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メソッド2021.05.06

コロナ禍でも約4割の企業が販路開拓・商品開発に「取り組む」


2021年5月号

 

 

新型コロナウイルス感染症の再拡大に伴う2回目の緊急事態宣言が、3月21日で全面解除された。ただ、飲食店などへの時短要請が継続されるほか、大阪、兵庫、宮城で「まん延防止等重点措置」が初めて適用されるなど、予断を許さない状況が続く。

 

楽観視できないのは企業経営も同じだ。帝国データバンクの調べによると、コロナ禍による自社の業績への影響について「マイナスの影響がある」と答えた企業が76.3%に上った。5カ月連続で8割を下回ったものの、依然として高水準のままである。

 

明るい材料を強いて挙げると、「今後マイナスの影響がある」と見込む企業が8.2%(前月比4.8ポイント減)となり、1年前(2020年2月)の調査開始以降で最も低くなった。ワクチン接種の普及による感染抑制への期待感から、経済の先行き不安感が徐々に薄らいでいるようだ。

 

そうした中、新規事業の開発(既存商品の新市場展開、新商品の既存市場投入を含む)に向けた動きも見られる。大同生命保険が全国約7000社を対象に行った調査(複数回答)によると、コロナ禍の中で新たな販路開拓に取り組んでいる企業が4割近く(39%)に上った(【図表1】)。具体的な取り組みは、「自社ホームページ・SNSによる情報発信」(42%)が最も多く、「他社との業務提携」(29%)、「販売チャネルの多様化(代理店販売から直販へ切り替え、インターネット受注など)」(27%)などが続く。

 

 

【図表1】販路開拓の状況

出所:大同生命保険「中小企業経営者アンケート『大同生命サーベイ』2021年1月度調査」(2021年2月18日)

 

 

また、新商品・サービスの開発・提供についても、「取り組んだ」とする企業が36%となった。取り組み内容としては、「除菌・抗菌を考慮した商品・サービスの開発・提供」(70%)が最も多く、次いで「非接触型の商品・サービス」(23%)が挙がった。この他、BtoB(企業間取引)からBtoC(企業消費者間取引)へ業態転換する動きも見られたという。

 

とはいえ、見方を変えれば6割前後の企業が新しい取り組みを行っていないということになる。コロナ禍による業績低迷が深刻で、新規事業を考える余裕がないと見て取れる。が、コロナ禍のせいとは一概に言えない。もともと日本企業は「新規事業に及び腰」という傾向があるためだ。

 

「中小企業白書(2020年版)」によると、2013年以降に新事業領域へ進出した企業は製造業が18.3%、非製造業で16.1%と2割に満たない。検討した企業を含めても約4割で、半数以上の企業が進出も検討もしていない。世界経済情勢や国内景気動向に関係なく、新規事業への警戒感の強さがうかがわれる。

 

新規事業はリスクがあるのも事実だが、得られるメリットも当然ある。前述の白書によると、2013年以降に新事業領域へ進出した企業のうち、39.8%が販売数量と販売単価がともに上昇したと回答した。一般的に販売数量と販売単価はトレードオフの関係(数量増→単価下落、単価上昇→数量減)にあるといわれるが、新事業領域への進出により4割近くの企業が数量増加と単価上昇の両立を実現したことになる。(【図表2】)

 

 

【図表2】新事業領域進出の業績への影響(2013年以降)

※販売単価とは全製品・サービスの平均単価のことをいう
資料:東京商工リサーチ「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」
出所:中小企業庁「中小企業白書(2020年版)」

 

 

また、新たに進出した事業領域別に労働生産性の上昇幅を見ると、最終製品では「最終製品の卸売」「最終製品の組立・製造」への進出企業の上昇幅が大きい。一方、素材・部品では「素材・部品の開発・設計」の進出企業で上昇幅が最も大きい。

 

日本企業の研究開発費は14兆1694億円(2019年度、総務省「科学技術研究調査」)。米ドル換算の国際比較(暦年ベース、OECD調べ)では米中に次ぐ世界3位の規模を誇るが、この10年間(2010~19年)は伸び悩み、上位5カ国のうち日本の伸び率(1.1倍)は最も低い。

 

文部科学省の科学技術・学術政策研究所が企業1996社に行った調査によると、2019年度に支出した研究開発費のうち76%が既存事業向けで、新規事業向けは24%と約3分の1にとどまった。また、短期的な研究開発の割合(64.8%)が最も大きく、中期(23.1%)や長期(12.1%)の研究開発を大きく上回っている(【図表3】)。日本企業の研究開発は金額の規模こそ大きいものの、リスクが小さくすぐに成果が出て、早期での中止・撤退もしやすい「改良・短期投資型」の開発案件が大半を占めている。

 

 

【図表3】民間企業における研究開発の性格・目的別の内訳

出所:文部科学省/科学技術・学術政策研究所「民間企業の研究活動に関する調査報告2020(速報)」(2021年1月29日)

 

 

足元の業績が落ちると安全第一の経営判断になりがちだ。しかし、一方では不況期前後に新規事業を立ち上げ、成長を果たした企業も多い(【図表4】)。不景気に始めた事業は伸びるといわれるだけに、苦しい中でも新たな事業領域へ飛び込むことで、このコロナ不況を成長の着火点に変換できるかもしれない。

 

 

【図表4】不況下で創業・設立した主な成長企業

※カッコ内は創業・設立年
出所:タナベ経営作成

 

 

 

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