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【研究リポート】

アグリサポート研究会

アグリ関連分野において、先進的な取組みをしている企業を視察。持続的成長のためのポイントを研究していきます。
研究リポート2022.11.11

建設会社からアグリ事業へ参入
高床式砂栽培システム「トレファーム®」が新しい農業を生み出す:東レ建設株式会社 トレファーム事業推進室


 
 

【第1回の趣旨】
アグリ関連分野では旧来型のビジネスを展開している企業が多数存在する。一方、先端技術の活用や、新しいビジネスモデルの構築により成長している企業もある。こうした企業はIoTやAI、商品・サービス価値を高めるイノベーションの導入に積極的だ。また、第6次化産業の展開や異業種・自治体との連携により、持続的成長やアグリ業界の課題解決に取り組むことも多い。
アグリサポート研究会第7期は、「アグリ業界の持続的成長と課題解決へ向けた生きた事例を学ぶ」がコンセプトとなる。当研究会ではアグリ関連分野の成長企業を経営の視点から研究し、成功のポイントを学ぶ。第1回は、特別ゲスト2社を招き、独自のビジネスモデル、成長のポイントについて講演いただいた。
開催日時:2022年9月27日、28日(京都開催)

 
 

 

東レ建設株式会社
トレファーム事業推進室 専門課長
藤本 勉 氏

 
 

はじめに

東レグループで建設事業と不動産事業を担う東レ建設。同社は生産設備のIoT制御と建設のノウハウを農業に展開する形で、2014年に高床式砂栽培システム「トレファーム®」を事業化した。

 

トレファーム®は「誰でも」「楽に安全に楽しく」「しっかりした野菜を栽培する」がコンセプト。けいはんな学研都市(京都府精華町)にある実証農園では女性や高齢者も含め、地域で無理なく働ける「シェアリング農業」を実現。地域住民の方々と協力しながら「楽しく」実証している。農業の新しい価値に着目した東レ建設の取り組みから、アグリビジネス展開のポイントを学ぶ。

 


 

 

 

 

 

まなびのポイント 1:人が集まるスマート農業を目指す。建設会社のアグリ事業参入

 

東レグループのコーポレートスローガンは「Innovation by Chemistry」。企業理念「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を、革新技術・先端材料の提供を通じて具現化すること、②技術の革新のみならず、企業活動の全ての領域で「Innovation」に挑戦していくことを表明している。トレファーム®は、こうしたInnovationの精神をアグリビジネスで展開した事業である。

 

トレファーム®の活用により、①農業を通じたコミュニティ創造、②誰もが楽しく農作業(障がい者福祉施設や高齢者介護施設での導入)、③初心者でも本格営農が実現できる。大規模化とは一線を画す、人が集まるスマート農業を目指すものであり、現状では経済的価値(収益)以上に、社会的価値(パーパス・使命感)が優先している。

 

 

トレファーム®の収穫量

※小松菜、チンゲン菜、ルッコラは年間10作(大阪府四条畷市の提携農場の実績)

 

 

まなびのポイント 2:大手である強みを生かし、コミュニティや街づくりを提案

 

東レ建設ではトレファーム®を活用したコミュニティ再生やまちづくりを提案している。一例を挙げると、滋賀県立近江学園において、障がいのある児童のための福祉施設としてトレファーム®による農業を実施。障がいの有無にかかわらず参加できる農業を通じ、生き生きとした学生生活、社会とのかかわりを持つ機能として活用が予定されている。

 

このほかにも、生きがいのある就労の場・コミュニティ形成(福岡県・UR日の里団地)、農作業を細分化した農業シェアリング(総務省IoTサービス創出支援事業)、ストレス低減実証実験、トレファーム®農園での就労支援・コミュニティ創造など実績は多数。大手である強みを生かしながら、トレファーム®事業で街をつくるプロジェクトにも参画している。

 

 

ハウスの中では水耕栽培で育たない多種多様の葉菜類、根菜類、果菜類が育てられる

 

 

まなびのポイント 3:トレファーム®×○○=ソリューション。掛け算で創出できるビジネス

 

トレファーム®事業の成長のポイントとして、トレファーム®との掛け合わせで、無数のソリューションが生まれることがある。例えば、高齢者や障がい者、教育などとの掛け合わせによって、コミュニティの創造、就労の場や生きがいづくり、農福連携、地域創生などのソリューションが誕生する。

 

シェアリングファームとしての活用も可能であり、都市部でも価値の高いサステナブルな仕組みとしての展開が見込まれる(図表)。農作業を細分化してシェアリングすることで、一般の人が1時間からでも働ける仕組みができ、就農のハードルが下がる。農業への参画が新たなコミュニティの創造にもつながり、「楽しく、楽に、安全に」価値創造が可能になる。

 

 

シェアリングファームがもたらす価値

高床式(高さ90cm)のため作業が楽にできる

 

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