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マーケット・スタッツ

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メソッド2020.10.22

加速する営業活動のデジタル化
約9割の営業職「オンライン商談増えた」


2020年11月号

 

 

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、デジタル化へ取り組む企業の動きが加速している。帝国データバンクが2020年9月に発表した「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」によると、コロナ禍を機にデジタル施策へ「取り組んでいる」と回答した企業が75.5%を占めた。新型コロナウイルスに後押しされる形で、4社に3社がデジタル化へ動き始めたことになる。(【図表1】)

 

 

【図表1】デジタル施策への取り組み状況

※母数は有効回答企業1万2000社。「分からない」は不回答を含む
出所:帝国データバンク「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」(2020年9月9日)

 

 

デジタル施策に取り組んでいる企業を規模別に見ると、「大企業」が88.6%と9割近くに達した一方で、「中小企業」は72.7%、「小規模企業」は63.0%と、企業規模が小さくなるにつれて実行度合いは低下した。特に小規模企業は大企業を25.6ポイントも下回っており、コロナ禍によって企業間の「デジタルデバイド」(情報格差)が広がりそうだ。

 

企業の取り組み内容(複数回答)を見ると、最も多いのは「オンライン会議設備の導入」(60.8%)。次いで「テレワークなどリモート設備導入」(52.7%)、「ペーパーレス化の推進」(36.2%)、「SNSを活用した情報発信」(16.7%)、「電子承認(電子印鑑)の導入」(15.3%)、「オンラインセミナーなどの開催」(15.2%)などが挙がっている。(【図表2】)

 

 

【図表2】デジタル施策への取り組み内容(複数回答、単位:%)

※母数は「デジタル施策に取り組んでいる」企業9065社
出所:帝国データバンク「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」(2020年9月9日)

 

 

中でも、オンライン会議については企業規模にかかわらず急速に普及が進んでいる。矢野経済研究所の試算によると、ビデオ・Web会議システムの国内市場規模は2020年度に487億5000万円(前年度比20.4%増)と大幅な伸びを示し、2022年度には570億円へ達する見通しだ。主なWeb会議ツールとしては、「Zoom」や「Skype」(マイクロソフト)、「Microsoft Teams」(同)などが多く利用されている(ジェイ・ディー・パワージャパン調べ)

 

Web会議システムの普及を受け、これを社外の取引先や顧客への営業ツールとして利用する「オンライン商談」も増加しているという。営業特化型Web会議システムを手掛けるベルフェイスの調査によると、「コロナ禍でオンラインツールを使って営業する機会がとても増えた」と回答する営業担当者が68.4%に上り、「増えた」「少し増えた」を合わせると9割以上に達した。(【図表3】)

 

 

【図表3】オンラインツールを使用した営業機会

※全国の営業職の男女500名が回答
出所:ベルフェイス「オンライン営業に関する調査」(2020年9月3日)

 

 

では、どのような局面や段階でオンライン商談が行われているのだろうか。同社が行った別の調査(複数回答)によると、「既存顧客へのフォロー」(44.6%)と「新規顧客との2回目以降の商談」(31.2%)が多くを占めた。「新規顧客との初回商談」(16.2%)や「新規顧客との契約(クロージング)」(9.4%)で使われるケースは少なく、重要なアプローチにはフィールドセールス(訪問型営業)が選ばれているようだ。(【図表4】)

 

 

【図表4】オンライン商談を行うフェーズ(複数回答)

出所:ベルフェイス「オンライン商談に関する実態調査」(2020年5月18日)

 

 

オンライン商談を導入して、フィールドセールスと比べてどのような成果が上がったかについて聞くと、「移動コスト削減」(37.3%)が最も多く、次いで「リードタイムの短縮」(18.7%)が続く。受注・成約率や売り上げ、新規顧客の獲得などについては「変わらない」と回答した人がそれぞれ約7割を占めた。オンライン商談は受注に不利とのイメージもあるが、実際にはさほど影響しないとの見方が強い。(【図表5】)

 

 

【図表5】オンライン商談の成果(訪問時との比較)

出所:ベルフェイス「オンライン商談に関する実態調査」(2020年5月18日)

 

 

このうち営業活動での移動コストについて、どれくらいの削減効果が得られるのだろうか。クラウドシステム開発会社のインターパークが行った調査結果(全国の営業職500人が回答)によると、訪問営業での月間の営業経費(交通費・宿泊費など)が1万円を超える営業担当者は61.8%に上る。年間換算で12万円超となり、該当する営業社員が50人いる企業がオンライン商談を活用すると年600万円超の経費削減が見込める。また、月5万円超(年60万円超)という人も2割近く(18.3%)いる。そんな営業社員が50人いる企業では年3000万円超のコストカットになる。

 

移動コストといえば、移動に伴う機会損失(チャンスロス)も意外に大きい。前述の調査によると、訪問営業の移動時間が月50時間を超える人が全体の過半数(51.6%)を占めたという。営業担当者の月間勤務時間を160時間(週40時間×4週)と仮定した場合、約3分の1は移動時間(出張を含む)が占めている計算だ。年間では600時間超(8時間換算で75日超)となり、1年の営業日数のうち3カ月以上は利益を生まない移動に費やしていることになる。

 

さらに回答者の分布をよく見ると、月間移動時間が100時間超という人が2割近く(18.3%)いる。年間1200時間超(150日超)となり、1年の営業日数のうち7.5カ月分も移動に使っている。オンライン商談ツールを活用すれば、こうした移動時間のほとんどが商談時間となる。

 

ちなみに米ソフトウエア開発会社の日本法人であるHubSpot Japan(ハブスポット・ジャパン)が、日本企業の法人営業担当者(515名)に「働く時間のうち無駄と感じる時間の割合」を尋ねたところ、勤務時間の25.5%(回答者全体の加重平均値)が無駄だと答えたそうだ。この時間を同社が金額換算したところ、年間約8300億円に上るという。(【図表6】)

 

 

【図表6】 日本の法人営業の無駄を金額換算すると…

※1「平成30年分民間給与実態統計調査」(国税庁)の「1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与(年収)」である440.7万円を基に算出
※2法定労働時間の8時間に同社の調査で明らかになった営業担当者1日当たり平均残業時間1.5時間を加えて算出
※3「平成27 年国勢調査」(総務省統計局)の小分類「34a機械器具・通信・システム営業職業従事者」を「法人営業職」と定義
出所:HubSpot Japan「日本の営業に関する意識・実態調査」(2019年12月2日)

 

 

とはいえ、商談件数の増加とともに受注・成約件数もそれに比例して増えるかといえば、そうとも限らない。とりわけ商品購入にシビアなBtoB(企業間取引)では、商談の増加と成約数が比例しないことも多い。効率的に商談を行うだけでなく、当然ながら効果的な商談を行う必要がある。

 

経営者のマッチングサービスを手掛けるオンリーストーリーが全国のBtoB営業担当者400名に行った調査によると、商談のアポイントを取る際に重視することは「ニーズ」(92.3%)と「相手の立場(決裁者か否か)」(80.6%)が多い。効率的に営業活動を行うには、相手のニーズと立場をつかむ必要がある(【図表7】)。実際、商談相手が決裁者の場合、非決裁者より「契約率は2倍以上良くなる」と感じる営業担当者が66%を占めていた。(【図表8】)

 

 

【図表7】 BtoB商談のアポイントを取る際に重視すること

※全国の20~59歳のBtoB営業を行う会社員・会社役員400名が回答
出所:オンリーストーリー「営業に関する調査」(2020年5月14日)

 

 

【図表8】 決裁者・非決裁者の契約率の差

※全国の20~59歳のBtoB営業を行う会社員・会社役員400名が回答
出所:オンリーストーリー「営業に関する調査」(2020年5月14日)

 

 

相手の立場を見極めるコツについては(自由回答)、「役職で判断」「ストレートに聞く」というオーソドックスな方法や、「案件に対する予算を確認した時の反応を見る」「決裁までにかかる時間を確認する」「社内に他に意見を伺いたい人物がいるか確認する」などの回答も見られた。

 

また、同社は営業を受ける側(1708名)に「この人の話は聞いてみたいと思う営業」を尋ねたところ、「人柄がいい」(52.2%)、「分析力・リサーチ力が高い」(44.6%)、「資料が分かりやすい」(43.9%)などが上位を占めた(【図表9】)。値下げに応じてくれる人やプレゼンテーションがうまい人よりも、人柄の良さや分析力の高さを重視する人が多い。

 

 

【図表9】 この人の話は聞いてみたいと思う営業 (複数回答)

※全国の男女20~50歳代の会社員・会社役員1708名が回答
出所:オンリーストーリー「営業体験実態リサーチ」(2020年4月15日)

 

 

特に、画面越しで対面するオンライン商談では相手の感情や空気を読み取りづらく、提案側の誠意も伝わりにくいため、判断材料となる営業資料の質が大きな鍵を握る。提案内容の説得力を高めるためにも、調査・分析をしっかりと行いたい。

 

 

 

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