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【メソッド】

メンタルアップコミュニケーション 人が辞めない職場づくり

日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子氏による連載。職場におけるコミュニケーションの注意点や、ストレスマネジメントの方法など、健やかに毎日を過ごすヒントを紹介しています。
メソッド2020.05.29

Vol.10 適度な距離を保ち、仕事以外の交流を

寂しさの理由

 

入社間もない方や、年齢の若い方のカウンセリングをしていると、高い確率で「寂しい」とのフレーズを耳にします。何に対して寂しいのかを聞くと、組織の一員としての「つながり」を会社の中で感じられないことに対してだと言います。

 

社内でいわゆる「アフターファイブ」の付き合いがないため、仕事以外の深い話をしたことはなく、互いのことをよく知らない。ましてや仕事中に自分の思いを話す機会もなく、同僚や上司と親しくなれない。そのため心理的な距離を感じ、話し掛けることにすら勇気がいるとのことです。

 

要するに、職場で気軽に相談できる相手がおらず、何か困ることや分からないことがあっても尋ねること自体を躊躇してしまい、取り残されたような気持ちになっているのです。

 

このような状況の背景には、ワーク・ライフ・バランスを重んじる昨今の傾向に、職場が大きな影響を受けているという要因がありそうです。仕事とプライベートをきっちりと分ける志向が社会的に強まり、勤務時間以外で仕事に関することに時間を拘束されたくないとの声を聞くにつけ、部下を会食やイベントに誘いにくいと思うリーダーは多いようです。

 

また、「こちらはそのつもりはなくても『パワハラ』とでも言われたらかなわないから、誘えない」と、嘆きとも諦めとも取れることをおっしゃる方もいます。確かに、仕事以外の付き合いはご法度のような印象をお持ちの方は多いでしょう。しかし、カウンセリングをする中で「上司に飲みに誘われること」について質問すると、8割方の人から「誘ってほしい」との回答があります。

 

「自分のことを知ってもらいたい」「現場(仕事)のことを知りたい」という二つの理由からです。職場では、なかなか自分の思いや考えを伝える機会がないためです。また、「上司のことも、これからの仕事のことも知りたい」と思っています。ロールモデルを求める気持ちが強いのです。

 

ここで大切なのは、寂しいと感じている社員はただ飲み会に参加したいわけではなく、対話の時間を欲しているということです。ですから、場を設ける際は、「部下との相互交流の場」としての認識を持ち、武勇伝を語ったり、一方的に説教をしたりするのはやめましょう。

 

また、アルコールやタバコの煙が苦手な方も多くいますので、お店の選定をする際の配慮も必要でしょう。場合によっては、お茶をするだけだったり、ランチタイムを利用したりすることもお勧めします。普段のやりとりや関わり方も必要以上にためらわず、しかし、配慮をもって声を掛けることを意識してください。

 

すでに上司や先輩との関係性が悪化している場合、交流の場に誘っても「行きたくない」と拒否されるケースもあります。そういった社員からは「こちらの言い分に耳を貸さず、話を聞いてくれない」「要望に対して応えないばかりか、理由も教えてくれない」との訴えが多く、分かり合えない相手とわざわざ関わりたくないとの思いが聞かれます。しかし、いずれにしても、「話をする場」「きちんと向き合う場」を部下が必要としていることに変わりはありません。

 

 

 

気持ちを受け止める関わり方

 

部下と対話の場を設けた際、どのような関わり方が望ましいでしょうか。

 

「最近、ミスが多くてこの仕事を続けていけるか不安です」と部下に言われたら、どのように声を掛けますか?

 

①何で続けられないの?いつから?
②人間関係で何かあった?
③そんなふうに考えたらダメだよ
④このところ大変だったし、ミスが重なるとそんな気持ちにもなるよね
⑤そうか、不安なんだね

 

ただの日常会話でしたらどれも間違いではありませんが、相手の気持ちを受け止める対応は、このうち一つしかありません。

 

①は、調査的態度といい、問題解決志向の方に多い対応です。「状況が分からなければアドバイスのしようがない」と考え、とにかく事実関係を確かめようと試みます。

 

②は、解釈的態度といい、文字通り自分の解釈で対応します。友達から「最近疲れていて」と言われたら、「仕事が忙しいんじゃないの?無理し過ぎだよ」などと答えてしまうのがこのタイプです。

 

③は、評価的態度といい、相手の訴えに対して「良い、悪い」をジャッジする上から目線の対応です。

 

④は、支持的態度といい、相手に理解を示すので心理的な距離を縮める効果はありますが、依存を生む対応でもあります。依存自体は悪くありませんが、依存と攻撃の感情は表裏一体。親しくなればなるほど、意見の相違があった時に「裏切られた」という思いを持ちやすくなります。職場で敵をつくってしまう可能性も大きいので、多用するのは控えたいところです。

 

⑤は理解的態度といい、これが相手の気持ちを受け止める共感の対応に当たります。こちらの意向や意見を伝えるのではなく、まずは相手の訴えてきた気持ちをしっかりと受け止めて伝え返す対応です。これにより、相手は「受容された」という気持ちになり、安心して話せます。少し相手との距離を感じる方もいると思いますが、この距離こそが大切なポイントです。相手と一定の距離を保つことが、相手を尊重することになるのです。

 

まずは、⑤の対応で相手の気持ちを受け止め、その後なら①~④の対応をしていただいて構いません。

 

せっかく話す場を設けても、相手との相互理解がかなわなければ効果は得にくいので、やりとりの参考にしていただければと思います。

 

「毎日一緒に過ごしていれば、関係性は深まる」といった反論もあるでしょうが、仕事中に関係を深めるには限界があります。業務の話が中心で、日常会話といっても天気の話など当たり障りのないものがせいぜいで、気持ちの距離はなかなか縮まりません。

 

些細なことでも相談できるのは日頃の交流があるからこそで、日常会話もスムーズにできない相手にいきなり相談なんてできません。仕事を円滑に行うため、ぜひとも仕事以外で適度な相互交流の場を持っていただきたいと思います。

 

 

 

 

Profile
大野 萌子Moeko Ono
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。内閣府、防衛省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間150件以上の講演・研修を行う。著書に『言いにくいことを伝える技術 ~もう振り回されない! ストレスフリーな人間関係を一瞬で手に入れる』(ぱる出版)、『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー携書)など。
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