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【コンサル事例】

チームコンサルティング事例

クライアント企業とタナベコンサルティンググループのコンサルチームが取り組んだ経営改善の事例。施策と成果を紹介します。
コンサル事例2022.03.27

錦戸電気:「錦戸電気アカデミー」で 自主性あふれる社員を育てる

 

ポイント


1 経営理念実現のため、社員の満足度、顧客満足や品質の向上を図る
2 「錦戸電気アカデミー」で社員のポテンシャルを最大限に引き出す
3 ジュニアボードで全体を俯瞰的・客観的に分析できる人材を育成

 

 

お話を伺った人


錦戸電気 代表取締役 大滝 力緒氏

 

 

ライフラインを支える緑と青のシンボルカラー

 

——錦戸電気は北海道苫小牧市に本社を構える電気工事会社です。一般電気工事から太陽光発電システム、LED照明、デジタルネットワークの設計施工、メンテナンスに至る幅広い業務を展開。苫小牧における建物に関わる電気工事では長らくトップシェアを堅持しておられます。まず、会社の概要と沿革をお聞かせください。

 

大滝:当社は1914年に創業し、100年以上にわたって公共施設や商業施設などの電気工事を担い、苫小牧のライフラインを支えています。私は父の大滝信男から事業を継承し、5代目の経営者に就任。それまでの公共事業主体からの脱却を図り、多方面に営業をかけて顧客・販路の拡大と工事の品質向上に力を注ぎました。その結果、民間案件の受注が増え、評価と業績を徐々に高めることができました。現在では、官公庁から港湾、民間大型施設、個人住宅まで事業フィールドを広げています。

 

事業拡張のターニングポイントとして挙げられるのは、1994年の札幌支店開設です。2016年に常駐社員を置いて本格的な業務を始めたところ、札幌エリアの受注を次々に獲得し、業績を大きく伸ばしています。

 

——2020年8月には札幌支店を移転しましたね。

 

大滝:札幌市の新川通沿いに移しました。知名度アップを狙い、交通量が多く人目につきやすい立地に、当社のイメージカラーであるグリーンとブルーの建物を建てました。当社は「苫小牧の会社」というイメージが払拭できないという課題を抱えていたのですが、これで解決につながると期待しています。

 

——社員の皆さんもグリーンとブルーのユニフォームを身に着けています。

 

大滝:2020年から、名刺や封筒、社用車、ユニフォームなどをシンボルカラーに統一する活動を進めています。誰が見ても「錦戸電気の社員」と分かるようになれば、会社の知名度と社員の責任感が向上して社員のプライドも高まり、ひいては仕事の質も高まります。

 

さらに、グリーンとブルーの目立つ社用車がさまざまな工事現場に駐車していると、「いろんな工事に錦戸電気が関わっている」とアピールできるといった狙いもあります。

 

——ブランディングの一環として効果は大きいと思います。

 

 

 

 

 

社員の満足が顧客満足、品質向上につながる

 

——経営理念について伺います。5代目経営者に就任された当初、社員への浸透の度合いはいかがでしたか。

 

大滝:経営理念と「行動の原点」を掲げていたものの、社員へはあまり浸透していませんでした。父は典型的なトップダウン型の経営者だったので、その必要性を感じていなかったのかもしれません。しかし、ボトムアップ型経営への転換を目指す私は、事業活動の指針となる理念を全社員で共有することが重要と考え、その浸透を積極的に促しています。

 

——経営理念には「全員が豊かになるために」というフレーズが繰り返し出てきます。これにはどのような思いが込められているのでしょうか。

 

大滝:私は「社員満足度を向上させるために」と捉えています。社員の満足度は、顧客満足や品質の向上に直結するからです。

 

経営理念は「信頼される商品を販売し」と続きますが、最も重要な商品は“社員”です。お客さまに社員を気に入ってもらえないと、「利潤」は確保できません。さらに、「自主自発的に行動すること」が社員満足度につながると示唆しています。

 

行動の原点も、社員満足度につながっています。社員満足度が向上して社員が一流のプライドを持てば、「北海道の誇る企業」になれると教えているのです。

 

 

「家族行事を最優先」「出戻りOK」「定年なし」

 

——2024年までの中期ビジョンを掲げていますが、その中で最も注力している取り組みは何ですか。

 

大滝:当社のメイン業務は建物に特化した電気工事ですが、それに付帯する通信設備工事や消防設備工事なども増加しています。そのため、将来的には“総合電気工事グループ”を結成したいと考えています。

 

目標とするのは、スペインの強豪サッカークラブ「レアル・マドリード」のような専門特化した社員の集まり。社員が自分の強みを最大限に発揮して事業のフィールドを縦横無尽に駆け巡り、勝利を奪取するグループにしたいですね。

 

——大滝社長は一貫して「人を育てることが、電気工事グループとしての成長につながる」と言っておられます。

 

大滝:人が育つ会社を追い続けていけば、継続的に成長できる会社になると確信しています。私には5代目の経営者として事業を継いだ責任、そして次代に経営のバトンを渡す責任があります。創業100年以上の企業は、北海道でも希少。私の経営者としての評価は、後継者が事業を引き継いだときに初めて下されるでしょう。

 

——以前、「社員が自分の子どもを一番入れたい会社にしたい」と話されていました。

 

大滝:社員が自分の会社に満足して誇りに思っていれば、家族にも自慢します。すると子どもは、親の会社に入社したいと思うはずです。社員が自慢できないような会社だと、人材は集まりません。

 

——近年、離職率がほぼゼロとのことですが、人材の採用・定着についてのお考えや具体的な施策をお聞かせください。

 

大滝:採用・定着がうまくいっている理由については、不明な部分もあります。他社との違いを挙げるとすれば、当社は2年前に定年退職制度を撤廃しました。60歳代、70歳代でも仕事を続ける社員や、他社を定年退職してから入社する社員もいます。さらに、当社には一度他社に転職して、その後に戻ってくる“出戻り社員”もいます。

 

——出戻り社員を受け入れる理由は何ですか。

 

大滝:戻ってきたいという希望があるので受け入れている状況ですが、私自身は、一度退社した社員が戻ってくれることはありがたいと思っています。当社が再評価された感覚ですね。中途採用にも積極的に取り組み、他社の優れた部分も吸収していきたいと考えています。

 

——社員は錦戸電気のどのようなところに惹かれるのでしょうか。

 

大滝:明確ではありませんが、私は常々「小さな子どもがいる社員は、家族行事を最優先させなさい」と言っています。私自身も、子どもの参観日や運動会などの行事があると休暇を取って参加しています。現場主体の建設業は休暇が取りにくい環境ですが、さまざまな年齢層から意見を聞いて残業削減や休暇取得の意識を高める風土づくりに取り組んでいるのです。こうした点が評価されているのかもしれません。

 

——社長は「家族のイベントがあるのに休まない社員に対しては、真剣に怒る」と言っておられました(笑)。

 

大滝:参観日や運動会といったイベントは何日も前から決まっています。それに合わせて休みが取れない社員は「自分は計画的な仕事ができない」とアピールしているようなものです。「家族行事を犠牲にしても働く」という悪習を一蹴しなければ、若い社員は育ちません。

 

 

錦戸電気 代表取締役 大滝 力緒氏
1995年錦戸電気入社。2016年代表取締役社長就任。

 

 

 

能力を引き出すアカデミー、次代に備えるジュニアボード

 

——人材の育成については「錦戸電気アカデミー」の開校に向けた準備を進められています。その背景や今後の展開を教えてください。

 

大滝:私は「社員の成長なくして企業の成長はない」と確信しています。アカデミーは教わる側だけでなく、教える側も成長できるという大きなメリットがあります。受講した社員が数年後には教える立場に回るというスパイラルを繰り返したいですね。授業を通して錦戸電気の社員としての基本姿勢の習得と、コミュニケーション能力の向上に努めてほしいと切望します。アカデミーで学んだ成果を客観的に評価することは難しいと思いますが、受講生の周囲にいる社員や担当したお客さまから評価が伝わってくると期待しています。

 

今回は施工管理課のスタッフに向けたアカデミーを開校しますが、教育対象のセクションを順次増やしていく計画です。将来的にはグループ会社全体を対象にしたアカデミーを設ける構想を持っています。

 

——アカデミーのほかにジュニアボード(次世代役員研修)にも取り組まれました。その背景や研修の成果をお聞かせください。

 

大滝:前述の通り、私は先代のトップダウン型経営に疑問を抱いていました。役職があっても社員は横一列で、社長が社員の提案や要望に耳を貸そうとしないような状況では、継続的に成長する企業にはなれません。今後、M&Aなどを通じて電気工事のグループを構築するためにも、ボトムアップ型経営が必須という思いがあり、社長就任を機に次代を担う役員の育成を図ったのです。

 

ジュニアボードをスタートさせて痛感したのは、全体を俯瞰的・客観的に分析できる人材が不足していること。しかし、そのような資質を持つ社員も数名いるので、彼・彼女らを経営幹部候補として鍛え、会社を力強く支える存在として育成したいと思いました。

 

——ジュニアボードを通して、社員はどのように変化したと感じますか。

 

大滝:経営幹部としての意識が芽生えると同時に、部門の壁を越えて積極的にコミュニケーションを取ろうという姿勢が備わってきたと感じています。これからは、業績を分析して人材育成やM&Aへの投資を生み出すアイデアを提案するといったテーマにも挑戦してほしいですね。

 

アカデミーの開校準備も社員に変化をもたらしているようで、社員同士が率先して進行状況や受講対策などを話し合うようになったそうです。今までは無関心だったことに興味を覚え、自主的にコミュニケーションを取ろうとしている。人任せにせず、主体的に動くようになった。これは非常に大きな成果だと思います。

 

 

総合電気工事グループの中核企業へ

 

——最後に錦戸電気の目指すべき姿と、今後の事業展望をお聞かせください。

 

大滝:コロナ禍によって経営の難しい時代に突入し、生き残りをかけた戦いが始まったと痛感しています。実際、新年度スタートとなる3月1日の朝礼で、「2021年度は勝負の年」と宣言しました。売り上げは厳しくなり、さまざまな改善が求められ、今までの通例は通用しなくなります。どの業界でもM&Aが加速し、この2、3年の勝負になるでしょう。

 

熾烈な環境になりそうですが、私自身はワクワク感が止まりません。社員の力を結集すれば、必ず勝てると思っていますから。目指すのは総合電気工事グループの中核になることです。M&Aの難度が上がっており、中期ビジョンの見直しも必要になると考えています。耐えるだけでなく、攻めの検討も積極的に行わねばなりません。

 

——コロナ禍がもたらした窮状においても、社長はワクワクが止まらないと述べられました。自社の社員の能力が他社に引けを取らないと確信しているからこその発言だと思います。

 

大滝:私にとって最大の誇りは、当社の社員です。全社一体になって戦ってくれるなら、負ける気はしません。レアル・マドリードのように、社員一人一人がトップアスリートを目指して切磋琢磨する集団になってほしいですね。

 

——社員のポテンシャルを最大限に引き出すための錦戸電気アカデミー、次の世代にバトンをつなぐためのジュニアボードと、的確に先手を打たれています。これからの100年のために、タナベ経営は今後も全力で支援いたします。本日はありがとうございました。

 

 

 

PROFILE

    • 会社名:株式会社錦戸電気
    • URL:http://nishikido.jp/
    • 所在地:北海道苫小牧市新明町1-1-8
    • 設立:1914年
    • 従業員数:38名(2021年3月現在)

※ 掲載している内容は2021年6月当時のものです。

 

 

 

 

 

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