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【メソッド】

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タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
メソッド2017.12.26

成長する未来を、いま切り拓こう:若松 孝彦

東京の人口が減少する大転換する価値観の先

 

日本経済は2012年末から続く緩やかな景気の回復基調と、それに伴う雇用情勢の改善によって、人手不足感がバブル期並みに高まっています。少子高齢化・人口減少が進む中、日本の生産年齢人口は2015年から2030年までの15年間で852.8万人の減少が見込まれています。帝国データバンクの調査によれば、2017年上半期(1~6月)の「人手不足倒産」が2013年の同時期と比べ約3倍になるほど、深刻な問題です。

 

労働力環境・採用環境を見る際のインパクトポイントは大きく3つ。1つ目は有効求人倍率の上昇です。厚生労働省が発表する有効求人倍率(季節調整値)を見ると、2017年4月(1.48倍)にバブル期のピーク(1990年7月=1.46倍)を上回り、10月(1.55倍)には1974年1月(1.64倍)以来43年9カ月ぶりの高水準となりました。特に、2018年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の大卒求人倍率は1.78倍(リクルートワークス研究所調べ)。全国の民間企業の求人総数は前年の73.4万人から75.5万人へ2.1万人増加しました。新卒募集人数と就職希望者数の隔たりが顕著になっています。

 

2つ目は、18歳人口のピークアウト。「2018年問題」とは、2018年ごろに将来の労働力である18歳以下の人口が減少に転じることを指します。2018年に120万人を割り込むことが確実視されており、新卒人材の獲得競争の激化は避けられません。

 

3つ目のインパクトは、東京都人口のピークアウト。2025年をピークに、一極集中の東京ですら人口が減少へ向かうと予測されています。2025年は「団塊の世代」が全て75歳以上(後期高齢者)となるため、高齢者の死亡数増加による「自然減の拡大」が見込まれています。

 

「次元の異なる未来」がポスト経済の本質。
「新たなスタンダード」を確立し直す必要があります。

 

「過去肯定、現状否定、未来創造」
の精神で、異次元経済へ挑む

 

こうした情勢を踏まえると、2018年は新たな競争に向けた分岐点となる年といえるでしょう。「ポスト経済」時代は、消費増税や東京五輪以降の「需要減」がリスクの本質ではありません。ポスト経済下に必要なのは、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ロボットなどのデジタルテクノロジー、Webを活用した異次元ともいえるビジネスモデルとの競争、そして価値観の変化や人手不足を背景にした「働き方・生産性カイカク」への取り組みだと私は考えています。

 

つまり、「次元の異なる未来」がポスト経済の本質であり、「新たなスタンダード」を確立し直す必要があります。結論を申し上げれば、生産性カイカクとは「ビジネスモデル/ブランド」「デジタル/ICT」「人材活躍」へ戦略投資を行い、「人が主役のビジネスモデル」を創ることに尽きます。

 

生産性カイカクがビジネスモデルを変える。そのような時代に着目すべき4つのポイントを、これから順にご紹介します。

 

① 時間は短く、価値はより高く

ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を運営するロイヤルホールディングスは、人手不足や採用難への対応として「24時間営業の廃止」を決断しました。外食産業では長時間営業が常識でしたが、同社は2017年3月末までにロイヤルホスト全店の平均営業時間を約1時間20分短縮、ランチタイムやディナータイムの人員を増やしてサービス品質の向上に努めました。営業時間を短縮したにもかかわらず、既存店売上高は逆に上昇へ転じ、17年12月期第3四半期連結決算ではロイヤルホスト事業の売上高が約287億円(前年同期比0.2%増)、経常利益は約17億円(同22.4%増)と増収・大幅増益を実現しました。また深夜や早朝勤務がないため、アルバイトの応募者数も増えているそうです。

 

② 社会的課題の解決に寄り添う

ラーメン・中華料理店チェーンの「ハイデイ日高」は、2006年に焼き鳥チェーン業態へ進出しました。主力業態の「駅前立地+チョイ飲み」という独自スタイルを生かせることが進出の決め手ですが、創業者で会長の神田正氏によれば「現場で頑張って働いてくれた社員の高齢化に対応する」ことも大きな理由だったそうです。同社の中華料理店で使用する中華鍋は1㎏以上あり、1日8時間も振り続けるのは重労働。ですが、焼き鳥なら腕力は要りませんから、シニアでも仕事を続けられます。言葉を変えるなら、雇用の確保から始まったビジネスモデルともいえるわけです。

 

③「デジタルスピード経営」

デジタルテクノロジーの進化は事業スピードの高速化をもたらしました。「118年と33年」。前者はNTT(日本電信電話)が営業利益1兆円超えに要した年数、後者はソフトバンクグループのそれです。また、世界最大のホテルグループである米国マリオット・インターナショナルは、第1号ホテルを開業(1957年)してから総客室数110万室に達するまで59年を要しました。しかし、民泊予約サイトのAirbnb(エアービーアンドビー)はわずか7年で150万室を突破しました。このスピード感を生み出すテクノロジーこそ、全世界で20億人以上が利用するスマートフォンです。

 

④ プラットフォーム革命

現在、競争の次元が変わり始めています。人を取り巻く環境の変化やデジタル革命、ビジネスモデル競争の視点から、人が主役となる新たなスタンダードを確立すべき時期が来ています。日本の2016年度の名目労働生産性(時間当たり)は4828円と過去最高を更新しました。しかし、OECD加盟国との比較では低位にとどまっています。

 

生産性を上げる1つの指標として、タナベ経営は「1人当たり経常利益」の採用を推奨しています。目指すは、1人当たり年間経常利益300万円。従業員100名なら3億円、従業員300名なら9億円の経常利益が必要です。簡単ではありませんが、生産性カイカクを進めるのは過去肯定、現状否定、未来創造への意志です。コストダウンではなく戦略投資が必要であり、まずはリーダー自身の価値観を変えることから始まります。

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Profile
若松 孝彦Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。
関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
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