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メソッド2019.06.28

進む「経営の担い手」不足
30歳代の後継者育成が急務

日本企業は今後5~10年内に、「大事業承継時代」を迎える。団塊世代」(1947年生まれ)に当たる大量の経営者が、経営交代期に入るためだ。しかし、日本企業の後継者不在率は6.4%(2018年、帝国データバンク調べ)。後継者の選定や育成を先延ばしにしている中小企業が少なくない。

 

 

【図表1】経営の担い手の推移

※経営の担い手:会社などの役員または自営業主出典:中小企業庁「中小企業白書(2019年版)」

※経営の担い手:会社などの役員または自営業主
出典:中小企業庁「中小企業白書(2019年版)」

 

 

日本では少子高齢化の進展が叫ばれて久しいが、それは企業においても同様だ。「中小企業白書(2019年版)」によると、日本企業の「経営の担い手」(企業などの役員または自営業主)の推移は、59歳以下が1992年から2017年にかけて約45%減少した一方、60歳以上は同期間に約25%増加したという。(【図表1】)

 

60歳以上の構成比は92年時点で約31%だったが、2017年は約51%と過半数に達し、59歳以下を逆転。経営の担い手の少子高齢化が進んでいる。

 

とりわけ経営者の高齢化は深刻だ。東京商工リサーチの調べでは、2018年の全国社長の平均年齢は61.73歳と最高齢を更新。年齢分布を見ると、70歳以上の構成比が28%と3割近くに達し、過去最高を記録した。2011年時点では19%と2割以下だったため、ここ数年で一気に高齢化が進んだことが分かる。(【図表2】)

 

これは、中小企業を中心に事業承継の遅れから新陳代謝が進まず、さらには団塊世代の経営者が古希(70歳)を迎えたことも大きな要因である。社長の平均年齢(2018年)を産業別に見ると、不動産業(63.4歳)、卸売業(62.9歳)、小売業(62.7歳)などの高齢化が目立つ。全10産業のうち、50歳代は情報通信業(56.8歳)だけ。大半の産業の経営者は還暦を越えている。

 

 

【図表2】全国社長の年齢分布

出典:東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査(各年)」

出典:東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査(各年)」

 

 

ところで、経営者の年齢と企業の業績は一定の相関性があるといわれている。実際にはどうなのだろうか。

 

社長の年齢別に業績状況を比較すると、経営者が70歳代以上の企業は「減収」「赤字」が最も多い。「連続赤字」も唯一の2桁台(10.65%)で、経営者の高齢化に伴うマイナスの影響が強く出ている。(次頁【図表3】)

 

 

【図表3】社長年齢別の業績状況(単位:%)

※着色部は最高値を示す出典:東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査(2018年)」(2019年2月14日)

※着色部は最高値を示す
出典:東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査(2018年)」(2019年2月14日)

 

 

その結果、休廃業・解散企業が急増している。2018年に全国で休廃業・解散に至った企業は4万6724件(前年比14.2%増)と、同年の倒産企業件数の5.7倍に達した。倒産件数は10年連続で前年を下回っているのに、休廃業・解散企業は確実に増えているのだ。(【図表4】)

 

なお、休廃業・解散企業の経営者の年齢分布は70歳代以上が過半数(54.7%)を占めており、事業承継の遅れによる高齢化が原因なのは明らかである。

 

 

【図表4】休廃業・解散企業件数の年次推移(カッコ内は前年比、▲は減)

出典:東京商工リサーチ「2018年『休廃業・解散企業』動向調査」(2019年1月21日)

出典:東京商工リサーチ「2018年『休廃業・解散企業』動向調査」(2019年1月21日)

 

 

2018年に休廃業・解散した企業の従業員数は合計13万3815人(前年比24.1%増、東京商工リサーチ調べ)。もし、円滑に事業承継がなされていれば、13万人超もの人々が失業や離職を余儀なくされることはなかったはずだ。

 

企業の事業承継に関して、東京商工会議所が2018年1月に「事業承継の実態に関するアンケート調査報告書」を公表した。その中で同所は、事業承継の準備・対策を進めるためには“後継候補者”ではなく後継者を早期に決定すること、そして後継者の年齢は30歳代が望ましいと指摘している。

 

なぜ、30歳代なのだろうか。報告書によると、30歳代で事業を引き継いだ経営者は、承継後に業況を好転させる割合が高いという。バブル崩壊後の1993年以降に事業を継いだ経営者895名に対して承継後の業況を尋ねたところ、「良くなった」と答えた割合が最も高かった年代は30歳代(57%)だった。(【図表5】)

 

 

【図表5】承継後の業況(年代別)

※バブル崩壊後の1993年以降に事業を引き継いだ経営者895名が回答出典:東京商工会議所「事業承継の実態に関するアンケート調査報告書」(2018年1月25日)

※バブル崩壊後の1993年以降に事業を引き継いだ経営者895名が回答
出典:東京商工会議所「事業承継の実態に関するアンケート調査報告書」(2018年1月25日)

 

 

一方、40歳代以降は年代が上がるにつれて「ほぼ横ばい」の割合が増える傾向が見られた。20歳代は「悪くなった」の割合が他の年代よりも高かった。

 

また、承継後の取り組みを聞いたところ、「新たな販路開拓」を行う経営者は20~50歳代が多い。「新商品・新サービスの開発」を行ったのは30歳代の経営者が最多だった。(【図表6】)

 

 

【図表6】事業承継後の新たな取り組み(年代別)

※バブル崩壊後の1993年以降に事業を引き継いだ経営者895名が回答出典:東京商工会議所「事業承継の実態に関するアンケート調査報告書」(2018年1月25日)

※バブル崩壊後の1993年以降に事業を引き継いだ経営者895名が回答
出典:東京商工会議所「事業承継の実態に関するアンケート調査報告書」(2018年1月25日)

 

 

マネジメント面についても、中期計画の策定や経営の見える化、経営理念の明確化などへ積極的に取り組むのは、20~40歳代前半の経営者の方が多かった。

 

同報告書によると、「後継者候補はいる」企業は、後継者を誰にも周知していないケースが多いという。そのため経営者が高齢となり、候補者に承継の意向を伝えて難色を示された場合、時間的猶予が残されていないため廃業に直結する危険性が大きいと指摘している。

 

円滑な事業承継を進めるためにも、経営者は自身の年齢で承継を判断するのではなく、早期に30歳代の後継者を決定し、経営の承継を検討すべきだとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

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