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【メソッド】

トップメッセージ

タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
メソッド2017.08.31

新たなチームなくして新たなビジネスモデルなし:若松 孝彦

人材活躍力を高める全員参加のチーム活動

 

(2)自己変革を続け全員参加・一人一人が活躍する

 

第二のステップは、一人一人が活躍できる、全員参加によるチーム運営が挙げられます。創業115年を迎える老舗企業の太田油脂(愛知県岡崎市)は、大手油脂メーカーの委託生産が中心の下請け型企業でしたが、自社ブランドのエゴマ油やオイルを開発。近年は自社ブランド製品の販売拡大で売り上げを伸ばしています。新ブランドの販促においては、女性社員によるチーム「あぶら部(A・BU・LOVE)」が一般消費者や地域における知名度向上に大きく貢献。一人一人が製品のPR担当として活動した結果、ブランディングに成功した好例といえるでしょう。

 

また、2002年設立のスターフライヤー(福岡県北九州市)は、大手航空会社とLCC(格安航空会社)との差別化を目指し、ES(社員満足)の向上に取り組みました。社員一人一人が活躍できる働き方改革を進めた結果、生産性向上に加えて、2017年の就職先人気ランキング※7で9位(九州・沖縄地域)に入るほどの評価を獲得しています。中期経営計画「“らしさ”の追求2020」を掲げ、理念や方向性を共有していることが全員参加の改革を進める原動力となっています。

 

チームのメンバーが方向性を共有すると改革スピードは格段に上がります。タナベ経営でも提言していますが、チームの推進力を高める上で企業内大学の活用は非常に有効です。働き方改革は、学び方改革でもあるということです。

 

組織が「One」になるチーム経営

 

(3)チームOne の運営システムをつくる

 

第三ステップは、顧客のために部門や階層の壁を越えて1つになる。これが「チームOne」です。日本の組織の多くは機能別の縦割り構造で、硬直化しています。ブランドやサプライチェーンが実現しているように、全ての機能が一体となって顧客へ向かっていく組織デザインが必要です。言葉を変えれば、チームのブランディング活動であるといえます。

 

このチームブランディング活動には、①顧客価値、②全員活躍、③ブランド化、④オープンイノベーション投資、⑤プロフィット、⑥活躍評価という6つの要素・条件があります。

 

顧客に向いて全員が活躍できるチームであり、ネーミングやロゴを活用して社内外に向けてブランド化していくこと。広く外部に知を求める対外的交流への投資を行い、チームKPI(重要業績評価指標)を設定して損益を管理することで、次の投資や活躍意欲を引き出す。そしてチームの活躍をしっかりと評価する表彰制度やインセンティブといった評価の仕組みを構築する。

 

一連のチームブランディング活動を通して、チーム力が養われていくのです。

 

オープンイノベーションとコミュニケーション投資

 

加えて、チームは高密なコミュニケーションが生まれると活性化します。そのためには外部連携、すなわち、オープンイノベーションという「共創思考」も含めて、3つの視点からチームへ投資することを検討すべきでしょう。

1つ目はOneミーティング投資。これは社内コミュニケーションを後押しするインフラ投資といえます。例えば、グループウエアやテレビ会議、スマートフォン、タブレットといったツールへの投資です。

 

2つ目は、オフィス環境への投資。オフィスの設計一つで思考が変わり、生産性が上がります。コミュニケーションが活性化するよう、オフィスそのものの環境を変えていくわけです。大手スナック菓子メーカーのカルビー(東京都千代田区)は、オフィスにフリーアドレス制を導入しています。さまざまなタイプの座席が用意されており、とてもユニークです。例えば、1人で集中するためにパーテーションで個室化された席や、打ち合わせをしながら仕事ができる3人席、より大勢でアイデアを出し合う円卓など、働く人が目的に合わせて選ぶことができます。非常に参考になるデザインです。

 

3つ目はIT投資。神奈川県の鶴巻温泉にある老舗旅館、元湯 陣屋(神奈川県秦野市)が有名です。同社は「陣屋コネクト」と命名した独自クラウドの導入によって、情報の見える化をはじめPDCAサイクルの高速化や顧客接点の増加などに取り組み、高い生産性を実現しています。IT化による業務の効率化は、社員の完全週休2日制や有休消化率100%などの働き方改革につながりました。働きやすい環境が整ったことで、以前は33%に上っていた離職率が3%まで下がっているそうです。

 

人事制度から組織をリデザインすることは、働きがいを高めて生産性にも影響を及ぼします。

 

もう1つ事例を挙げましょう。グループウエア開発を行うサイボウズ(東京都中央区)は、人材確保の観点から最長6年の育児・介護休業制度や、ライフステージに合わせて働き方を変えられる選択型の人事制度、副業解禁、留学や転職を認める育自分休暇制度、子連れ出勤制度、在宅勤務制度など多様な働き方改革に取り組んでいます。その結果、離職率は28%から4%以下へと劇的に改善し、今では社員の働きがいや生産性の向上に大きな成果を上げているそうです。

 

日ごろ、経営者から「優秀な人材がいない、人が足りない」という声を聞きますが、本当にそうでしょうか。 実は、高い能力を持った人材はすぐそばにいます。社内にいる人材の長所に気付いていないのです。顧客にとっての価値を高めるために、社員の強みや長所を探してつなぐことがチーム力の出発点です。ファーストコールカンパニーを目指し、新たなチームをつくり、チームに投資し、チーム力に磨きをかけて、新たなビジネスモデルやブランドを築いていきましょう。

 

※1 中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数等(2014年7月時点)の集計結果」2016年1月29日公表
※2 東京商工リサーチ「全国『老舗企業調査』」2016年12月2日公開
※3 タナベ経営「2017年企業経営に関するアンケート」(有効回答数:305名)
※4 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」<出生中位・死亡中位推計>
※5 日本生産性本部「労働生産性の国際比較(2016年版)」2016年12月19日発表
※6 Great Place to Work® Institute「World’s Best Multinational Workplaces List」2016年10月26日発表
※7 マイナビ・日本経済新聞社「2017年卒マイナビ大学生就職企業人気ランキング」2016年5月12日発表

 

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Profile
若松 孝彦Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
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