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メソッド2020.04.30

企業の研究開発の約7割が「短期的」「既存事業」「ニーズプル型」


2020年5月号

 

 

企業が持続的成長を図る上で生命線と言えるのが「研究開発投資」だ。これが減り続けると企業の付加価値も低下していき、最終的には市場での競争力を失う。研究開発費は企業の未来の成長スピードを示すバロメーターでもある。

 

ところで、日本企業の研究開発投資はどの程度支出されているのだろうか。総務省が毎年発表している「科学技術研究調査」から企業の支出分(科学技術研究費)を見ると、直近の2018年度は14兆2316億円(前年度比3.1%増)と2000年度以降で最高額に達している。(【図表1】)

 

 

【図表1】企業の科学技術研究費推移

出典:総務省「2019年(令和元年)科学技術研究調査結果」(2019年12月13日)

 

 

ちなみに2018年度の内訳を見ると、全体の4割近く(39.1%)を「人件費」(5兆5632億円)が占めている。次いで「その他の経費」(5兆132億円)、「原材料費」(2兆2893億円)、「有形固定資産購入費」(1兆1371億円)、「無形固定資産購入費」(1931億円)などが続く。売上高に対する研究費の比率(全産業平均値)は前年度に比べ0.09ポイント増の3.39%だった。

 

次に、研究活動に関係する従業者数の推移を見てみよう。2019年3月31日時点の従業者数は61万1500人(前年度比1.3%増)。このうち8割が研究者(同1.2%増の50万4700人)で、研究者1人当たりの研究費は2820万円(同1.9%増)だった。

 

一方、日本企業はどのような分野・目的で研究を行うために予算を投じているのか。文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が2020年1月に発表した調査結果によると、民間企業の研究開発の7割以上が「短期的」(1~4年で実施)かつ「既存事業向け」で「ニーズプル型」(顧客ニーズ主導)の案件だった。「中長期的」(5~10年)や「新規事業向け」「シーズプッシュ型」(自社技術主導)の案件はいずれも2割程度だった。(【図表2】)

 

 

【図表2】研究開発の目的

出典:科学技術・学術政策研究所「民間企業の研究活動に関する調査報告 2019」(速報、2020年1月31日)

 

 

実際、企業の科学技術研究費(2018年度)の内訳を見ると、主に研究者個人の好奇心で行われる「基礎研究」(実験的な研究)が1.1兆円、基礎研究の実用化を試みる「応用研究」が2.3兆円であるのに対し、具体的な製品化を目指す「開発研究」は10.7兆円と全体(14.2兆円)の7割以上を占めている。基礎・応用研究は懐妊期間(研究開始の決定から成果が出るまでの期間)が長く、利益に直接貢献しないため避けられる傾向がある。

 

ただ、リスクが低い安全志向の開発からは、既存の業界構造を劇的に変える「破壊的イノベーション」や尖った技術・製品開発は生まれにくい。そうした研究開発は、従来の組織図や意思決定プロセスから外れた領域で生まれることが多い。そこで近年、イノベーションの創出拠点として「出島」を設ける戦略が注目されている。“出島”とは気兼ねなく試行錯誤できるよう大胆な権限委譲と治外法権を認めたベンチャー開発部隊のこと。名称は、鎖国政策下の江戸時代に唯一の国際貿易特区として設置された長崎の出島に由来する。

 

2019年10月に日本生産性本部が行った調査結果によると、出島を設置している企業の割合は23.2%。ここ数年、大手企業を中心に出島を設ける動きが活発化している(【図表3】【図表4】)。出島を通じて大学・公的機関・異業種他社などと連携し、オープンイノベーション(社外連携によるイノベーション活動)を推進することで社外のリソースやノウハウを活用できるほか、開発費の支出や人的負担を抑えられるメリットもある。

 

 

【図表3】自社は出島を設置しているか

出典:日本生産性本部「イノベーションを起こす『リスクを取る経営』に関するアンケート調査(第2回)」(2019年10月)

 

 

【図表4】主な企業の「出島」事例

出典:日本生産性本部「イノベーションを起こす大企業実現に向けて 中間報告」(2019年12月)

 

 

開発予算・開発人材が不足し、リスクをとれない企業にとっては、出島戦略が有効な開発手段の一つになり得るだろう。

 

 

 

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