2019年 年頭指針:若松 孝彦
日本経済は世界自由貿易圏とデジタル経済への対応が鍵
日本経済は、2012年11月を底に緩やかな景気回復が続いています。2017年度は実質GDP成長率が1.6%と2013年度以来の高い伸びとなるなど、内外需が共に回復するバランスの取れた成長を続けています。2018年度初めには、天候不順などの影響もあり成長率が鈍化したものの、海外の経済回復、情報化をはじめとする技術革新の進展、雇用・所得環境の改善に支えられた回復基調は継続することが見込まれています。
また、さまざまな産業や業種などでデジタル技術や新たなICTを活用するトレンドが進展。このトレンドは、「〇〇×Technology(技術)」と表現され、「X-Tech」(クロステック)と呼ばれています。これは産業や業種を超えて、テクノロジーを活用したソリューションを提供することで、新しい価値や仕組みを提供する動きと捉えることができます。
「X-Tech」により、「シェアリングエコノミー」が強烈な勢いで成長しています。タナベ経営は以前から「使用すれども所有せず」の経営を提言してきましたが、まさにその時代が到来するのです。「自分たちの提供している価値をいかにシェアするか」はビジネスモデルを着想する上でヒントになります。これに適応する組織には、CIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)と呼ばれる人材の配置も必要です。会社の意思決定に組み込み、組織として取り組むのです。これを「デジタルリーダーシップ」と呼びますが、デジタルリーダーシップがとれないリーダーは今後の戦略が構築できなくなっていきます。
日本経済の循環的変化について見ていきましょう。1999年以降、日本経済は約20年もの間デフレの状態にあると考えられてきました。デフレ状態の要因として、多くの人々が物価や賃金の上昇を長らく経験していないため、物価や賃金が「上がる」という感覚自体が希薄化していることも経済動向に影響しているという見方が出ています。
米中貿易摩擦による影響も無視できません。トランプ?大統領は、中国からの約2000億ドル相当の輸入品目に対して追加関税を課すことを発表しました。これに対して、中国側も?国からの約600億ドル相当の輸入品目へ報復関税の発動を発表。両国とも、自国に対して有利な条件で決着をつけようとする戦略であるとも考えられるため、先行きはいまだつかみにくい現状となっています。
また、今後発動される可能性のある通商政策が、日本経済、および日本企業の収益に与える影響はどうでしょうか。大和総研のマクロモデルを用いて日?中の経済に与える影響を試算すると、?国が中国からの約2000億ドル相当の輸入品目に対する追加関税率を25%に引き上げられるケースの試算値によると、GDPの下押し効果はそれぞれ中国がマイナス0.22%、?国が同0.28%となり、日本が同0.02%となります。
他方、これに対抗すべく、TPP11(イレブン)、EUとのEPA(経済連携協定)によるGDPの押し上げ効果が期待されています。日本とEU貿易圏を足すと、世界人口の約1割、貿易額の約3割、GDPの約3割を占めますし、東アジア地域包括的経済連携、RCEP(アールセップ)が実現すると世界全体の人口の約5割、GDPの約3割を占める経済圏が生まれます。
働き方改革はこれからが本番
社会課題の解決で持続的成長
「働き方改革関連法」が成立し、2019年4月から順次施行されます。非正規雇用労働者の処遇改善や長時間労働の是正など、労働制度の抜本的な改革を行うものです。その他、子育てや介護などとの両立、副業・兼業など働き方の多様化に伴うさまざまな課題や、労働生産性の向上を阻む多くの問題を解決するための法案として掲げられました。
働き方改革の主要項目は残業時間の上限規制、有休取得の義務化、勤務時間インターバル制度、割増賃金率の猶予措置廃止、産業医の機能強化、同一労働同一賃金、高度プロフェッショナル制度の創設です。同一労働同一賃金は、正社員やパートなどの立場、勤続年数にとらわれず、同じ仕事であれば同じ賃金が発生するという賃金設定。つまり、賃金の安い労働者を集めるようなビジネスモデルは存続が難しくなる可能性があります。人件費を下げることで会社を経営する形から脱却しなければなりません。働き方改革関連法は、これまでの就労観だけでなく国民の生活の形も変容させる可能性があります。
2015年9月の国連総会で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。2016年から2030年までの国際目標である「SDGs」の実現に取り組んでいる会社が増えています。SDGsの日本版モデルの中には、日本政府の提唱するこれからの社会像「Society(ソサエティー)5.0」(超スマート社会)が示されています。
これまでの社会では、経済や組織といったシステムが優先され、個々の能力などに応じて個人が受けるモノやサービスに格差が生じている面がありました。Society5.0では、今まで人間が行っていた作業や調整をAIやロボットが代行・支援するため、日々の煩雑で不得手な作業などから解放され、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができるようになることを目指します。テクノロジーが切り拓く新しい未来像としてSociety5.0を見てみると、これから企業が何に取り組んでいくべきか、その方向性の一端が見えてきます。