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【メソッド】

ウェルビーイング経営のススメ:森永雄太

武蔵大学経済学部経営学科教授の森永雄太による連載。
メソッド2021.09.01

Vol.6 人手不足とダイバーシティーの推進

【図表】1989 年と2019 年の就業者構成の比較

出所:厚生労働省「令和2年度版厚生労働白書」(2020年10月)を基に一部修正の上、筆者作成

 

 

多様な人材の活用によるイノベーションの創出や、労働人口の減少を背景にダイバーシティーの取り組みが推進されている。多様な従業員のウェルビーイングを総体的に高めた事例から学ぶ、自社に適したマネジメント手法とは。

 

 

人を大事にする経営の重要性は今も昔も変わりません。しかし、対象となる「人」が変わっていることを考慮する必要があります。ウェルビーイング経営が重要になってきた理由について、今回は人口減少社会の観点から考えます。

 

 

人口減少と人材の多様化

 

日本は人口減少の局面に入りつつあり、優秀な人材の確保が難しくなってきているようです。労働政策研究・研修機構の「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」(2019年9月)によると、正社員の過不足状況について、「大いに不足」「やや不足」の合計の割合は64.6%となっています。

 

解決策の1つが人材の多様化です。すでに、職場で働く従業員の多様化は始まっています。厚生労働省の「令和2年度版厚生労働白書」(2020年10月)では、1989年と2019年の就業者数を性別と年齢別に比較し、就業者の構成の変化を明らかにしています(【図表】)。2019年の就業者数は、1989年と比べて25~39歳の男性が大きく減少する一方で、同年齢の女性は約1割増加し、65歳以上の男女については就業者数が大きく増加していることが分かります。

 

 

中小企業におけるダイバーシティーの推進

 

中小企業の人材の多様化を後押しする取り組みも進められてきました。経済産業省では、企業の経営戦略としての「ダイバーシティー経営」を後押しするため、「新・ダイバーシティー経営企業100選」を選定し、先進的な企業事例を発信しています。経済産業省のホームページに掲載されており、誰でもアクセスできます。

 

また2021年3月には、「改訂版ダイバーシティー経営診断ツール」の提供も始まりました。このツールは、中堅・中小企業が多様な人材を活用していく上で必要な現状分析や課題の明確化を行う際に有益だとされています。経営者だけで使用するというより、社会保険労務士などの専門家と経営者の対話材料として用いることを想定しています。自社に合った多様性ある組織を構築していくために、専門家の助けを借りながらこれらのツールを活用してみることも1つの方法でしょう。

 

多様性が高まりつつある組織で考慮しなければならないのが、「多様な従業員のウェルビーイングを総体的に高める」ことです。

 

日本レーザーの代表取締役会長を務める近藤宣之氏の著書『中小企業の新・幸福経営』(日本経営合理化協会出版局)によれば、同社は「幸福経営」を実践しており、多様な人材が活躍しています。

 

例えば、同社の社員のうち60歳以上の社員は2割以上で、女性社員は3割を占めます。また管理職に占める女性の割合も3割を超えています。

 

多様な人材が活躍している理由の1つに、人材の幸福を考慮した「個別管理」があります。個別管理とは、従業員が企業の決めた働き方に合わせて働くのではなく、組織が従業員それぞれの事情を考慮した制度をつくっていくというものです。同社では、パート・嘱託・正社員と自分に合った雇用形態が選べ、状況に合わせて変更することも可能です。これまでに、夫の転勤のため中国に1年間滞在することになった社員が滞在先で就業を継続したケースや、遠方に住んでいることで毎日の通勤が困難な従業員に週3回の在宅勤務を認めるといったケースがあります。

 

 

自社に適したマネジメントを考える

 

多様な従業員が働く時代になったことで、マネジメントの見直しが求められるようになってきました。古くから人を大事にする経営を実践してきた企業であっても、一部の従業員しか大事にできていないというケースがあるからです。

 

多様な従業員のウェルビーイングを実現していく上で、「組織が従業員を一律で管理し、従業員はそれを受動的に受け入れる」という関係では限界があります。日本レーザーでは、組織が個別に従業員を管理することで、この問題を乗り越えています。ウェルビーイング経営というアイデアを第1歩に、「自社に適したマネジメントとはそもそも何か」について柔軟に問い直してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

Profile
森永 雄太Yuta Morinaga
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。経営学博士。立教大学助教、武蔵大学経済学部准教授を経て、2018年4月より現職。専門は組織行動論、経営管理論。近著は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方健康経営の新展開』(労働新聞社)。
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