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【メソッド】

メンタルアップコミュニケーション 人が辞めない職場づくり

日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子氏による連載。職場におけるコミュニケーションの注意点や、ストレスマネジメントの方法など、健やかに毎日を過ごすヒントを紹介しています。
メソッド2019.10.31

Vol.3 マネジメントが楽になる考え方

捉え方の傾向を知る

誰にでも思考の癖があります。「考え方の特徴」とも言えるのですが、この傾向を自分自身で自覚することが、マネジメントには重要です。

例えば、誰かに何かを指摘されたとき、「失礼だ」と感じて腹が立つこともあれば、「よく見ているな」と、あえて伝えてくれたことを好意的に捉えることもあると思います。指摘をした相手や内容にもよりますが、この「捉え方」が、気持ちや言動に大きく影響します。まず、この傾向を自分で知ることが大切です。自分を理解することは、他人を理解することにも大いに役立ちます。

自分の性格について自己紹介をしてくださいと言われたら、ご自身をどのように紹介するでしょうか。少し考えてみてください。長所と短所、どちらを中心に話しますか?

長所を中心に話す方はプラス思考、短所を中心に話される方はマイナス思考の傾向があります。「運がいいと思っている人ほど成功しやすい」といったこともよく言われますが、前向きな気持ちは良いパフォーマンスにつながり、力を発揮しやすくなります。同じ現象を目の前にしたときの捉え方が違うからです。

コップに水が半分入っているという状態を見て、「まだ半分ある」と捉える人と「もう半分しかない」と捉える人がいます。

前者は、ゆとりと安心、後者は焦りと不安を生みやすくなります。もちろん経営者には、慎重さやリスク管理が大切であり、後者の感覚も大切ではあるのですが、前に進むには、失敗を恐れるよりも失敗を乗り越えられる感覚が大切です。

それを確立するための方法の一つとして、「リフレーミング」(枠組みを変える)という考え方があります。例えば、「せっかち」と聞くと、落ち着きがないマイナスなイメージを持ちやすいですが、「機転が利く」「行動が迅速」と表現すると、プラスのイメージになります。

物事には、良い面も悪い面もあります。違う角度から、より良い捉え方をする意識があると、自分自身の自信につながり、ゆとりが生まれます。

部下指導においても、リフレーミングは有効です。人は、自ら変わろうとしない限り変わることはなく、他者が誰かを変えることはできません。部下の短所だと思っていたことを、リフレーミングによって長所と捉えられれば、相手が変わらなくても相手の良いところを見つけられます。すると、部下はあなたからの承認を実感することができるため、自信を持ち、やる気が育まれ、それに伴って行動変容する可能性が高くなるのです。

リフレーミングによって、まずは自分への見方を振り返り、さらには、他者への見方を変えていきましょう。

 

 

 

 

譲れない部分以外は寛容に

完璧主義や理想の高い方に多く見られるのが、100点を取れなければ0点と同じ(0か100か)という思考です。私たちは、小さな成功体験を繰り返し、達成感や充足感を次のモチベーションにつなげていきます。しかし、0か100かの考えだと、完璧を目指したいあまりに少しのミスでも「ダメだ」と思いやすく、なかなか達成感を得ることができません。人よりうまくいっていたとしても、自分の基準値が高いので、満足できずに自己嫌悪に陥ったり、自信をなくしたりしかねないのです。

国家試験でも、一定の基準をクリアすれば合格できます。完璧を目指す気持ちは大切ですが、ある程度できればOKという気持ちを持つことも必要です。ミスをしないようにとの緊張感が余計にミスを誘発してしまうこともありますし、相手にも完璧を求め、取るに足りないことでダメ出しをすることが多くなってしまいます。

ささいなミスすら許されない職業もあると思いますが、譲れない部分以外は、基本的には寛容でいることが自分にとっても相手にとっても好循環を生みます。

 

 

 

「べき」思考を手放す

また、心を束縛し不快にさせる捉え方が「べき」思考です。「こうすべき」「こうあるべき」という、強い呪縛のような思考のことです。

この思考は、自らの行動に対して必要以上にプレッシャーを掛けるため、非常に窮屈な思いを抱えがちになります。また、思い通りにならなかったときに、さらに自分を責めてしまうという繰り返しになり、自らに過剰な負荷をかけて苦しむ傾向があります。

他人に対してこの思考が働くと、相手が思い通りに行動してくれないことや、要求を受け入れなかった場面で腹が立ち、相手を批判してしまう傾向が強くなります。いずれにしても、物事に対して融通が利きにくく、気持ちのゆとりがありません。

実際の相談の中でよく見られるのが、この「べき」に苦しんでいる方々です。極端な例を挙げれば、「部下は上司に従うべき」という思いが強いと、部下からの意見を反発と捉えます。すると、いらぬところで相手に対して攻撃的になってしまったりするのです。

また「べき」思考にとらわれると、視野が狭くなり、理屈で物事を捉えやすくなります。結果、自分の気持ちに意識が向きづらく、自分自身の中で、行動と感情の整合性が取れずに心のバランスを崩しやすくもなります。

「べき」思考は、気持ちの柔軟性を奪い、あたかも他に選択肢のない正論のように自分自身を、そして相手を追い詰めます。

ですから、自分の気持ちに目を向け、そこまでしてこだわることなのかを、あらためて確認することも大切です。そして、少しずつ「べき」思考を手放していくことが重要です。例えば、「~すべき」「~でなくてはならない」と考えるのではなく、「~に越したことはない」と少しシフトチェンジするだけでも、心への負担がかなり軽減されます。

ちょっとした捉え方の差が、気持ちのゆとりに大きな違いを生んでいくのです。ぜひ、思考癖をプラスに、そして柔軟に考えをシフトするよう意識してみてください。自分自身との向き合い方が変わると、他者との関係性に好影響を与え、マネジメントをスムーズに行う一助になります。

 

Profile
大野 萌子Moeko Ono
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。内閣府、防衛省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間150件以上の講演・研修を行う。著書に『言いにくいことを伝える技術 ~もう振り回されない! ストレスフリーな人間関係を一瞬で手に入れる』(ぱる出版)、『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー携書)など。
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