについてお聞かせください。

 

木村 私はトヨタ自動車に21年間勤務し、最後の3年間は生産調査部でトヨタ生産方式の実践経験を積んだ後、当社に転籍。競争力強化を目指してパソコン端末で生産機械を管理するIoTシステム「iXacs(アイザックス)」を構築し、そのデータに基づいて会社を挙げた徹底的な改善活動に取り組んだ結果、かなり大きな成果を出すことができました。

 

そして、このシステムを他社に展開するiSTCを旭鉄工内に設立し、システム提供からデータ分析、社員への講演・教育、改善コンサルティングに至る幅広い業務を展開しています。

 

現在、iXacsは80社に導入されて約600ラインのデータをリアルタイムで収集しており、改善コンサルティングの実績は100社以上に達します。また、改善の現場を開示する有料工場見学も実施し、コロナ禍前の2019年は世界中から900名が来社しました。最近は工場見学や教育講座、コンサルティングなどのサービスをウェブで提供しています。

 

 

付加価値の高い仕事を生み出すDX効果

 

近藤 DXに取り組んだきっかけについてお話しいただけますか。

 

木村 背景にあるのは、「人には付加価値の高い仕事を」という信念です。生産個数や稼働時間、停止・遅れなどのデータは自動収集に切り替え、人はデータから問題点を発見して解決策を考案・実行する業務に集中し、改善活動を加速させるべきだとトヨタ自動車の生産調査部に在籍したころから考えていました。

 

しかし、そのようなニーズに合致するシステムは見当たらなかったので、自社開発を決意しました。「動作がばらつけば時間に現れる」というセオリーに従って製品の生産ピッチをセンサーでリアルタイムに監視し、その数値をクラウドに送信。そこで製造ラインの実態を示すデータに整理して、スマートフォンやパソコンからチェックできるiXacsシステムが完成しました。

 

このシステムを使って、例えば、当社の製造ラインの可動率が通年の平均値より10ポイント下落していると分かった場合、1日約1万円、年間約260万円の損失が発生していることが明らかになるのです。実際に製造ラインの可動率の低下やタイムサイクルの遅滞がリアルタイムで把握できるようになりました。

 

このシステムは、ほとんどの設備に1時間で取り付けられるという特長を持ち、外販の場合は月額払いの低コストで利用できます。

 

 

 

コツが分かれば改善活動は難しくない

 

近藤 DXカイゼンの取り組み過程とその成果を教えてください。

 

木村 私はiXacsの導入先を訪問し、改善状況の調査などを行います。改善のうまくいかない会社には「見ザル(問題が見えない)・言わザル(事例・情報を共有できない)・聞かザル(活動できない)」という3匹のサルがいるようです。見ザルに対してはIoTシステムで「見える化」を進めることができます。言わザルにはSlack(スラック)というチャットツールを使って事例・情報の共有を促す、聞かザルには改善の仕組みを構築してモチベーションをアップさせるといった工夫を施す必要があります。

 

コツが分かれば、改善活動は難しいものではありません。経営者は従業員の力を引き出して改善活動を進めていただきたいと思います。

 

改善活動を成功させるポイントは、まず、「小さく始める」。いきなり全社展開を目指すのではなく、少人数で小さな実績を積み重ねていきましょう。すると次第に味方が増えていきます。2つ目は「褒める」。モチベーションが上がって改善が進みます。3つ目は「完璧を求めない」。私は「30点でもいいから早くやろう」「失敗しても大丈夫」というエールを繰り返しています。4つ目は「目標は高く」。できる目標ではなく、必要な目標を設定することが必要です。

 

当社では徹底した改善活動に努めた結果、製造ラインの6割をIoT化し、100の製造ラインの生産能力を平均43%向上させ、年間4億円の労務費を節減(1日3時間の残業低減)しました。このような取り組みを、私は「改善市民ランナーを育てている」と思っています。社員も改善の本質を理解し、「不要にする」「距離を短く」「待ちをなくす」という改善の上位概念に基づいた創意工夫を日常的に行うようになりました。

 

近藤 今後DXをどのように進化させるのか、また、将来のビジョンをお聞かせください。

 

木村 まず、iXacsのデータを活用した経営のテレワーク化が可能になります。「生産個数」「稼働時間」「停止・サイクルタイムの遅れ」といったデータは、それぞれ「売り上げ」「労務費」「損失金額」という経営指標に直結します。つまり、経営者は製造IoTデータが入手できれば、十分にテレワークが可能なのです。

 

また、こうした製造IoTデータは金融業務への応用も可能で、銀行・保険・ファンド新商品・事業性評価に活用できると思います。マクロ経済をリアルタイムに把握するデータも取得できるのではないでしょうか。製造業のみならず多様な業界に目を向けてiXacsの可能性を広げていきたいと考えています。

 

 

木村 哲也(きむら てつや)氏
旭鉄工 i Smart Technologies 代表取締役社長

 

 

 

PROFILE

  • 旭鉄工(株)
  • i Smart Technologies(株)
  • 自動車部品メーカーの旭鉄工では、IoTを活用した改善活動を行い、生産性の向上に成功。自社開発の製造モニタリングサービス「iXacs」と、同社代表取締役である木村氏が前職のトヨタ自動車で培った改善活動の進め方、旭鉄工の持つ改善ノウハウを基に、顧客の現場でも「スマートファクトリー化」と生産性向上を実現するためi Smart Technologiesを設立。システムの開発部隊と現場の改善部隊が一体になっている強みを生かし、日本でも稀有な「工場を持つIoTスタートアップ」として、IoTから始めたビジネスDXを推進している。

 

 

Interviewer

近藤 正晴(こんどう まさはる)
タナベ経営
中部本部 本部長代理

 

 

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