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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【コラム】

ウェルビーイング経営のススメ:森永雄太

武蔵大学経済学部経営学科の森永教授による連載。社員をはじめとしたステークホルダーの健康経営を推進するウェルビーイング経営に迫ります。
コラム2021.08.02

Vol.5 人生100年時代のマネジメント


2021年8月号

 

 

【図表】「健康経営度調査」参加企業数の推移

出所:経済産業省「健康・医療新産業協議会第2回健康投資WG」(2021年3月)よりタナベ経営が作成

 

 

「人生100年時代」を迎え、労働時間も増えていく中、従業員の健康をウェルビーイングに結び付けるマネジメントがこれまで以上に重要になってくる。自社に適した健康施策を理念やビジョンと併せて従業員に伝えていく手法とは?

 

 

日本企業は、人を大事にする企業が多いと言われています。しかし、その思いが正しく従業員に届いていないケースが見受けられます。人を重視する経営の有効性や重要性を従業員に伝えていくことも、経営陣や管理者の役割です。今回は、ウェルビーイング経営が重要になってきた時代背景として、「人生100年時代」の到来を取り上げます。

 

 

従業員の長期的な健康管理が求められる時代

 

人生100年時代とは、ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏が、著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(東洋経済新報社)の中で提唱しているコンセプトです。グラットン氏は、2007年以降に日本で生まれた子どもの半数が107歳より長く生きると見通し、「多くの人が従来よりも長く働いていくための変化を余儀なくされる」と指摘しています。

 

人が長く働く時代には、従業員の健康と、それをウェルビーイングに結び付けるためのマネジメントが欠かせません。仕事に対する活力を長期的に維持するには、心身の健康が重要な資産となるからです。また、働く期間が長くなれば、働いている間に従業員が罹患するリスクも高まります。中には、病気の治療と仕事の両立が必要になる従業員も出てくるでしょう。

 

従業員が病気になっても、治療と仕事を両立できる体制を整えておくことが今の組織に求められているのです。

 

 

「健康経営優良法人認定制度」への注目

 

従業員の健康問題解決に挑む企業を「見える化」する取り組みも始まっています。経済産業省と東京証券取引所は、2015年から共同で、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組む東証上場企業を「健康経営銘柄」に選定しています。

 

さらに、2017年からは経済産業省と日本健康会議による「健康経営優良法人認定制度」(大規模法人部門、中小規模法人部門)が始まっています。健康経営優良法人認定制度では、健康経営銘柄では対象外だった上場企業以外の企業、特に中小規模の事業者も対象となり、一気にすそ野が広がったように思われます。

 

健康経営に取り組む企業数は順調に増加しているようです。経済産業省が実施している「健康経営度調査」に参加する企業数は、調査が開始された2014年度は493社だったのに対し、2020年に実施された最新の調査では2523社(うち上場企業970社)が参加しています(【図表】)。2021年3月には、「健康経営銘柄2021」として29業種48社が選定され、健康優良法人として大規模法人部門1801社、中小規模法人部門7934社が認定されています。

 

 

健康施策を通じて従業員に経営理念を伝える

 

神奈川県横浜市に本社を構える建設会社のキクシマは、健康経営優良法人(中小規模法人部門ブライト500)の認定を受けています。同社では、「人と街が輝く未来のために」という経営理念を掲げています。この経営理念を掲げた際、「社員が輝くためには心と体の健康が重要である」と考え、健康施策に取り組み始めたそうです。

 

同社の取り組みの特徴は、心の健康を重視している点です。従業員数50名以下の事業所はストレスチェックを法律で義務付けられているわけではないにもかかわらず、社外のメンタルカウンセラーと契約し、全社員の面談とストレスチェックを実施しています。特に新入社員に対しては、入社後1~2カ月の間にカウンセリングを実施しているそうです。社外の専門家との面談は、上司や同僚には打ち明けにくい職場や家庭の悩みの相談を可能にします。このような取り組みを通じて、同社は定着率の向上を実感していると言います。

 

重要なのは、施策の充実度よりも「経営理念を実現するための手段として健康施策に取り組んでいる」ということです。「健康施策は何でも重要だ」ということでは、その重要性が従業員に伝わりません。むしろ、迷惑だと感じる人もいるかもしれません。

 

自社で健康問題に取り組むべき理由を明確にし、健康施策を通じて目指すべき会社や従業員の姿と併せて、従業員に伝えていくことが重要でしょう。

 

 


 

 

筆者プロフィール

武蔵大学 経済学部 経営学科 教授
森永 雄太(もりなが ゆうた)
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。経営学博士。立教大学助教、武蔵大学経済学部准教授を経て、2018年4月より現職。専門は組織行動論、経営管理論。近著は『ウェルビーイング経営の考え方と進め方健康経営の新展開』(労働新聞社)。

 

 

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