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【メソッド】

メンタルアップコミュニケーション 人が辞めない職場づくり

日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子氏による連載。職場におけるコミュニケーションの注意点や、ストレスマネジメントの方法など、健やかに毎日を過ごすヒントを紹介しています。
メソッド2019.08.30

Vol.1 リーダーに必要な自分と向き合う時間

職場環境イコール人間関係

職場の悩みに関わり18年になりますが、企業内のカウンセリング、人事相談、研修内容の打ち合わせをしている中で、最も多い相談が「職場の人間関係に関すること」です。それは、最初の時点では表面化しないことも多く「体調が悪い」「仕事が向かない」「モチベーションが上がらない」「仕事量が多すぎてつらい」など、自分自身に関する心身の不調を訴えるケースや、「勤怠や態度の悪い職員がいる」という周囲の人に関する相談から始まります。そして、話を聞いていくと「上司や職場の人への不満や憤り」に行き着きます。私の経験上、心身の不調と仕事に対するモチベーション低下要因の9割が、この「職場における身近な人間関係」です。

内容としては、「大変な状況にもかかわらず上司に分かってもらえない」「つらく当たられる」など、関係性の中で起こってくるものだったり、「相談する相手がいない」「職場に自分の居場所がない」など、関係性そのものを築けないケースだったり、さまざまです。いずれも、職場環境イコール人間関係であることに違いはなく、コミュニケーションの在り方についての認識や改善が求められます。

ただ、実際にはさらなる問題があります。本人と周囲の感じ方にはギャップがあり「職場には何ら問題がない」と答えるリーダー(経営者や管理者)は多いのです。大きな問題が起こらない限り、見て見ぬふりをするというのは得策ではありません。なぜなら、実際に休職者や退職者、転職希望者に話を聞くと、建前上は業務の負荷、体調や家族を問題としていますが、本音は身近な人間(特に上司)との関係性が大きく影響しているからです。

よって、「多少、人間関係がスムーズにいっていなくても、本人が仕事をきちんとこなしていればよい」などと考え問題を放置すると、じわじわと土台から崩れていく原因になります。勤怠の良くない社員を抱えているだけでも職場の士気は下がりますし、休職者を1名出せば、フォローするための人件費がかかります。さらに、退職者を出せば、募集・採用・教育と多大な費用と時間を負担することになります。

ますます人材確保が難しくなっていく中、職場環境を良好に保ち、生産性を上げ、離職率を減らすには、職場における日々のコミュニケーションの質を向上させるのが重要です。数字で表すことが難しく、ある意味つかみどころのない、「関わり方」の質を上げていく具体的な方法を、本連載では12回にわたってお伝えしていきたいと思います。

 

コミュニケーションの基本は自己理解

コミュニケーションを「他者を理解し、受け入れること」と、自分以外の人に対しての関わり方と捉えている方も多いと思いますが、しょせん人のことは分かりません。どんなに思いをはせたところで「推測」にすぎず、残念ながら確かなものではありません。もちろん相手を思いやる気持ちは必要ですし、関わり方のスキルを身に付けることで、ある程度の精度を高めていくことは可能です。

その半面、確かなものがあります。それは「自分自身」で、それを認識できるのは自分でしかありません。しかし、その自分の気持ちさえ、つかみきれないことがあるのです。それは、自分以外のことに目を向け、常に事実確認や状況把握をし、分析をするといった思考を積み重ねてきて、自分の感情を後回しにしてきたゆえんでもあります。社会生活を積み重ねていくと、自分に向き合う作業は意外と難しく、見たくない部分や認めたくない部分があると、なおさら困難になります。そして、目をそらし続けるとますます分かりづらくなります。

さて、次の問い掛けについて考えてみてください。

「最近起こったご自身の出来事の中で、喜怒哀楽それぞれの感情を伴うエピソード(事柄)を一つずつ、全部で四つ、1分以内に思い浮かべることができますか?」

なかなか思い浮かばない、もしくは、思い浮かばない感情がある場合は、ご自身の気持ちがつかみづらく、自分自身の思いをないがしろにしている可能性があります。いま、自分がどう感じているのかを自覚するのは、実はとても大切なことです。特にマイナスの気持ちを自覚できないと、早めに対処できないばかりか、手遅れになってから初めて自覚することになります。訳もなく、イライラすることも増えるでしょう。

現に、「自分は大丈夫だと思っていたのに、気付いた時には立ち直れないほどの状況に陥っていた」というクライアントの方々を数多く見てきました。特にリーダーは、「まだいける」と頑張り過ぎる傾向もあります。心の健康を保つためには、自分の気持ちに敏感になり、早めにリカバリーを試みることが大切です。そのためにも、自分自身のことを把握する必要があるのです。

 

 

 

自分自身を客観視し、自己理解を深めよう

目的地へ行こうとするときに、現在地が分からないままでは、ゴールへ向かう手段を見つけることができません。「こうありたい」と理想や夢を描くことは、ある意味で簡単です。しかし、現在地となる自分自身を理解することは至難の業なのです。特に立場が上になればなるほど、周囲から客観的な意見をもらいにくくなります。そうするとなおさら、自分自身を見失いやすくなるのです。

そうした意味で、「自分の等身大を映し出してくれる」カウンセリングの役割は、リーダーほど重要になります。ただ、日本ではまだまだカウンセリングになじみがなく、心の不調を治すイメージが先行していてハードルが高いと思われます。ですから、まずはどのような方法でもよいので、自分自身を見つめられる場を持てるよう心掛けましょう。

今回は、その一助として、ストレス対処のためのタイプ別チェックリストをご紹介します。このチェックは、「何に」対してストレスを感じやすいかをタイプ別に明らかにするものです。自分を客観視するための自己理解のツールとしてご参考にしていただければ幸いです。

上半期が終わるのに加え、季節が後押ししてなんだかぐったりと感じている方にこそ、自分自身を振り返る時間を持っていただきたいと思います。自分の思いが明確でないとそれを相手に伝えることもできません。自己理解があってこそ他者理解も深まります。まずは、リーダーであるあなたが、自己理解を深め、コミュニケーションのための土台作りをしてみませんか。

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自分のストレスタイプを把握する

タイプに優劣はありません。タイプの傾向を知ることが大切です。
チェックリストで分かった自身のタイプについて特徴を理解し、ストレスの対処法を考えてみましょう。

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筆者プロフィール
大野 萌子 (おおの もえこ)

Profile
大野 萌子Moeko Ono
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。内閣府、防衛省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間150件以上の講演・研修を行う。著書に『言いにくいことを伝える技術 ~もう振り回されない! ストレスフリーな人間関係を一瞬で手に入れる』(ぱる出版)、『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー携書)など。
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