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【コラム】

ウェルビーイング経営のススメ:森永雄太

武蔵大学経済学部経営学科の森永教授による連載。社員をはじめとしたステークホルダーの健康経営を推進するウェルビーイング経営に迫ります。
コラム2022.02.01

Vol.11 多様な従業員の貢献価値を引き出すリーダーシップとは

 

【図表】貢献価値を引き出すインクルーシブ・リーダーシップ

出所:筆者作成

 

 

組織を正しく機能させることで、業務の効率化やメンバーのモチベーション向上などさまざまなメリットが生まれる。心理的安全性を醸成し、メンバーの貢献価値を引き出す手法を探る。

 

 

ウェルビーイング経営に取り組むための3つ目のポイントである「現場の巻き込み力」について、今回は従業員の能動的な行動を可能にする「心理的安全性」と、そのような職場をつくる「インクルーシブ・リーダーシップ」について紹介します。

 

 

貢献価値を引き出すインクルーシブ・リーダーシップ

 

米国の組織行動学の研究者であるエイミー・エドモンドソン氏とイングリッド・ネンバード氏は、集団におけるさまざまなメンバーの声や視点を拾い上げて、貢献価値を引き出すリーダーの特徴として「インクルーシブ」に注目しました。インクルーシブという言葉には、「仲間外れにしない」「みんないっしょに」という意味があります。

 

例えば、チームを率いる医師が他のメンバーを見下すような態度をとったら、看護師をはじめとするその他の専門職は消極的になるでしょう(医師の指示には従うでしょうが)。場合によっては、医師のミスに気付いても指摘しづらい雰囲気になってしまうかもしれません。

 

このようなチームでは、「リーダーからの指示待ち」が増え、現場メンバーは能動的に行動しません。多様な専門知識を持った従業員が参加しているにもかかわらず、成果に結び付きにくくなるのです。

 

一方、メンバーに「この職場では能動的に振る舞っても良いのだな」「このリーダーは個人の意見や貢献価値に期待してくれているのだな」と感じさせ、多様な貢献価値を引き出すのがインクルーシブ・リーダーシップです。

 

 

インクルーシブ・リーダーシップと心理的安全性

 

インクルーシブ・リーダーシップが従業員の能動的な行動に結び付くメカニズムにおいて、重要な役割を果たすのが心理的安全性です。心理的安全性とは、「組織の中で自分の考えや気持ちを誰にでも安心して発言できる状態」を言います。

 

心理的安全性の高いチームの特長は、「メンバーに対して否定的な意見を言ったり、ミスを指摘しても大丈夫だ」ということがメンバー間で共有されている点にあります。相手が自分より年上のメンバーであっても、自分の経験や知識に基づいた改善案を提案することができるでしょう。また、困ったときにはチームメンバーに相談を持ち掛けることもできるでしょう。

 

ここで留意していただきたいのは、心理的安全性は「反対意見を言ったら生意気な奴だと思われないだろうか」とか「支援を求めたら面倒な人だと疎まれないだろうか」といったリスクに対して安全であるという“信念”であり、「頑張らないことを許容する」というような“ぬるま湯”の環境を指すわけではありません。

 

 

インクルーシブ・リーダーシップの実践

 

インクルーシブなリーダーシップを発揮するとはどういうことなのでしょうか。代表的な研究者であるイスラエルのテルアビブ大学の教授・アブラハム・カルメリ氏らの論文では、次の3つの観点からインクルーシブ・リーダーシップを測定しています。

 

1つ目は、「他者の意見や新しいアイデアに開放的である」です。メンバーが改善案を提案してきたとき、そのアイデアを即座に否定するようではいけません。

 

2つ目は、「チームメンバーの力になる行動をする」です。メンバーの悩みを聞き、質問に答えることで、「リーダーであれば何か力になってくれそうだ」「できる範囲のことは助けてくれそうだ」と思われることが重要です。

 

3つ目は、「相談しやすい状況をつくる」です。問題が生じたときには相談に来ることを奨励し、すぐにスケジュールを確保できるようにしておかなければなりません。相談に来た部下に、「忙しい」とか「これくらいの変更なら自分で対処しろ」と言ってしまっては、気軽なやり取りができなくなってしまいます。

 

また、リーダーが良かれと思って行うことが、一部のチームメンバーには疎外感や無力感を感じさせてしまうケースがあることにも注意してください。

 

チーム内の親近感を醸成しようと、夜遅くに飲み会を開くことは一部の従業員には好評かもしれません。しかし、子育て中の従業員にとっては、自分たちの生活が理解されていないことを痛感させられる出来事になるでしょう。子育て中の従業員こそ、援助が必要な環境にいます。ランチタイムを活用するなど、目的に応じた幅広い工夫が必要です。

 

従業員のウェルビーイングを引き出す上で、直属の上司の振る舞いは重要です。従業員が自らウェルビーイングな働き方を実現できる職場・組織づくりを目指して、能動的な行動を引き出すリーダーシップを心掛けてはいかがでしょうか。

 

 

 


 

 

筆者プロフィール

武蔵大学 経済学部 経営学科 教授
森永 雄太(もりなが ゆうた)
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。経営学博士。立教大学助教、武蔵大学経済学部准教授を経て、2018年4月より現職。専門は組織行動論、経営管理論。近著は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方健康経営の新展開』(労働新聞社)。

 

 

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