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メソッド2019.07.31

日本は本当に「先進国で最も不幸な国」?
世界幸福度ランキング―― 日本58位

2019年8月号

 

 

近年、さまざまな研究結果から、幸せな従業員が多ければ多いほど企業経営は安定することが分かってきた。とはいえ、日本で「私は幸せだ」と自覚する人は、一体どれだけいるのだろうか。

 

 

国連の「持続可能開発ソリューション・ネットワーク」が発表した最新版(2019年)の世界幸福度ランキングによると、トップはフィンランド。2年連続で「世界で最も幸福な国」に選ばれた。次いでデンマーク、ノルウェー、アイスランドなどと北欧諸国が続いた。上位20カ国のうち2カ国(12位コスタリカ、13位イスラエル)以外は全て欧米諸国が占めた。(【図表1】)

 

 

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出典:国際連合・持続可能開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)「世界幸福度報告書2019」

 

 

さて、日本はどうか。日本人の幸福度は世界156カ国・地域中、なんと過去最低の58位だった。同ランキングの集計は2012年から始まったが、日本はこれまでの最高位が43位(2013年)で、実は上位20カ国に入ったことが一度もない。しかも、2016年以降は50位台にとどまったままだ。当然ながら、先進7カ国(G7)では圧倒的な最下位である。

 

それにしても、世界第3位の経済大国で、世界最長寿の国でもある日本が、治安の悪さで知られるコロンビア(43位)や経済危機を繰り返すアルゼンチン(47位)よりも幸福度が下回るというのは、多くの日本人が納得しないだろう。

 

そもそも、このランキングは米ギャラップ社が実施する世論調査が基になっている。世界各地の調査対象者に現在の生活満足度を10段階(0:最低、10:最良)で答えてもらい、その平均値が高い国・地域順に並べたものだ。つまり、客観的な統計データからはじき出されたものではなく、あくまで個人の主観に基づく幸福度であることに注意を要する。

 

ちなみに、1位のフィンランドの幸福度数は「7.769」、それに対して日本は「5.886」。日本の数値は、“普通より少し幸せ”という水準で、他国より明らかに不幸なわけではない。謙虚な国民性が表れた自己評価とも言える。

 

実際、内閣府が毎年行っている「国民生活に関する世論調査」を見ると、現在の生活に「満足」「まあ満足」(以降、生活満足度)と答えた人の割合は、2018年6月調査分で計74.7%(前年調査比0.8ポイント増)となり、1963年の調査開始以来で最高となった。逆に、「不満」「やや不満」(以降、生活不満度)と答えた人は過去最低の24.3%だった。(【図表2】)

 

 

出典:内閣府「国民生活に関する世論調査」

 

 

同世論調査の結果をさかのぼって見てみると、東京オリンピック開催を控えた1963年は生活満足度が63.6%、生活不満度は30.9%だった。当時は高度経済成長期の真っただ中で、人々も希望に満ちあふれていたと思われるが、生活満足度は現在とそう変わらない。バブル崩壊(1991~1993年)の頃の推移を見ても、生活満足度は7割弱で、深刻な不況だった割には過半数の人が満足だと答えている。

 

不満度が4割に達した年は何度かあったものの、満足度が半数を下回ったことは一度もない。こうして見ると、日本人の幸福度は定量的に捉えると高くないが、定性的に捉えるとそう悲観するほど低くないことが分かる。

 

一方、同期間(1963~2017年)における日本の名目GDP(国内総生産)総額と、民間企業に勤める人の平均年収額を見てみると、名目GDPは26兆2069億円(1963年)から545兆1219億円(2017年)と20.8倍に、平均年収は42.1万円(1963年)から432.2万円(2017年)と約10.3倍にそれぞれ大きく伸びている。(【図表3】)

 

 

出典:内閣府「日本経済2018-2019 景気回復の持続性と今後の課題」(2019年1月)、国税庁「民間給与実態統計調査」

出典:内閣府「日本経済2018-2019 景気回復の持続性と今後の課題」(2019年1月)、国税庁「民間給与実態統計調査」

 

 

物価水準の変動を加味していないため単純に比較はできないが、日本は約半世紀の間に途上国から先進国へと驚異的な経済発展を遂げ、かつ所得水準が大きく向上したにもかかわらず、日本人の生活満足度はさほど上がっていない(6割→7割)という見方もできる。つまり、収入と幸福度は必ずしも一致しないということだ。

 

では、日本人はどのように働くことを「幸せ」だと感じるのだろうか。前述した内閣府の世論調査から、「どのような仕事が理想的か」という設問に対する回答の構成比を時系列(1997~2018年、複数回答)で追ってみよう。

 

1997年時点で、最も多かった回答項目は「収入が安定している仕事」(49.2%)だった。次いで「自分にとって楽しい仕事」(36.3%)、「自分の専門知識や能力が生かせる仕事」(35.5%)、「健康を損なう心配がない仕事」(23.0%)などが続く。

 

一方、2018年調査では、それぞれ上位三つの順位に変わりはないが、「自分にとって楽しい」の回答比率が57.8%と半数を超え、1997年調査に比べて21.5ポイントも多い。「収入が安定」は同10ポイント増の59.2%、「専門知識や能力が生かせる」は2.5ポイント増の38.0%だった。(【図表4】)

 

 

※1999年12月調査までは「職場で楽しく働ける仕事」出典:内閣府「国民生活に関する世論調査」

※1999年12月調査までは「職場で楽しく働ける仕事」
出典:内閣府「国民生活に関する世論調査」

 

 

この“楽しい仕事”の定義は人によって千差万別であるが、「やらされ感」のない、やりがいのある仕事こそが楽しい仕事ではないだろうか。

 

「自分で物事を決定できる」「選択の自由がある」仕事が幸福感を高めるという研究結果がある。神戸大学・社会システムイノベーションセンターの西村和雄特命教授と同志社大学・経済学研究科の八木匡教授は2018年8月、国内2万人に行ったアンケート調査を分析し、日本人が感じる主観的な幸福度は所得や学歴よりも「自己決定」が強い影響を与えるとの研究結果を発表して話題となった。

 

具体的には、人の幸福感は所得(世帯年収)が増加するにつれて高まるが、所得の増加率ほどは上昇せず、その上昇率も年収1100万円を境に下がっていく傾向が見られた。

 

西村・八木両氏によると、自分が進む道を自ら決定した人は、自分の判断で努力することで目的を達成する可能性が高くなり、成果に対しても責任と誇りを持ちやすくなる。その達成感や自尊心によって幸福感が高まるということらしい。

 

日本企業は従来、個人で自由に選択できる範囲が狭く、集団による意思決定や上長の指示命令に従うことが重視されてきた。企業が社員幸福度を向上させるには、現場への権限委譲をより進め、自己決定度の高い人材(自分の行動を自ら決められる人)を増やしていくことが望まれる。

 

 

 

 

 

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