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【メソッド】

メンタルアップコミュニケーション 人が辞めない職場づくり

日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子氏による連載。職場におけるコミュニケーションの注意点や、ストレスマネジメントの方法など、健やかに毎日を過ごすヒントを紹介しています。
メソッド2020.03.31

Vol.8 メールで相手のやる気をそがないために

便利なメールの問題点

 

いまや、連絡事項はもとより、指示出しや進捗の確認もメールなどの文字メッセージツールを使用している職場は少なくないかと思います。相手の時間を拘束せずに済むことや、こちらの都合で対応できる便利かつ気軽なツールとなっていますが、それ故に、やりとり次第で相手との関係が大きく変わることがあります。

 

基本的に文字のみのツールなので細かいニュアンスが伝わりづらいことや、相手の反応を見ながら話を展開できないこと、小さなずれを修正しながらやりとりできないことが問題点として挙げられます。要するに送信者の一方的なメッセージとなる要素が強いのです。

 

とはいえ、丁寧な表現にこだわると回りくどく長い文章になりがちで、肝心なことが伝わりにくくなってしまいます。また、メールは開封した時の相手の状況によって、印象が左右されるという不安定要素を含みます。いつも相手が時間のある穏やかな状態とは限らず、忙しい時、焦っている時、何かにいら立っている時もあります。だからこそ、メールにはどんな状況下にあっても、適切にやりとりできる内容が求められます。

 

受け取る相手の心理状況に、メールの印象を左右されないためには、相手を尊重し、不快感を抱かせない内容にすることが大切です。また、相手に余裕がない時でも明確に理解できるよう、分かりやすく簡潔な文章を目指すことも重要です。今回は、メールをやりとりする時のポイントについて、お伝えしたいと思います。

 

 

誤解を生む表現は避ける

 

メールの文頭で、「例の件ですが」「先日の件」などと書き始めてはいませんか。相手はあなたとだけやりとりしているわけではありません。多くの案件を抱えている方も少なくないでしょう。少し時間がたっている案件だと、先述したような文言で書かれても何のことか分からない可能性があります。

 

また、「前回と同じ対応で」とか「昨年と同じなので詳細は割愛します」などもしかりです。立場が上になればなるほど自分への存在意識が強く、「多くを言わなくとも自分の意向は相手に通じる」「同じ業務に携わっているのだから、当然分かっているだろう」と思う傾向があります。しかし、そのように都合よく以心伝心できることはそうそうありません。

 

自分が分かっている事象に対して、相手もそれが当然としてしまう関わりは相手に負担をかけます。相手が部下であれば「上司だから」と聞くことを遠慮し、あなたが「当然」としている事柄について過去のデータや記録を探すなど、多くの手間と時間をかけるでしょう。また、部下も「昨年同様ですね」と返しておきながら全然違う案件と混同して処理するなど、トラブルにつながりかねません。1から10まで詳細に説明せずとも、具体性をもたせた案件内容や資料のタイトルなどをメールに明記し、誤解を生む表現を避けることが大切です。

 

加えて、「なるべく早く」というような文言は、期日が具体的に分からず、どの程度急ぎの用件なのか判断に困ります。優先順位を決めるときに判断に迷ったり、反対に「なるべく」だから急がなくていいのではないかと認識されてしまうことがあったりします。相手に分かりやすいよう、明確に期日や時間を区切ることも大切です。

 

 

 

むやみにカタカナ用語を使わない

 

「レスポンスが遅いですが、パフォーマンスが落ちていませんか? ボトルネックをエビデンスに基づき、説明してください」

 

このような文面を受け取ったら、一瞬何のことかと思う方もいるでしょう。昨今増えてきているカタカナのビジネス用語について、万人に認知されているものはともかく、はやりを意識したいわゆるトレンド語や、他業界の相手に業界用語を使用するのは、避けた方がよいでしょう。単語の意味を調べさせることは、相手の時間を奪うことにつながります。

 

そもそも、万人に認知されているビジネス用語だと自身が思っていても、相手も同じ認識であるとは限りません。カタカナ用語は、意味合いが複数あるものも多く(もともと外国語由来が多いので、和訳したときに微妙なニュアンスの違いが生まれる)、相手へ正確に意図が伝わらない場合と、言葉の雰囲気で「こんな感じかな?」と勝手に解釈されてしまう場合もあり、全く別の意味で捉えられてしまう危険性をはらんでいます。

 

また通常、身内でカタカナ用語を使い慣れてしまうとそれがスタンダードになり、外部との温度差に気付きにくくなる場合もあるので注意が必要です。取引先などに対して不快な思いをさせてしまうことにもつながりかねません。日本人同士であれば、むやみにカタカナ用語を使わず日本語でやりとりする方がよいでしょう。

 

例えば、冒頭の言葉であれば、「返信が遅れているようですが、作業遅延に陥っていませんか。問題となっている要因を具体的に挙げて、説明していただけませんか」とします。このように、カタカナ用語を使用しない方がスッキリした印象になります。自身でもすぐに日本語へ言い換えられないような曖昧なカタカナ用語は、使わないようにするのが無難でしょう。

 

 

メールだけに頼らない

 

メールの最後に締めの言葉として「よろしくお願いします」と書き添える方は多いと思います。しかし、メールの内容が曖昧なままこれを書かれると、受け取った側は「いったい何をお願いされたのか?」と不快に思ったり、もっとひどい場合は丸投げや責任転嫁されたと捉え、腹を立てたりすることもあります。きちんとした依頼や、はっきりと周知が明示されている場合は問題ありませんが、全てのやりとりに付けてしまうのには、リスクがあります。

 

他にも、終了した案件のやりとりの締めとして、「引き続き、よろしくお願い申し上げます」と書き添えるのも良くありません。すでに終了したことなのに、「『引き続き』とはどういう意図があるのだろう」と困惑する方がいるからです。メールの内容に合った結びの言葉を選ぶことも大切です。

 

メールで違和感を覚えたり、相手の理解が不足していると思われるときはやりとりを続けずに、直接会って話をしたり、電話を使ったりするなど、他のツールを併用するとよいでしょう。情報量の少ない文字のみでのやりとりを続けてしてしまうと、思い込みから問題が深刻になることがあるためです。

 

直接話すことで、「なんだそういうことか」とあっけなく解消してしまうことも少なくありません。メールは便利ですが、あくまでも直接関わることの「補助ツール」と認識することで、より効果的に使用していただけると思います。ちょっとした気遣いで、部下や取引先との関係をより良く築いていかれますように。

 

 

 

 

Profile
大野 萌子Moeko Ono
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。内閣府、防衛省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間150件以上の講演・研修を行う。著書に『言いにくいことを伝える技術 ~もう振り回されない! ストレスフリーな人間関係を一瞬で手に入れる』(ぱる出版)、『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー携書)など。
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