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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【メソッド】

トップメッセージ

タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
メソッド2022.01.05

One&Only戦略 唯一無二の「志」を、社会へ、顧客へ:若松 孝彦

【図表1】6つの成長モデル

出所:タナベ経営作成

 

 

【図表2】ハイブリッド成長モデル

出所:タナベ経営作成

 

 

“志定まれば、気盛んなり”
「フューチャービジョン2030」を世界へ宣言しよう

 

コロナ禍からの復興が進む中、企業が採るべきOne&Only戦略を考察します。未来の社会に不可欠な唯一無二の貢献価値を創造するためには、❶ハイブリッド成長モデル、❷ビジネスプラットフォームモデル、❸ハイブリッドマーケティングモデル、❹プロフェッショナル人材開発モデル、❺プロフェッショナルアカデミーモデル、❻アジャイルマネジメントモデルという6つの成長モデルのビジョンを実装する必要があります。(【図表1】)

 

❶ハイブリッド成長モデル

 

セグメンテーションとバリューチェーン価値の最大化を図ります(【図表2】)。「顧客当たりの取引額・インストアシェア」と「顧客数・マーケットサイズ」を拡大し、結果的に顧客との長い関係を築くLTV(顧客生涯価値)を実現するのです。

 

商品はすぐに模倣できても、バリューチェーンは一朝一夕で構築できない唯一無二のビジネスモデルであり、その実現にはDXの実装が不可欠です。成功事例として、家具・インテリア用品販売のニトリホールディングス(札幌市北区)、医師・医療従事者向けの医療情報ポータルサイトを運営するエムスリー(東京都港区)、食品メーカーのカゴメ(愛知県名古屋市)が挙げられます。

 

❷ビジネスプラットフォームモデル

 

ニューノーマル(新常態)に対応した事業開発・M&Aを推進するプラットフォームの構築を目指します。注目されるのが戦略的M&Aで、企業1万社に「近い将来(今後5年以内)におけるM&Aへの関わり方」を聞いたところ、「(自社が)買い手となる可能性がある」(21.6%)、「(自社が)売り手となる可能性がある」(10.5%)、「買い手・売り手両者の可能性がある」(5.1%)との回答があり、合計37.2%の企業がM&Aに関わる可能性があることが判明しました(帝国データバンク調べ、2020年9月)。企業の持続的成長を図る手段として、3社に1社がM&Aを考えているのです。

 

それを実証するように、M&Aの件数は2021年上半期で前年比17%増となり、統計開始以来で最多となりました(レコフデータ調べ)。「産業の新陳代謝が起きない」「後継者不足で会社継続が難しい」「海外戦略がうまくいかない」といった課題を解決する経営技術には、M&Aという手法が不可欠になっています。

 

成功事例として、製造業グループ持ち株会社の由紀ホールディングス(東京都中央区)、ソーシャルビジネスを展開するボーダレス・ジャパン(東京都新宿区)、教育サービスや出版物の製作販売、介護事業を展開する学研ホールディングス(東京都品川区)が挙げられます。

 

❸ハイブリッドマーケティングモデル

 

CX(顧客体験価値)を高める複合的マーケティングを展開します。CXとは、商品・サービスを通して顧客が体験する心理的な価値です。CXの概念を提唱した米コロンビア・ビジネススクール教授のバーンド・H・シュミット氏は、CXを「感覚的(SENSE)」、「情緒的(FEEL)」、「知的(THINK)」、「行動(ACT)」、「社会性(RELATE)」の5つに分類しています。

 

複合的マーケティングとは、リアルとデジタルを融合させたマーケティングのことです。成功事例として、総合食品メーカーの久原本家グループ本社(福岡県久山町)、ファクトリーオートメーションのオムロン(京都府京都市)が挙げられます。

 

❹プロフェッショナル人材開発モデル

 

自社の強さ、つまり「らしさ」を追求する“専門家集団”という人的資本を活用し、企業を成長させる取り組みです。「どのような専門人材が何人必要か」という人的ビジョンを策定し、中長期的な人員計画にまで落とし込んだ上で、採用戦略や人材教育戦略を展開しながら人的資本経営を実現させる仕組みづくりが求められます。

 

2020年8月に米国証券取引委員会は、上場企業に人的資本の情報開示を義務付けることを発表。日本でも、2021年6月に東京証券取引所が上場会社に向けた「コーポレートガバナンス・コード」を改訂し、女性・外国人・キャリアの活躍状況、知的資産、人材投資などに関する情報が開示されることになりました。これは、数値では表現しづらい“人的資本投資”が企業の価値に大きく関わっているという意味です。有資格者、DX人材、クリエーター、デザイナーといったプロフェショナル人材を何人有しているかが企業価値につながるのです。これらを未来への人事KPI(重要業績評価指標)と定義し、そこへ向けた人事戦略が求められます。

 

成功事例として、製薬大手の大日本住友製薬(大阪府大阪市)、小売事業とフィンテック事業を行う丸井グループ(東京都中野区)が挙げられます。

 

❺プロフェッショナルアカデミーモデル

 

「プロフェッショナルアカデミーモデル」は、唯一無二のプロフェッショナル人材の育成システムを構築・運営する取り組みです。当社はこれまでに140校以上の“企業内大学”を設立してきた実績を持ち、「企業内大学設立コンサルティングにおいては日本一」と自負しています。その豊富なエビデンスから、プロフェッショナルアカデミーモデルは人材育成のスピード、質量ともに優れていると実証できます。

 

当社主催の「アカデミーアワード2021」で優秀賞に輝いた、音響エンジニアリングを手掛けるヤマハサウンドシステム(東京都中央区)は、「YSSアカデミー」を設立し、ヒト(人)・オト(音)・モノ(物)・コト(事)からなる4つの学部で、「いい音」につながるあらゆるノウハウと階層別に求められる能力を体系的に学べるプラットフォームを構築。また、アウターブランディングの一環としてYSSアカデミーの情報をコーポレートサイトや採用サイトで発信し、最近では同校が入社の大きな要因になっているそうです。

 

プロフェッショナルアカデミーモデルを実装すれば、ハイブリッド成長モデルのバリューチェーンモデルと同様に、プラットフォームに投資し続けることで他社が模倣できないOne&Onlyの教育システムを確立できます。

 

❻アジャイルマネジメントモデル

 

全員経営を推進する高速マネジメントを実現するものです。リアルタイムで自社の経営情報を見える化し、共有した情報をスピーディーに活用する「マネジメントDX」が重要なポイントになります。自社独自のKGI(重要目標達成指標)やKPIを開発し、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールを駆使して、ワンクリックでアウトプット、共有化できる社内システムを構築してください。

 

独自のKPIを開発して競争優位性を確立した事例として、工場用副資材の卸売業のトラスコ中山(東京都港区)が挙げられます。同社は、「顧客満足×競争優位性×利益の最大化」という3点が同期した「在庫ヒット率」(KPI)を開発。その指標を90%以上に高めた結果、「頼めばすぐ手に入る」「なんでもそろう」という顧客満足・顧客ロイヤルティーを築き上げ、高収益の維持を実現しています。ちなみに、同社は経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「DX銘柄2020」「DXグランプリ2020」に選ばれるほどのDX先進企業です。

 

幕末の志士・思想家である吉田松陰は、「志定まれば、気盛んなり」という言葉を残しました。「人は志が決まれば意気が高まり、その実現に向けて情熱を燃やし、全力を尽くすことができる」という志士たちへの激励です。新しい時代へ、未来へ向けた「志」を再定義した上で、One&Only戦略をビジョンに実装して「フューチャービジョン2030」を策定し、そのビジョンをコーポレートサイトなどの自社メディアを通して世界へ宣言しましょう。それが、ファーストコールカンパニー(100年先も一番に選ばれる会社)へ向かう決断になります。

 

 

 

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Profile
若松 孝彦Takahiko Wakamatsu
タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、大企業から中堅・中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
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