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コラム2020.01.31

建設業の2020年景気見通し、「悪化」が7年ぶりに3割超す
人手不足と賃金上昇トレンドが懸念材料


2020年2月号

 

 

他産業を尻目に、建設業の景況感が高水準だ。日本銀行の「全国企業短期経済観測調査」(日銀短観)の業況判断指数(「良い」と答えた企業割合から「悪い」と答えた企業割合を引いた指数、DI)で、建設業(全規模)は12期連続(2017年3月期~2019年12月期)のプラス20台を維持した。

 

建設企業の倒産件数も年々減っている。2018年度の倒産件数(負債総額1000万円以上、東京商工リサーチ調べ)は1405件と10年連続の減少。また2019年度上半期(4~9月)では731件と、年度上半期ベースでは11年連続の減少となった。いずれも東日本大震災の復興需要と東京オリンピック・パラリンピック関連特需が背景にある。

 

では、建設業の「ポスト2020」の見通しはどうか。業界では五輪関連需要の剝落や住宅需要の低下などによる景気減速の警戒感が強まっている。帝国データバンクが建設会社に2020年の景気見通しを尋ねたところ(1575社が回答)、「悪化局面」を予測する企業が36.1%(前回調査比8.7ポイント増)と、悲観的な見方が7年ぶりに3割を超えた。経済産業省が算出する「建設業活動指数」は、2019年10月に108.9(前月比0.3%減)と5カ月連続で低下。また110台を2カ月連続で割り込み、同年5月の114.4から5カ月で5.5ポイントも急降下した。前年同月比も0.7%減と引き続き前年水準を下回った。すでに停滞の兆しが表れ始めている。

 

ただ、政府は2019年12月に五輪後の景気下振れリスクへの備えとして、国土強靱化を柱とする事業規模約26兆円(財政支出は13.2兆円程度)の大型経済対策を決定。このうち建設関連は台風15号・19号など自然災害の復旧・復興や防災・減災、老朽インフラの改修などで7兆円の事業規模を見込む。これにより建設業は東京オリンピック後も堅調に推移する公算が大きくなった。

 

建設業の懸念材料は外部環境よりも内部にある。とりわけ人手不足が深刻だ。日銀短観の雇用人員判断DI(全規模、「過剰」―「不足」)を見ると、建設業はマイナス51(2019年12月期)とバブル期並みの水準にある(【図表1】)。建設業関連職種の有効求人倍率(常用、パートタイマーを除く)も約5~12倍(2019年10月)と全産業平均に比べ際立って高く、労働需給が逼迫している。

 

 

【図表1】雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)の推移(全規模合計)

※2020年3月は予測 出典 : 日本銀行「全国企業短期経済観測調査」

 

 

深刻な人手不足と活発な建設投資による業績改善を背景に、建設業の賃金は上昇を続けている。例えば、建設業の大学卒初任給(男女計、2019年)は21.7万円。「学術研究、専門・技術サービス業」(22.7万円)や「情報通信業」(21.8万円)に次いで3番目に高い。10年前(2009年)との比較では、建設業(9.2%増)の伸び幅が全産業中で最も大きい。

 

また、建設業の平均月給(男女計、残業代を除く)は2018年で33.5万円と10年前(2008年:31.7万円)から1.8万円増えた一方、産業平均はその半額以下の約7000円増にとどまっている(29.9万円→30.6万円)。

 

東京商工リサーチの調べによると、上場企業1841社の中で平均年間給与(2019年3月期決算)が最も高い業種は「建設業」(749.3万円)だったという。2017年3月期から3期連続でトップを維持し、「金融・保険業」(646.2万円)を上回る。また、最も順位が低い「小売業」(486.7万円)とは1.5倍の差があった。

 

労働市場の実勢価格上昇を受け、国土交通省は公共工事の入札で予定価格の算出などに使う「公共工事設計労務単価」を7年連続で引き上げた。2019年度は1万9392円(全国全職種平均値)と、単価公表が始まった1997年以降で最高額になっている。

 

この人件費(労務費を含む)の負担増で、建設業の採算悪化が懸念されている。財務省の「法人企業統計調査」から算出した2018年度の建設業の売上高人件費率は16.3%(前年度比0.3ポイント増)、労働分配率は72.9%(同0.2ポイント増)となり、それぞれ2年連続で上昇している。(【図表2】)

 

 

【図表2】 売上高人件費率と労働分配率の推移(金融・保険業を除く)

売上高人件費率=人件費(役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費)÷売上高×100 労働分配率=人件費÷付加価値額×100
出典 : 財務省「法人企業統計調査(時系列データ)」

 

 

2020年4月から「パートタイム・有期雇用労働法」が施行(中小企業は2021年4月~)され、正社員・非正規社員の不合理な待遇差を禁じる「同一労働同一賃金」の徹底が求められる。非正規社員の処遇改善により、人件費負担がさらに増すことが見込まれる。

 

人手不足と人件費の上昇は人材の流動化につながる。人材サービス会社の「JAGフィールド」が2019年10月に行った調査結果によると、建設企業で働く人(男女1086人)の7割近く(68.2%)が「転職を検討したことがある」と回答した。転職を考えた理由を聞くと、「給料が上がらない」(27.8%)、「休みが取れない」(25.8%)、「人間関係の煩わしさ」(25.1%)、「残業が多い」(18.8%)などが続く。

 

賃上げで人材を集めやすくなった半面、既存社員の転職リスクも高まっている。賃金原資が限られる中小建設業は、現場のICT施工や業務のデジタル化で生産性向上を図り、完全週休2日制の実現や長時間労働の是正を進めるなど、自然に人が集まる職場づくりの工夫が求められる。

 

 

 

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