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【コンサル事例】

チームコンサルティング事例

クライアント企業とタナベコンサルティンググループのコンサルチームが取り組んだ経営改善の事例。施策と成果を紹介します。
コンサル事例2022.04.07

塩谷建設:新しい経営理念とビジョンを 全社で共有し、行動につなげる

 

 

ポイント


1 社内制度の改革に向け「四半期レビュー」を開始
2 新しい経営理念と行動指針を軸に事業領域を拡大
3 新ビジョン実現に向け、6カ年中期経営計画を始動

 

 

お話を伺った人


塩谷建設株式会社 代表取締役社長 塩谷 洋平氏

 

 

 

 

 

幹部人材の部門リーダーを育成し、好循環が生まれる

——2016年に社長に就任されてから、社内制度や経営基盤の刷新を推進してきました。

 

塩谷社長:リーマン・ショックで売上高が大きく落ち込んだ後、常務を務めていた当時、「単に言われた構造物を価格競争だけで受注する会社に未来はあるのか?」「自分たちで未来を創り出したい」と考えていました。

 

ただ、社長になってその思いを経営方針で示しても、社員の個々の受け取り方が違えば行動につなげる方向性もズレてしまいます。社員のあるべき姿を全社で共有し、同じ価値判断基準を持つ社員を一人でも増やし、生まれた成果をしっかり評価できるようにしたい。そう考えて人事評価制度の改訂を進めていた時に、タナベ経営とのご縁が生まれ、協力を得ることにしました。

 

——新たな取り組みは、幹部人材の部門リーダーを対象とした「四半期レビュー」でした。

 

塩谷社長:価値基準と評価の在り方を再構築する中で、仕組みよりもまず、リーダー自身が実践することが大事だと気付きました。これまでは、当社の伝統でもありますが、気合いと根性を強みに目標達成に向けて「とにかく、やるぞ!」と動いていました。ですが、新規顧客の開拓や新エリアへの進出など、「どうやって達成していくのか」と論理的に計画を練る力が弱く、「1年間頑張った結果がこれでした」ということの繰り返しでした。

 

そこで、建築部や土木部、営業部、施工管理部、総務部、経営企画室などの全社部門長を対象に、四半期ごとと次年度の方針作成、計5回のレビューを開始しました。

 

論理的思考力から学び始めて、リーダーとしての考え方や部下の動かし方など、具体的な行動が社員たちにイメージできるところまで1つずつ落とし込む。さらに、それを実践しPDCAを回す。反省も行い、次につなげる好循環の流れを生もうと考えました。

 

——2018年に始まったレビューも5年目を迎えて、部門リーダーの成長を実感されているそうですね。

 

塩谷社長:ストーリーを自分で考え、実現するための筋道を組み立てられるようになりました。「絵に描いた餅」と言いますが、次年度方針作成時に餅を具体的に描くことで、的外れな質疑もなくなりました。

 

内部管理部門では率先してRPA(ソフトウエア型ロボット)を導入し、健康経営の推進にも動き出すなど、社内のリーダーシップが生まれています。経営企画室は、老朽化した本社オフィスを働きやすい環境に変えるリノベーションを行い、社員にも好評です。

 

元々、企業としての実行力は高かったので、良い流れが生まれています。幹部人材には、タナベ経営の「幹部候補生スクール」をモデルとした課題解決研修も継続的に実施しています。自社の現状を認識し、最終的に突破口をつくるプログラムですが、結果的に幹部にふさわしい人材かどうかの見極めにもつながっています。

 

 

経営企画室主導で行った本社オフィスのリノベーション。部署間を横断するシームレスな設計で社員同士のコミュニケーションが生まれている

 

 

新しい経営理念と行動指針で「軸」を確立し、事業領域を拡大

 

——幹部人材の育成とともに、経営理念の見直しも推進していきました。

 

塩谷社長:「建設業を全うする姿を示す」という社長就任当時の経営理念が、しっくりこなかったのです。「本業だけで未来があるのか」疑問でしたし、経営の柱である土木・建築のコア事業から、新たに事業領域を伸ばしていきたいと考えていました。

 

タナベ経営の「建設ソリューション成長戦略研究会」に参加した時、「建設業だけど建設業らしくない」という考え方を知り、共感しました。社是である「誠意と創意」は不変ですが、建設業に縛られない経営理念に刷新し、分かりやすい行動指針もつくろうと決めました。

 

——2020年4月に誕生したのが、新たな経営理念「未来の元気を創造する」です。

 

塩谷社長:顧客・社員・地域など項目別に私の考えを整理して、そこからタナベ経営と一緒にキーワードを10個ほど拾い出し、組み替えていきました。「本業だけでなく、幅広い事業で世の中を『元気にできる未来』って大事だよね」「建設業が原点だから『創造』もいいよね」と。

 

今、総合建設業から広がる周辺事業は、住宅や不動産、宿泊事業、屋上緑化、学童保育、重度障がい者施設(塩谷建設運営ではなくテナントとして誘致)など、多様なシーンに広がっています。その軸となる経営理念を上手くアウトプットできましたし、分かりやすいので社員にも浸透しやすく、朝礼でも唱和(コロナ禍のため現在は中止)しています。

 

——行動指針の策定は、次代を担う幹部人材も参画して決まりました。

 

塩谷社長:経営理念を考えるプロセスで拾い出したキーワードが、行動指針に盛り込まれています。「唯一無二の価値」は、私が繰り返し言い続けていることですし、「人としての正しい判断」も、創業以来、当社が大事にしてきことです。

 

次世代幹部候補のメンバーも、行動指針の大切さを実感していたようです。経営理念で全社の目指すべき方向性を共有し、行動指針でより具体的な姿勢に絞り込むことができたと思っています。

 

 

ビジョン実現に向け、6カ年中期経営計画「REBORN200」を始動

 

——経営理念とともに、今後のビジョンとして6カ年の中期経営計画「REBORN200」も策定しました。

 

塩谷社長:設計図通りに構造物をつくる建設業から、新事業も展開し世の中に元気をつくる「塩谷グループ」へと生まれ変わるための、6年後の在るべき姿を描き出しています。今後は、ホールディングス化も推進しながら、「バブル経済下に記録した当社最高売上高の190億円を超えていこう」と話しています。

 

「REBORN」は、「時計の針を過去に戻すのではなく、未来に向かって新たな歴史を創り出していく」という意味です。新しい経営理念と同時に始動する予定でしたが、コロナ禍で1年先に延ばし、2021年4月に始動しました。

 

——中期経営計画を6カ年に変えた背景には、「社員の夢を大切にしたい」という思いがありました。

 

塩谷社長:売上高200億円の達成よりも大事なのが、「社員が何をどうしていきたいのか」です。例えば、「富山県で抜きん出た存在になる」「学生が入社したいと思う魅力的な会社になる」などです。私が描き出したビジョンは、「グループ全体で実現していきたい未来像」です。どう達成していくかのプロセスは社員に任せて、やりたいことを「夢」として語ってもらいたい。実現に向けてチャレンジできるようにするには、従来の3カ年ではなく、6年という時間が必要だと考えました。

 

拠点・事業別にグループ各社も含めて、人員体制や顧客ターゲット、新たな挑戦テーマなど、「達成したい夢」を自ら考え出してもらいました。建築事業部は「AIを活用した現場管理と業務体制」、土木事業部は「国益を担うような大型物件の受注」、ウォータージェット事業部は「ハンドガンのはつり技能で日本一」、総務部は「RPA活用による業務の効率化」、営業部は「未開発営業エリアへの進出」、グループ企業の塩谷商事は「新規事業2件の立ち上げ」などです。さらに、1年ごとに具体的な「夢の実現プロセス」も決めています。

 

どの夢も、分かりやすく行動しやすい夢を引き出すことができたことに大きな価値があると思っています。行動指針の1つに掲げる「当事者意識」を体現し、自分で描いた夢を自らの手で達成していくわけですから。

 

——社長は2022年4月で43歳になるという若さですが、「50歳で社長を交代する」と宣言されています。

 

塩谷社長:それができるように、6カ年で未来へとつながる道を目に見える形にしたいです。その核にあるのがホールディングス化ですし、この宣言には「塩谷グループ各社の経営を任せられる人材が育ち、自立していってくれたら」という願いも込めています。

 

軸となる経営理念と、核となるホールディングス化によって、グループ経営が軌道に乗り始めていく。新しい社長に任せるのは、その手ごたえを実感してからですね(笑)。

 

教育の効率・平準化で未来を創造

 

——分かりやすい経営理念とビジョンは、未来の社員になる新卒採用の場でも力を発揮しています。

 

塩谷社長:これまで、タナベ経営とさまざまな取り組みを進めてきましたが、実績として一番大きいのが新入社員の採用数が増えたことです。建設業において、「一級施工管理技士」という資格持った人でなければ、一定規模の工事案件を受注することができません。つまり、どれだけ立派な成長戦略を立てても、人がいなければ成長できない産業なのです。

 

そこで、タナベ経営にサポートいただき、社員の定着率向上を目的とした人事評価制度の再構築を行いました。社員に向けた取り組みでしたが、就職活動中の学生にも効果が波及し、結果として2022年4月入社の新入社員は19名を予定しています。平均年齢も、3年前の2019年は45歳でしたが、2022年は38歳まで下がっています。会社説明会には私も登壇していますし、新入社員研修もタナベ経営にサポートいただき、当社オリジナルの内容で実施し、うまく機能しています。

 

ビジョンの1つに「優秀社員の内製化」を掲げるのは、「学びで未来を創造する」という目的があります。人材育成の推進に向け、教育の効率化と平準化で、いち早く一人前になれる独自の育成制度も始動しました。ここでも、「企業は人でできている」と再確認できました。人の成長なくして企業の成長はあり得ません。

 

——コロナ禍においてもさまざまな取り組みがスタートしています。

 

塩谷社長:タナベ経営主催の「建設研究会」「ヘルスケア研究会」に参加した知見をもとに、地域の企業を誘致する形で、学童保育所と重度心身障がい児の訪問看護ステーションを誘致しました。これは、地域に必要なものを生み出すための取り組みです。建設業らしくない取り組みではありますが、「未来の元気を創造する」という理念にも合致していますし、同業他社との大きな差別化により、前述の新入社員の採用数に関わっていると考えています。

 

 

本社オフィスに新設された訪問看護ステーション「わか木」、多機能型重症児デイサービス「おはな」、相談支援事業所「どんぐり」。地域に必要なものを生み出すための取り組みが同業他社との差別化につながり、新入社員の採用数増加に貢献している

 

 

営業の現場については、「新規顧客の創造も刷新していこう」と、タナベ経営にサポートをお願いしています。御用聞きの営業スタイルを提案型に変え、自社の強みを、誰に、どのように生かしていくのか。社員のモチベーションや多様性ある働き方を高めるオフィスリノベーションなどの提案も始めています。新入社員が1人で小規模の案件を受注するなど、成果も見え始めていますし、もっと満足できるレベルへ向上させたいです。

 

数十年前から、受注工事の80%近くは民間工事ですが、今後もコア事業である土木・建築事業において、公共事業だけでなく民間受注もさらに獲得できるように力を入れています。また、同業他社と安値で受注を取り合うだけでなく、設計施工ができる強みを生かして直接、施主の方と提案・交渉する動きに変えています。塩谷グループ全体で、それぞれの事業が1つずつステージを駆け上がり、広がりも生み出していければうれしいですね。

 

——建設業の概念を打ち破る「元気をつくる塩谷グループ」の実現に向け、タナベ経営はこれからも力強いサポートで支え続けていきます。本日はありがとうございました。

 

 

PROFILE

    • 会社名:塩谷建設株式会社
    • URL:https://www.shiotani.co.jp/
    • 所在地:富山県高岡市石瀬6-1
    • 創業:1954年
    • 従業員数:197名(2022年2月現在)

※掲載している内容は2021年12月当時のものです。

 

 

 

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